2度目。ーー早速授業が始まります。外国語の。・7
すみません。遅くなりました。
ドミーの事は、取り敢えず今日はもうどうにもならないからまた今度にしよう。
多分、こう考えている事自体、逃げているだけなのだと思う。頭では逃げているって理解しているくせに、心は拒否をして身体が心に引っ張られるように動かない。……情けない。情けないけど私は“現在の状況”に集中する事にした。
「ケイトリン? どうかした?」
「いいえ。何も。アリシャさん、他に必要な物って有る?」
「特別無いわ。何か気になった物が有ったら買っていく?」
「ううん。今はいいかな。また今度で」
「そう? じゃあ後は皆ね。皆は買う物有るのかしら?」
ジュスト・ゼフォル君・カリオン君の3人が一斉に首を振ったので、スケッチブックノート(もうめんどくさいからこの呼び名でいいや)を持って学園に帰った。男子寮と女子寮の分かれ道でスケッチブックノートをゼフォル君が管理してくれる事になり、託す。明日の午後から課題に取り組む事だけを話し合って私はアリシャさんと女子寮へ足を向けた。
「そういえば、尋ねようと思ったけど。アリシャさんは何故ドナンテル殿下の婚約者に? ノクシオ殿下じゃなくてよかったの?」
「私、腹黒い男って嫌いなの」
「あー……」
スッパリとした返答に私は苦笑する。確かにノクシオ殿下は真っ黒だ。腹だけじゃなくて全身真っ黒だと思う。
「それと。ドナンテル殿下は迷子みたいな顔をしていたのよね」
「迷子?」
アリシャさんの迷子発言に首を傾げてしまう。
「ええ。なんていうか。灯りを照らしていた誰かが居なくなってしまって、心細そうに肩肘張って歩いているような顔をしてた。そんな顔を見たら放っておけなくて。恋愛感情、とは言わないけれど。そんな顔をしているドナンテル殿下を支えるくらいは出来そう、と思って。灯りは照らせないかもしれないけれど、一緒には歩けますって言ったら婚約を申し込まれたのよ」
アリシャさんがふふっと笑って、なんだか可愛い人だなって思う。
「殿下方の友人の称号も頂いている身としては、友人にそのような相手がいて嬉しいです。ドナンテル殿下とアリシャさんの未来が幸せ多いものになるように願わせて頂きますね」
「ありがとう。頑張って彼を支えるつもりよ」
「それと。ノクシオ殿下のお相手ってどんな方なのでしょう?」
ドナンテル殿下とノクシオ殿下に婚約者が出来た報告だけは聞いていたけれど、お相手についてはどちらも何一つ情報が無かったので尋ねたのだが。アリシャさんはフフフと先程とは打って変わって黒いオーラが見えそうな笑みを浮かべた。
「彼は、さすが腹黒よね。国内で全く力を持っていない伯爵位のご令嬢を婚約者にしていたわ」
それって……最大派閥のトップであるコッネリ公爵が失脚した事で、コッネリ公爵一派を毛嫌いしていた反対派閥か何かが台頭して来たけれど、そちらと懇意にするのも面倒くさいから、どちらの派閥にも属さない、良く言えば中立派。悪く言えばどちらの派閥からも見向きもされない家に目をつけて婚約者にした、という所かしら……。
「成る程。良く言えば中立派の家から婚約者を選んだ、と」
「さすがね。良く分かったわね」
「ノクシオ殿下の考えそうな事ですから」
私が言い当てれば、アリシャさんが目を丸くするので、肩を竦めておく。ノクシオ殿下なら毒にも腐りにもならない派閥から娶るのが一番楽なのかもしれないけれど。
「相手の女性が納得済みなら構わないのですが、そうでないなら相手の女性に同情しますね。ノクシオ殿下に振り回されないと良いんですけど」
「そうね。大人しい感じの人だったから心配では有るけれど、ノクシオ殿下もそういった気性を加味して婚約者に選んだようで、こまめに声をかけて面倒を見ていたと思うわ」
えっ? ノクシオ殿下が? いや、まぁ他人を気遣える事はいい事だし、きちんとフォロー出来るならそれはそれで良いかもしれない。腹黒い人だけど情に厚い人でもある。だってドナンテル殿下を仕方ない人だ、と子どもの頃に解っていたくせに。それでも兄ヅラをしている鬱陶しいドナンテル殿下を見捨てなかった人だ。子どもながらにそんな情の厚さがノクシオ殿下に有る事を知って、私は子どもらしい一面もある事に安堵していた。
だからノクシオ殿下のその様子を知って胸を撫で下ろした。そうやって気遣える相手がいるという事は、ノクシオ殿下にとって大きな財産になるだろう、と私は思う。ドナンテル殿下もノクシオ殿下も互いに似合った相手を見つけた様子、安心した。
すみません、色々ありまして明日以降の更新時刻がバラバラになる可能性が出てきました。毎日更新は頑張ります。
250話となりました。なんだかんだで300話に到達しそうです。




