2度目。ーー私の秘密の婚約候補者だそうです。
「自分が隣国の国王陛下と仲が良いと話したことはあったな?」
「友人だ、と伺いました」
「そう。彼は身分を隠して隣国ではなく別の国の留学生として自分が学生の頃にやって来た。まぁ色々あって仲良くなったと思ってくれて構わない」
その色々の部分は聞くな、ということですか。分かりました。
「別れ際に自分に身分を明かした彼から自分が隣国で玉座に着いた後に跡継ぎが生まれたらその跡継ぎと自分の娘を娶らせたいと言われた」
私は息を呑みました。何ですと⁉︎ つまりはお姉様か私が隣国の王太子殿下の婚約者候補ということですか⁉︎
「彼は玉座に着いた時に王妃に迎えた方との間に長らく子が授からなかった」
それはまぁ有名ですから知ってますわ。確か3年、子が授からなくて側妃を迎えられたわけです。で。その側妃は簡単に身篭られましたね。それが前世? 1度目? のケイトリンが18歳の時にコッネリ公爵に言われたドナンテル第一王子殿下です。うっかり遠い目になりかけましたが今はお父様のお話をきちんと聞きましょう。
「確か側妃様は直ぐにお子を授かった、と」
「うむ。名前はドナンテルと仰る方で確かケイトリンの1歳上だったか。だが側妃が子を授かってから半年以上のちに王妃も子を授かった」
「私と同い年の方でしたか?」
「そうだ。こちらも王子が生まれた。名前はノクシオだったな。で。密かに自分にどちらかの婚約者として自分の娘を迎えたいと手紙が来た」
えっ。社交辞令でも何でもないってことですか? ソイツは驚きだ。
「ええと……お父様? 話の途中ですみません」
「なんだ?」
「隣国の国王陛下と恐れ多くもお父様がご友人だということは理解致しました。ですが隣国の国王陛下の右腕と呼ばれるお父様の天敵がおられますよね?」
私が話を遮ってコッネリ公爵の話をすればお父様は鼻に皺を作って嫌そうに頷かれました。
「コッネリの事か。それが?」
「いえ。コッネリ公爵様という方がいらっしゃるのに私かお姉様を殿下方の婚約者にされようと? お父様もそれをご了承された、と? というかあの方にも令嬢はいらっしゃるはずでは?」
混乱しつつも疑問点を上げていけばお父様が驚いたように私を見つめる。……なんでしょうかお父様。そんなに見られたら顔のどこかに穴が開きそうですわ。
「ケイトリンは8歳だが情勢をきちんと把握していて偉いな」
「私だってセイスルート辺境伯爵家の娘です! 跡取り候補なのですからこれくらいは考えますわ!」
お父様、私のことを莫迦にしていらっしゃるの⁉︎ 猛然と抗議したらお父様が珍しく私の頭を力加減無しで撫でます。やめてください。目が回ります。いつもは手加減して下さるというのに。目を回すより前に手を止めて下さったお父様が私の頭に手を置いたまま続けられます。
「陛下はコッネリが好かなくてな。本当は距離を置かれたいんだ。だがアイツはやはり優秀は優秀だし側妃の産んだドナンテル殿下と王妃の産んだノクシオ殿下のどちらを王太子とするかで貴族が水面下で争っている。それを上手く捌いているのはやはりコッネリでな。アイツを簡単には遠ざけられない。かといって好かないアイツの娘を未来の王妃として迎えるのも抵抗がある。だから自分との約束をどうしても叶えたいのだろう」
成る程。本当は隣国の国王陛下はコッネリ公爵が嫌だったのですか。でも遠ざけるには優秀過ぎる手腕、と。面倒ですわね……。あらそういえば前世の時はドナンテル殿下だけではなくノクシオ王太子殿下にも婚約者がいらっしゃった記憶が無いのですが。
「という事は本当ならお姉様も婚約者が居なかった?」
「ああ。だがあの子は身体があまり強くないから王妃にはなれないだろう。だからケイトリンが有力なのだ」
だから私には婚約者候補すらいない、と。……ええと。という事は私はドミトラル様と結婚出来ないってことですかぁ⁉︎




