2度目。ーー編入式というものは、ありません。・1
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。昨日は体調不良で夜の更新が出来ず申し訳なく思います。
デボラに告げた通り、翌朝私は“ケイトリン・セイスルート”としての顔を取り戻した、と思う。デボラが悲しげな顔をしているから分からないんだけど。出来ているといいな。それから3日経って私は再度バレンザさんに店の案内をお願いした。今度は会っても大丈夫、と自己暗示をかけて。
でも、そういう気持ちだからこそ、なのか。全くドミトラル様にはお会いしなかった。私を見ても分からないならそれで良い。もし記憶が有ったなら。一つだけ知りたい。
ーーあなたは今幸せですか。
と。幸せだったらそれで良い。私は1度目の人生で蓋をしていた。ドミトラル様に会った時にヴィジェスト殿下への気持ちは無かったのは確か。恋愛感情なんてどこにも無い、と自信持って言える。でも。
恋愛感情は無くても政略で婚約者の立場に居る私をたった1度会った以外は全て蔑ろにされ続けた私。それは私だけじゃなくて辺境の領民達と辺境の地を顧みないのと同じ事で。もちろんお父様に言えば、直ぐに帰れと言われるのは理解していた。……分かってた。
でも同時にタータント王家と事を構える事態にも陥っていたはず。それを私は望む気はなかった。
だからといってイルヴィル殿下とシュレンお姉様と王妃様しか味方は居ないと思っていた私。年々息苦しさを覚えていた私の目の前に現れたドミトラル様……ドミーは、久しぶりにちゃんと息が吸えると思えた相手だった。彼と会えた僅かな時間だけ、私は“セイスルート辺境伯家”の荷を下ろせていた。ドミーは息苦しさを覚えていた私にとって。
救いだった。
皮肉にも彼に他の女性が居る……かもしれない事実を突き付けられて、ようやく気付いた。1度目の人生でケイトリンを本当に救ってくれたのは、ドミーだった。だからもし私を覚えていてくれるなら。
「ありがとう。お幸せに」を伝えたい。あの時確かに私は救われたって。
覚えていないなら「お幸せに」と伝えたい。覚えていなくてもドミーがドミーならば良かった。私は覚えているし、お互いに記憶が無くてもきっと一緒に居られるって心の片隅で思っていたと思う。でも。覚えていないなら、いえ、覚えていても、彼が私じゃない女性と一緒に居る可能性を考えなかったわけじゃない。
だから。「お幸せに」って伝えたい。覚えていないならドミーに救われた事は私だけが知っていればいいから。そう意気込んで案内してもらっていたけれど。
全然会わないまま、編入当日を迎えた。入学式や編入式があるのかな。って思っていたら入学式も編入式も進級式も無い、らしい。日本人の記憶が有るせいか驚きなんだけど。式ではなくて、学園長から「我が学園を選んだからには全力で挑まないと卒業出来ないぞ」という意味の言葉をもう少し飾り立てた挨拶を有り難く拝聴するのが、式の代わり、らしい。
はっきりきっぱり「実力無ぇなら卒業出来ん。とっとと辞めろ」と言われているようにしか聞こえなくて。これこそがシオン帝国の実力主義の真骨頂に思える。こんなにいっそ清々しい程の挨拶をするからには、それを言い切るだけの教育を施しているのかもしれない。気合が入った。
とにかく。なんだかんだでシオン帝国に編入したのだから、もちろんきちんと学ぶけれど……ヴィジェスト殿下から頼まれたロズベル様の行方をなんとかして把握しなくちゃいけない。とはいえ、まずは文官科のクラスを探さないと、ね。編入2日前にバレンザさんとはお別れし、前日には女子寮入り。部屋チェックをすればシンプルな造りをしていた。
ベッド・勉強用の机・クローゼット・本棚。シンプルイズベストを地でいってる。高位貴族用の女子寮なので隣の部屋(続き部屋ですけどね)は、専属侍女用。高位貴族は世話係が必要なのは言わずとも知れた事。だから高位貴族用の(つまり侍女・侍従を連れて来る)女子寮と男子寮が存在していた。私はその女子寮の一部屋を使用している。
チョコチョコ書いていた短編を予約投稿日を訂正し忘れてアップしてしまいました。書き上げたら活動報告にてご連絡します。もしお目にかけて下さった方が居ましたら謝ります。すみませんでした。




