2度目。ーー新たな留学先は通称魔法学園と呼ばれています。・10
「君は1度目の人生で私と関わっていたか?」
いや、ヴィジェスト殿下に疎ましがられていた私ですよ? 当然側近であるあなた方と関わってなかったですよ。首を左右に振れば、そうかと頷いてジュストが10年前の出来事を振り返った。
「10年前の事だが。私はその日父上に連れられて王城を訪れていた。ヴィジェスト殿下の遊び相手として選ばれたんだ。そこにはライルもいた」
「カッタート様とジュストが遊び相手に選ばれたってこと?」
「そうだ。だが、私は年下のヴィジェスト殿下よりもその頃から王子の自覚があったイルヴィル殿下に興味があった」
ちょっと自虐っぽい笑みを浮かべるジュストには気付かないフリをして、続きを聞く。
「今思えば、私は自分に対して自信が有ったんだ。つまり、宰相の子で勉強が出来る僕が年下の王子なんか……と見下していた、というか」
言い辛い事をジュストは口にする。だけど、そういった考えを否定するつもりはないし、軽蔑するつもりもない。……1度目のケイトリンの人生で、そういう考えのご令嬢方から絡まれた事もありますからね! そういう人が居る事は理解してますよ。
「そういう頃もあるよね」
私が共感する事を口にすれば意外そうな顔をした。何? と尋ねれば、いや……と呟いてから。
「私がそういう人間だ、と知った女の子が幻滅していた事があった。まぁ10歳にも満たない頃だが。その時に女とは自分の理想と違う事を受け入れられないと理解して、それならば私も女に幻想を抱かない、と決めていた。結局女性に対しても私は偏った見方をしていたんだな、と理解したんだ」
「まぁ子どもの頃なんて女の子は王子サマに憧れるからね。ジュストに王子サマを見ていたんじゃない?」
「は? 王子はイルヴィル殿下とヴィジェスト殿下だろう」
あー。なるほど。ジュストは“王子サマ”の意味が理解出来てないね。
「確かに王家に生まれた存在は王子様なんだけど、今、私が言ったのは違う理由。ジュストだって女の子に夢を見なかった? 可愛いもしくは綺麗な女の子が、優しくて明るくていつも笑顔で自分を尊敬して褒めてくれる……みたいな」
「それは、まぁ有るけど」
「有るんだ。まぁだからさ、そういう女の子ってお姫様みたいでしょ? 現実的には王女なんて王子の女性版なわけだから、権謀術数の高い貴族達を笑顔でいなしたり味方に引き込んだり……とそこそこに腹黒くなければやっていけないけど。理想としては、可愛いもしくは綺麗な優しくて明るくていつも笑顔で自分を立ててくれる女の子、でしょう? そんな子をお姫様みたいに思わない?」
「……思う。その女性を守らなくては……とか考える。ああ、そういう理想の女の子を姫と見るなら、理想の男を王子だと見るわけか」
「そういうこと。つまりジュストは、女の子の理想の王子に見えたわけだ」
そういうことか、とジュストは嘆息している。だからまぁ理想とは違うジュストを知らされた女の子は、勝手にジュストを見限ったというわけだ。まぁさすがにそろそろ王子サマのような男の子なんていないって理解しているだろうけど。
「話を戻す。まぁそんな風にヴィジェスト殿下を見下していた私だから、ライルの方と遊ぶのに夢中になってな。気付いたらヴィジェスト殿下が怪我をしていた」
「怪我?」
「侍女や護衛もいたから余計に慢心していたのだろうけど、私とライルが走り、その後を追いかけてきたヴィジェスト殿下。その後を侍女や護衛はゆっくりと歩いて来ていた」
「もしや、ヴィジェスト殿下が僅かに1人になった時があった?」
「そうだ。その時に殿下は有り体に言えば転んで、頭を地面にぶつけたらしくて額を切ったんだ」
額って……血が出たのでは?
「出血したヴィジェスト殿下を見て初めて自分勝手な行動を反省したが、まぁ父上に思いっきり怒られたけどな。だが、実際怪我をさせたから私もライルもお咎めを受けてもおかしくなかった。それを意識が回復されたヴィジェスト殿下が不問に処してくれた」
「それを恩にきて忠誠を誓うことにした?」
「そういうことだ。もしかしたら命が無かったかもしれない。そう思えば多少の無理を聞くくらい、大したことないさ」
そんな事情があるなら、確かにヴィジェスト殿下に誠心誠意お仕えするだろう。多少の無理を押し通しても隣国だろうがシオン帝国だろうが留学するし、ロズベル様探しもするだろうね。納得した私は、それ以上は口を出さないことにした。
「じゃあ明日のために今日はゆっくりと休んで、国境を越えましょう」
私は笑って話題を変えることにしました。




