2度目。ーー新たな留学先は通称魔法学園と呼ばれています。・6
それにしても。ボレノー様、口が開いてますよ。ポカンという表現をこれほど体現する必要がありますかね? 本当に何故そんなに唖然としているんですか。私の話を聞いてます?
「ボレノー様?」
私が呼びかければ、ボレノー様がハッとした表情に変わり、どうやら意識が戻って来たようです。
「済まない。その、今まで想像すらした事のない想定をされたものだから、驚いた。確かに私は宰相の息子。そこを狙われる事もある。その可能性に全く気づかなかったのは、今までそんな事態にならなかったからだ。幸い狙われる事が無かったのか、狙われる事が有っても気づかないうちに処理されていたのか。とにかく私が可能性に気づかなかったのは確かだな、と」
なるほど。宰相令息として狙われる経験が無ければ考えに至らないかもしれないですね。……本当は狙われなくても可能性として気付いて欲しいのですけど。まぁいいです。今、理解したのならそれで。
「理解して頂けたなら良かったです」
「ああ。セイスルート嬢には感謝するよ。それに君は凄いな。地図の見方も知っているし、事が起こったと仮定した後の対応まで考えている。普通の令嬢では有り得ないよ」
「それはそうです。私は辺境伯の娘ですよ? 幼い頃から身を守る訓練を受けています。訓練で一番に覚える事ってなんだか分かります?」
「……戦う術じゃないのか?」
「いいえ。最初は、逃げる事を覚えます。5歳にもならない子どもが同じ子どもでも今の私達くらいの年齢の者に襲われたら?」
「……命の保証が無いな」
「ですから、先ずは逃げるのです。だから早く走れるようになる事が重要です。大人相手ならば尚更です。私だけでなく辺境領に居る者なら領主・領民関係なく、子どもの頃から先ず逃げる事を学びます。それでも捕まってしまったならば……と戦う術を身につけていくのです」
滔々とした私の説明にボレノー様は口を挟まず真剣な顔で聞いてます。これならば私の考えも理解してくれるでしょう。
「先ずは逃げる事が大切、か」
ボレノー様が納得されたようなので、次の話に入りましょう。護衛の人数や同行する侍女・侍従・従僕の人数です。速やかな行動が出来れば、それだけ旅路も日数が短くて済むこと。それには人数が少ない方が動きやすいこと。それに。
「私と共に向かうなら、何かあればウチの護衛がお守りしますわ」
辺境伯家の者は腕が立つ事を知っているだろう。ボレノー様は色々と考えているようです。
「セイスルート嬢の護衛が? だがそれではセイスルート嬢に何か有った時に困るだろう」
きちんと私を気遣って下さりありがとうございます。
「気遣って下さりありがとうございます。ですが、私は辺境伯家の娘。腕に覚えはそれなりに有りますわ。簡単にはやられません。ですからボレノー様はお気になさらず」
気にするな、と言ったもののやはり気になるのか、ボレノー様が思案しています。暫く私は黙って待ち続けました。やがてご納得かいかれたのかボレノー様は深く頷かれた後、私の提案を受け入れ……自分の護衛や侍女達も私の意見を参考にして人数を減らすことにしてくれました。それを自らお伝えになったボレノー様。護衛やお供に選ばれた皆は反論されましたが、そこは私が私の供の人数に護衛の人数を話して理由も述べると、渋々ながら納得されたようでした。
後はシオン帝国に向かうメンバーの選抜をボレノー様自ら行い……侍女と侍従が1人ずつと護衛を5人選びました。選ばれなかった方達はそこで帰って頂き(一泊される事は許可しましたが)残った侍女と侍従はウチの執事と侍女長を筆頭に即席ながら身を守れるように護身術を教え、護衛5人はウチの精鋭部隊と共に訓練へ引きずられていきました。……かなり即席ですけど、レベルは上がるはずです。
それとボレノー様にも身を守ることを覚えてもらうために、私がお教えする事にしました。守られる側の行動や逃げる際の逃げ方などを学んでもらう必要がありますからね。そんなこんなでボレノー様一行が我が家にいらしてから3日。即席ながらなんとか仕上がりましたよ。そんなボレノー様とシオン帝国へ向かうメンバーの想いにお応えするために、私は本来考えていた日程より早めでは有りますが、出立をすることを決めました。
私の護衛や侍女であるデボラには、ボレノー様を説得出来なければ早く出立する可能性がある事を話した上で、ボレノー様達を出迎えましたからね、準備は既に終わっていました。だからスムーズに出立出来ましたよ。ちなみに、私がシオン帝国に行く事は我が家族は知っていましたけれど、敢えて出立の日は知らせませんでした。だから誰も見送りには居ません。執事と侍女長を含めた使用人達だけの見送りで、それにボレノー様が不思議そうな顔をされました。
「色々と気にかかる事と思いますが、長い旅路にてお話致しましょう。私からもボレノー様に尋ねたい事がございますから」
苦笑してここでの説明は控えて、私とボレノー様は出立しました。……予定より一週間程早い旅立ちです。




