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成る程。では、お互い不干渉といきましょう。  作者: 夏月 海桜
3年目の学園生活は留学の留学からスタートです。
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閑話・1度目。ーー本当にこれで淑女なのか、と疑いたくなる苦手な女。・1

ジュスト・ボレノー視点です。

王都を出立してから数日。セイスルート辺境伯領に到着した。正直なところ彼女を頼るのはあまりやりたくない事だった。私が知っている淑女とは、掛け離れた女性ーーそれがケイトリン・セイスルート辺境伯令嬢だった。


王都で交流しているご令嬢方は、第一王子であり王太子であるイルヴィル殿下の婚約者であらせられる公爵家のご令嬢を筆頭に、洗練され知的な会話と美しい所作に柔らかな微笑みを浮かべた方ばかり。私がお仕えするヴィジェスト第二王子殿下は、そういったご令嬢方ではなく、こう言ってはなんだが田舎の辺境伯家の令嬢を妻にしたい、と散々周囲に漏らされていた。


ただヴィジェスト殿下にとっては不幸でも、我等側近を含めた仕える者達にとっては幸いだったのは。田舎者のくせにタータント王家に忠誠を誓っていないから、王命が使えない、という一点だった。これが忠誠を誓われていたなら、王命で婚約が結ばれていたに違いない。


ただ。ヴィジェスト殿下がそんな事を言い出した頃、まだ10歳も迎えていなかった私は、セイスルート辺境伯家を田舎者だと見下していたのだが、歴史を学んでいくうちに、セイスルート辺境伯家はタータント王家よりも古い家柄で、尚且つずっと辺境の地を守ってきた何処にも屈さない家なのだ、と知った。その上、王家に忠誠を誓わないのは、誓わない事でいつでも王家の様子を窺っている、という監視の意味合いがあるようなのだ。監視される事で王家も程良い緊張感から常に国と民を守ろうと王家として国王としての使命を果たして行けるようだった。故に、セイスルート辺境伯家を田舎者と見下す気持ちは無くなった。


それどころか。

ヴィジェスト殿下があれほど望むのであれば、余程素晴らしい淑女なのだろう、とケイトリン嬢に対して期待が高まった。ヴィジェスト殿下がケイトリン嬢をそれほど望まれる理由が、二度目の人生を送っているという訳の分からない夢のような話の中で、ヴィジェスト殿下を命がけで助けた、という真偽不明のものなのが頂けないが。


ちょっと夢と現実が区別出来ない王子なのかもしれないが、まだ6歳。これからその区別もつくようになるはずだ。……そうでなくては困る。ヴィジェスト殿下が生まれた時からイルヴィル殿下ではなく、ヴィジェスト殿下の側近候補という将来を決められてしまった私のためにも。


そう思っていた私が衝撃を受けるのは、ヴィジェスト殿下が招いたケイトリン・セイスルート辺境伯令嬢とのお茶会でのこと。ヴィジェスト殿下の夢物語だと断じていた私の耳に、かの令嬢も同じ内容を話しているのが届き……口裏合わせをしたわけでなければ、真実だと思わされるものだった。


無論、口裏合わせをしている時間も無かった事は知っているし、なんだったらかの令嬢との手紙のやり取りも全て把握していた。そのどれも、ヴィジェスト殿下の夢物語についてヴィジェスト殿下の手紙もかの令嬢からの手紙も互いに書かれていない事は承知していた。


では、本当の本当にかの令嬢とヴィジェスト殿下は二度目の人生を歩んでいる、とでも言うのだろうか。未だ半信半疑だった私はその後、ヴィジェスト殿下が隣国と小競り合いが起こる事を教えてくれた一件で信じる事7割。疑う事3割。と気持ちが変化した。


かの令嬢が裏で暗躍していたようで、全てが終わってからヴィジェスト殿下の夢物語を真剣に聞いていたイルヴィル殿下が事の概要を教えてくれた。本当に隣国と小競り合いが起きていた事。我が国の伯爵家が……それも法律に詳しい事で有名なあの家が関わっていた、とか。


ヴィジェスト殿下はそこまで話していなかったが、イルヴィル殿下がケイトリン・セイスルート嬢のおかげで最小限の被害で抑えられた、と。それを聞いて私はケイトリン嬢に対する認識を改める事にした。


数回お会いした姿からも凛とした立ち居振る舞いに柔らかな微笑みは、淑女としておかしくないし、内容こそ衝撃的なものではあるものの話し方も美しい。淑女に相応しい姿だ。おまけに所作の美しさは、1度目だというケイトリン嬢の人生の大半がヴィジェスト殿下の婚約者としてのものだったらしいからか、王妃様やイルヴィル殿下の婚約者のご令嬢と遜色ないものだった。


そういった姿を見てしまえば、夢物語などと切って捨てるわけにもいかない。おまけにその記憶とやらで隣国と一触即発の関係にもならなかったのは確かだ。だから。ヴィジェスト殿下の婚約者として相応しい令嬢だと思っていたのに。何故かかの令嬢は、2度目は殿下の婚約者など嫌です、と断り続けている。それはどうやら1度目のヴィジェスト殿下が、ケイトリン嬢を蔑ろにしていた事が原因のようだった。


話を聞いた時は、失礼ながらヴィジェスト殿下に対して不敬にも“愚かなお方だ”と思ってしまった。言葉にも表情にも出さなかったので、まぁ咎められる事はないだろう。それにしても蔑ろにされていたなら、それはまぁ婚約者など嫌だろうな、とケイトリン嬢に同情を寄せた。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


ちょっと長くなりましたので此処で一度切ります。続きは今夜の更新で。

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