2度目。ーー何故もっと早く動かなかったのでしょう。・3
お茶会は午後からだったけれど、太陽は高めだったもの。そして窓から差し込む太陽の光は、沈みゆくものじゃない。王都にある私の部屋は位置的に沈む太陽の光より、昇る太陽の光の方が入り易い。
つまり、翌朝ということ。
「マズイわ、デボラ」
「えっ。本当に無理やり婚約者に?」
そうじゃなくて、と説明する。デボラが、あー……うん……そういうことですかぁと残念な子を見るような目を向けてきた。だって仕方ないじゃない! 行方不明なんて聞かされたんだもの!
「手紙でも出して念押しをしておけば良いんじゃないですか?」
「テキトーな返答を寄越したわね」
「だってねぇ。きちんと返事をもらわないで意識不明になったのはお嬢様ですからね」
ぐっ。それを言われると辛い。でもまぁこちらから押し掛けるわけにもいかないし、そもそも会いたくないし。手紙で念押しが一番有効では有るわね。溜め息をついてから気持ちを切り替えた私は、辺境伯領に帰るべく起き出した。
「デボラ」
「なんでしょう?」
「あなたは、お姉様よりも姉らしくて助かるわ。これからも宜しくね」
お母様もお姉様も頼れなかったから、自分の前世と前回の記憶を頼り、それでも“女性”の意見を聞きたい場合は、デボラしか頼れる人はいなかった。だって彼女が私の専属侍女だったから。他の侍女やメイドや侍女長は普段はあまり交流しない。それぞれに仕事があるから。
でも。
心から思う。デボラが専属侍女で良かった、と。
「な、何を急に……! お嬢様ってば!」
「あらぁ? 照れてる? 珍しいわね!」
私の率直な言葉に目元をほんのり赤く染めたデボラが慌てているので、ニヤッと笑って弄っておく事にした。……そしたらデボラがムッとした表情で乱暴に髪を梳かし始めて来た。痛いんですけどっ! きっと他の貴族令嬢だったら許さないような侍女との関係。
私もデボラじゃなければ、こんな言い合いも態度も許さない。
それは主人と使用人という立場の区別。親しき仲にも礼儀ありではないけれど、必要な線引きはある。
もちろんデボラにも線引きはする。ただデボラにはその線引きが他の者達とは違うだけ。それは贔屓と言ってしまえばそうだけど。一番長く側に居る彼女だから。他の者より線引きの幅が狭くても良いと私は思うのです。
「お嬢様。今日中に辺境伯領へ立ちますか」
「そうね。そのつもりよ。あちらの方が情報を受け取るにも若干早いでしょう?」
情報は、早ければ早い程対処しやすい。
「そうですね。では早めに出立出来るように準備を整えます」
「その間にヴィジェスト殿下宛てに手紙を書くからクルスに持って行ってもらって」
「かしこまりました」
朝食後出立準備を整えるデボラの傍らで、筆頭婚約者候補者を退きたい私の意見を尊重して下さい、1年の期間はもう終わります、と念押しした手紙を書いてクルスに頼む。それからヴィジェスト殿下の返事を貰ってから帰って来てね、とクルスに念押しして滞在期間が短いから荷物も少ない私は、手早く荷物を纏めてくれたデボラに感謝して辺境伯領へ帰るために出立した。
その道中。
「お嬢様」
「クルスが戻って来たみたいね」
馬車に近寄る気配にデボラが呼びかけて来たので、返答する。馬を休憩させるついでにクルスからヴィジェスト殿下の返答を聞かせてもらう事にした。
「お嬢様。第二王子殿下からの言付けです。
ーー先ずは、動揺させた事を詫びる。もっとケイトに寄り添った言い方をするべきだった。だが、君を筆頭婚約者候補者の座から下ろせない。約束が違う、と怒るかもしれないが、こちらにも色々事情がある。ジュストを引き続き留学させる。君と同じ学園へジュストも編入させるつもりだから、詳しくはジュストから聞いて欲しい。済まない。
とのことです」
……なんでまだ筆頭婚約者候補者の座を退かせてくれないんですかね。簡単に引き受けるんじゃなかった。後悔してます。ああ、めんどくさい。




