2度目。ーー約束の1年が経つので話し合います。・7
本題に入りましょう、と意気込んでいたのですが。ボレノー様とカッタート様から強い視線を向けられています。……心配されていると見て良いのでしょうか。
「ボレノー様。カッタート様。大丈夫ですよ、私は。生きてますもの」
お二方に微笑めばどことなく安堵しているようで空気が和らぐ。やはり心配されていたようです。まぁ確かに毒を口にした、なんて聞かされれば心配になりますよね。私が逆の立場なら……心配も心配ですけどデボラみたいに怒りますね。うん、怒るな。デボラに文句言えないですね。
「では、殿下。本題に入りましょうか」
改めて気を引き締めてヴィジェスト殿下を見れば、ヴィジェスト殿下が首を捻った。
「本題? これが本題だろう。あ、あれか。ロズベルの事だな? そちらはジュストから報告を受けている。知る限りでは居ない、と。ほぼ同時期に隣国のドナンテル殿下及びノクシオ殿下両名の名入りで親書が届いてな。魔法で有名なシオン帝国の方に相談したならば、帝国が引き受けたいと申し入れたとのことで、ロズベルは今、シオン帝国に居るようだ。だからロズベルの捜索は打ち切ってくれて構わない」
ああ、その件も有りました。私にもドナンテル殿下及びノクシオ殿下からの手紙は来ましたよ。シオン帝国に居る事も聞いたし、ついでに殿下方の筆頭婚約者候補者の座を退いた私なので、まぁ示しを付けるという事で、隣国からシオン帝国への留学が決定したんですよね。
前代未聞なんじゃないかな。
留学先の国から更に留学先を紹介されるって。
「そのお話でしたら私の元にも両殿下からの親書を頂きました。更にシオン帝国への留学も伺っていますわ」
「留学先から⁉︎」
あ、やっぱり驚きますよね。ヴィジェスト殿下が驚いた声を上げてボレノー様とカッタート様は驚愕で声も出せないようです。そうですよね、そうですよね。驚きますよね。要するに我が国に居るのは許さないぞ。って事ですもの。シオン帝国行きを断ったらこちらに戻って来る事になります。……お姉様がまだ学園に在学しているのに? お姉様から逃げる意味で隣国に留学した私ですからね。いくら向こうから歩み寄られてきても、簡単には行きませんよ。おまけにお姉様によって悪評が流されている私ですし。
ですので、シオン帝国への留学は(魔法大国という事も含めて)楽しみなので快諾しました。早めにこちらを立つつもりです。……ってそうじゃない。
「失礼しました、殿下。ロズベル様の件ではございませんわ」
「違うのか?」
では、なんだ? と不思議そうですが、もしやお忘れでしょうか。私がヴィジェスト殿下の筆頭婚約者候補者の座に居るのは、期限付きだという事を。
「殿下。もう1年が経ちます。殿下の筆頭婚約者候補者の座は1年という期限付きだったはず。……良いお相手は見つかりましたか?」
私が切り出せばヴィジェスト殿下は大きく目を見開きました。……だけでなく両脇のボレノー様とカッタート様も驚いてます。何故ですか。やはり忘れていましたか。
「覚えていたのか……」
「は? もちろんですとも」
え。覚えていたのかってヴィジェスト殿下も覚えていたのでは有りませんか。だったら先程の驚いた顔はなんですか。もしかして私が忘れているとでも思ったんですか? そんなわけないじゃないですか。殿下の筆頭婚約者候補者を期限付きとはいえ務める事は忘れても、その座を退ける期限は覚えてますよ。とっとと退きたいですもの。
「コッネリ公爵の一件が有ったから忘れているのかと」
ヴィジェスト殿下が溜め息を付きます。何故そこで溜め息。
「覚えてますわ。だって私はヴィジェスト殿下の婚約者もヴィジェスト殿下にも興味ないですもの」
私が言ったと同時にヴィジェスト殿下の目から輝きが消えました。……何故ですか。




