閑話・1度目。ーー影達の会談。
デボラ視点。クルスとガリア・アレジとの話になります。
「お嬢様はお休みになられたか?」
そろそろか、と思ってケイトリン様の私室をソッと覗けば、やはり眠っていらっしゃった。ホッと溜め息をついて私室を出たところでクルスから声をかけられた。
「ええ」
ケイトリン様に飲ませている滋養薬は催眠作用もある物が入っているので、直ぐに眠りにつく事は解っている。
「お嬢は助かるのか?」
そこへガリアとアレジがやって来た。尋ねて来たのはガリア。影だから目立たないように常に暗めの色を着ている2人だが、背が高く緩く後ろ髪を結えているのがガリア。クルスとガリアの間の背丈だけど物凄く痩せている所為で実際よりも背が高く見える短髪がアレジ。ちなみにアレジの痩せっぷりは骨と皮しかないという表現そのものに思える程。仮にも影なので筋肉はあるはずだが、服からは想像がつかない。
ついでに言えば、中肉中背で肩にかかる髪をちょこっと結えている、貴族にも平民にも溶け込める空気しかないのがクルス。これで一番の実力者なのだから、世の中見た目で判断してはいけないとは良く言ったもの。
「解毒薬を飲ませていましたから大丈夫のはず、です。絶対とは言い切れないですけどね。遅効性の方を飲んだから全身に毒は回っていないし。そもそも全身に回っていたら助からない可能性が高いわけだし。だから大丈夫のはず」
ーー身体の中は分からないけれど。
「全く旦那様のお子の中で行動が一番読めないのがケイトリンお嬢様だなぁ」
ぼやくアレジに苦笑する。確かにルベイオ様とロイス様よりも行動的。キャスベル様はアレだし。
「何故毒と解ってて飲んだのか。飲んだフリをしても良かったのに」
ガリアが溜め息混じりにヤレヤレと首を振る。でも私は解った。ケイトリン様が教えてくれた1度目の人生の話。あの方は毒の付いた刃物で殺されたのだという。
その場にいたコッネリ公爵の視線の先にいたのは、刺客。証拠は何一つ無いけれど、きっとコッネリ公爵の飼っていた刺客だろうという事だった。だから。ケイトリン様は毒を使ったのだろう。1度目の人生の最期を毒付き刃物で死んだご自分のために。
……これでコッネリ公爵と刺客に何の関係もなかったら、それもそれで問題だけど。状況としては限りなく黒だと私は思っている。
でもだからと言って自分も毒を飲んで死にかける必要は無いと思いますけどね!
「ところでガリアとアレジに頼みたい事がある」
クルスが雰囲気を変えるように少し威圧をする。私もガリアもアレジも背筋を伸ばした。こういう空気が出せるからクルスはまとめ役に向いているのだと思う。
「「なんでしょう」」
この4人の中では1番年上で影を務めている時間が長いのがクルス。故に2人は敬意を払っている。言葉遣いにもそれが表れている。
「ケイトリン様が第二王子殿下のお茶会に出席される2週間後までに、もう一度隣国へ行ってその後のコッネリ公爵や殿下2人の婚約者等探って来てくれ。後はコッネリ公爵に拐われて保護した令嬢2人の様子と、他国の王女・令嬢方の動向を」
「クルス様。相変わらず鬼ですか……。2週間でそれを終えろって……」
アレジが頬を痙攣らせている。まぁ確かに注文が多いですけど。
「お前達ならやれる」
それを言われたら断れないやつですね。頑張って来て下さい。私はケイトリン様と美味しいお茶とお菓子を食べながら此処でのんびりと報告を待ってますねぇ。
お読み頂きましてありがとうございました。




