2度目。ーー二人の殿下と王太子の位・5
「俺とノクシオ。どちらかが王太子になるんだ」
暫しの沈黙後ドナンテル殿下がポツリと零した。前回はドナンテル殿下のやらかし具合が他国に響き渡る程だったので、婚約者もいた事からノクシオ殿下が早々に王太子に内定していた。発表……されたっけ。忘れてしまっているわ。
でも。
今回はドナンテル殿下が随分と変わられた(噂から考えれば)から、どちらを王太子に据えるか国王陛下も重鎮方も悩んでいるのかもしれない。
「ドナンテル殿下でもノクシオ殿下でも、きっとこの国を守り発展させられると思います」
2度目の人生で殿下方に出会った時は、客観的に見てノクシオ殿下だった。だけど。今はどちらが王太子の座を得ても問題ないと言えるくらい、ドナンテル殿下が変わられた。ノクシオ殿下も出会った頃に透けて見えたドナンテル殿下を見下す気持ちが、今は見えない。隠しているだけだとしても隠せる程成長されたわけだし、子どもの頃程見下す気持ちが無くなったのかもしれない。
だから。どちらが王太子になられてもこの国はまだまだ大丈夫だろう。
「ありがとう、ケイトリン」
「感謝する、ケイトリン・セイスルート」
ドナンテル殿下とノクシオ殿下の感謝を受け取って私は黙って頭を下げた。
「「ケイト」」
「はい」
愛称を呼ばれて頭を上げて殿下方を見る。ドナンテル殿下が右手を、ノクシオ殿下が左手を握って来て泣きそうな顔をしながら2人が言葉を紡ぐ。
「もしも、ケイトがこの先困った事が有ったら俺達の元に来い。必ず力になる。それが俺達が出来る精一杯だ」
「ケイトがこの先、辛かったり苦しかったりして逃げ場が欲しい時は必ず僕達の元においで。今度は僕達が君を守る番だ」
「「君は俺(僕)達2人の、唯一の『友人』だから(な)」」
「……ありがとうございます。生涯に渡り殿下方の『友人』である事に誇りを持って生きる事を私は自身と、殿下方に誓いましょう。本当に逃げ出したい事が有れば殿下方を頼るかもしれませんが、それよりは私が幸せになる事を殿下方に見せられるように生きます。手紙を書きますから待っていて下さい。私が18歳を超えて20歳を過ぎて……30歳を迎えて50歳になろうとその先も、殿下方に手紙を書いて幸せである事を教えます」
未来を語る私に、到頭2人が泣き出した。仕方ないなぁ……と握られた手を握り返す。私に応えるように殿下方から更に力強く握り返されて。「大丈夫ですよ」と殿下方に笑いかけた。涙も拭わずに私を見る2人の顔が、とても良く似ていて。
ーーああ、この2人は兄弟なのね。
そんな風に思う。異母兄弟とはいえ2人が国王陛下に似ていらっしゃれば似ているはずなのに、どちらかが母親似なのか、それとも2人共母親似なのか、2人はあまり似ていなかった。でもこんな表情をすると驚く程2人は似ている。
「私は這いつくばってでもおばあちゃんになるまで生きると決めています。ーーだから」
大丈夫ですよ、ともう一度2人に笑った。きっと2人は思っているはず。私がそこまで生きられるか分からない。けれど私が諦めていないのに自分達が諦めるわけにはいかない、と。
「ケイト。俺達のどちらかが王太子に選ばれた後、立太子式に参加してくれるか?」
ドナンテル殿下が尋ねるので「招いて下さるなら」と頷く。
「それなら僕達は頑張らないとね、異母兄上」
ノクシオ殿下がドナンテル殿下を兄と呼ぶのは久々に聞いた。ずっとその呼び方を避けているように思えたのに。……やっぱりこの国は当分安泰なようだ。
「では私はその日を楽しみにしています。セイスルート家へ連絡を下されば、必ず私の元に連絡は届きますから」
こういった国の一大行事の場合、王太子選定が済んでから立太子式を行うまでに早くて1年。普通は準備に数年かかる。まぁ出来る準備は進められているとしても国の威信的なものもあるから数年後の事だろう。
長いようできっとあっという間にその日を迎えるはず。私はその日を待つ事にしよう。




