2度目。ーー蜥蜴の尻尾切りなんて、させない。・2
陽動というクルスの読みは間違いではないと思いますが、じゃあ何故私を攫ったんでしょうね? はて?
「お嬢様。差し出がましいようですが」
側で控えていたデボラが口を挟んだので先を促す。
「おそらくお嬢様を狙ったのは陽動という、クルスの推測は合っているでしょう。狙いは寮長さんを混乱させるためでは?」
「寮長さん……? あ!」
寮長さんは数少ない魔術師。その魔法で生徒達の安全を確保していた。その事をコッネリ公爵が知らないとは思えない。だから薬を盛って寮長さんを混乱させ、その上で私を攫って私が戻って来た。魔法を発動していても、上手く制御出来ないかもしれない。
本当の狙いはそこ、だとしたら?
「ラスピリア・コッネリ子爵令嬢及びプライアリ・コッネリ公爵令嬢の安否を確認して頂戴」
私はデボラに命じた。
考えてみれば解る事だった。本気で私を攫いたいのなら、あんなに分かり易い所に私を留めておかないだろうし、あの警備員1が私の事を警戒しないなんて有り得ない。私の事を知らなかったから警戒しなかった。つまり陽動……。
その陽動は魔術師である寮長さんの目を逸らすため。1人の人間を攫うのだって寮長さんが居るから難しいだろう。それが2人ならば尚更。プライアリ様に監視が付いていたのは知っていたのに、学園内でなんらかの事を起こすなんてないだろう、とタカを括ったのは私だ。私の失態だった。
そして、プライアリ様だけではなくラスピリア様も目障りだったに違いない。2人とも、私に接触していたのだから。
どうか、2人が無事でありますように。
「お嬢様……やられました。お2人ともいらっしゃいませんっ」
願い虚しくデボラの報告に私は唇を噛み締めた。……ここで打ちのめされている場合ではない。
「デボラ、悪いけれど寮長さんに報告に行ってくれる? それと私は体調が悪いから本日は休みます、と届け出て。後、寮長さんには責任を感じて落ち込まないように伝えて。責任を感じるのは分かるけれど、落ち込まれて普段と違う事を他の方達に気付かれるのは問題だから」
それだけ指示を出すと、クルスに殿下方の元へ現状を全て報告するように命じておく。
「お嬢様は?」
デボラの問いかけに、ニッと笑っておく。
「アレジはお父様の元から戻って来たかしら」
クルスが頷くので、ガリアとアレジを呼んで私と共にコッネリ公爵家に乗り込みなさい、と命じた。お父様の命ではないから、彼等が私の命を受け入れる必要はない。でも私は彼等が受け入れると思っている。
「「御意」」
ほらね。だって彼等は辺境伯卿……つまり私のお父様の臣下だもの。お父様に2度も煮湯を飲ませた事を彼等も知っている。彼等の主人であるお父様の事を虚仮にしたコッネリ公爵の事を許せるわけがないもの。
「お父様の借りも返してあげましょうか」
私の言葉に、2人がニヤリと笑う。その言葉を待っていたのだろう。デボラとクルスも同じ表情になっているので、私の命を実行次第、合流するとみた。
「先に行ってるわ。お父様の許可はもらってないけど、元々お父様とは別に、私にケンカを売ってきたのだもの。高値で買ってあげなくては、ね?」
さあ、蜥蜴の尻尾切りなんてさせないわよ。反撃させてもらいます!




