2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・15(ヴィジェスト編)
私の指摘に図星を指されたので、私を警戒してますわね、エルネン伯爵令嬢。でもそうは問屋が卸さない。自分の父親を唆すくらい頭の回転が良いんだから、これくらい何とも無いでしょう?
取り敢えず前回の件を含めて確り反省してもらいましょうか。
「エルネン伯爵令嬢とも有ろうお方が、随分とおかしな事を仰いますのね。お父君は法の番人とも名高いお方のはず。それにも関わらず、先程ご自身で口にされた事の責任すら取れませんこと?」
訳。法の番人とも言われるエルネン家の名前を背負っているくせに、自分の口から発した言葉を、舌の根も乾かないうちに否定するの? 父親の顔に泥を塗るつもり? ……である。
「まぁ。嫌ですわ。私としたことが。エルネンの名にかけまして、学園でのセイスルート様の噂は否定致しますわ」
成る程。あくまでも学園の噂に焦点を集めたのね。学園の噂は否定したけれど、セイスルート家での私の振る舞いは知らない、と。そうね。それなら自分の発言を肯定も否定もどちらでも出来るものね。でも甘い。
「そうですわよね。エルネン伯爵家の方が確たる理由も無しに口を開くことは有りませんものね。良かったですわ、私の噂を否定して下さって。……という事でナイゼルヌ侯爵令嬢様、私の学園での噂は殆どがあくまでも噂だという事をご理解頂けましたわよね?」
ここでナイゼルヌ侯爵令嬢をゲームの盤上に上らせる。ふふ。侯爵令嬢さん、急に話題を振られて目が白黒になりましたわ。……まぁ一瞬で立て直したのはさすがですけれど。
「あくまでも学園では、ですわ。家でのあなたの態度はどうなのかしらね」
はい、乗って頂きましたーっ。私はクスリと笑って「家で姉を苛めているとしたら、それこそ父に叱られていますわ」とだけ答えた。侯爵令嬢さんは「ま、まぁそうかもしれませんわね」と納得している。ホント裏表の無い方ですわね。
「そういえば、エルネン伯爵令嬢様。先程おかしな事を仰いましたわよね?」
訳。あなた失礼な発言したの覚えてる?
「まぁどんな事かしら」
訳。いきなり何よ。
「私がヴィジェスト殿下のお顔に見惚れていた、と申し上げたら論点をズラしましたわね? と仰ったではありませんの。あれはどういう意味ですの? しかも無邪気を装っている、なんて……私を貶していらっしゃいますの?」
訳。殿下の顔に惑わされたと恥ずかしく自己申告した私の発言が間違ってるの? あなたは殿下の顔が麗しくないとでも仰いますか? 悪気無いように見せかけたって言うけど、私は見せかけなんてしてないわよ。私を貶めるつもり?
とケンカを売った所でヴィジェスト殿下が、他のご令嬢達のテーブルから戻って来るのが見えた。一応殿下の固定席がこのテーブルである以上、戻って来るのも当然。私はヴィジェスト殿下がテーブルに戻って来るのに気付いたタイミングで、少し悲しげな表情を作ってみた。
私を貶めるような発言をされて傷付いた、と見えるように。無論そんなことくらいで傷付く程、私のメンタルは弱くない。
「あら。無邪気を装っているのは確かでしょう。辺境伯家の人間はそんなか弱い存在じゃない、とお父様が仰っていたわ。それに殿下に見惚れていた、というのも嘘よ。だってあなた、ヴィジェスト殿下と挨拶を交わしても表情一つ変わらなかったもの」
訳。何を可愛く傷付いたフリをしてるのよ。辺境伯の者がそんなメンタル弱いわけないって私の父が言ってたわよ!
って、うんまぁウチに関してはその通りだけど。後半は嫌味じゃなくて単なる本音だよね。そしてウチに関してそれくらい分かっているなら、キャス姉様がそんなか弱いメンタルじゃないって分かるでしょ。何を矛盾した発言してるかな。気付きなよ。そして後半、私は確かにヴィジェスト殿下に見惚れちゃいないけど。それをヴィジェスト殿下が聞いてる前で言っちゃう? あなたの気持ちがバレバレなのと同じだよ?
っていうか、一応これでも貴族令嬢なんだから表情筋はなるべく動かさないように訓練してますけど? あなたも淑女教育で表情を読まれないよう指導されていませんかね? ホント、こんな人が前回、隣国とウチを相手取ってかき回してくれたのー? お父様っていうか、ウチの影の情報収集の腕を疑うつもりは無いけど、こればかりはなんか疑いそうになるわぁ……。まぁ、もう前回だからなぁ。過去って言えば過去だし。でも納得いかない。




