2度目。ーー婚約者候補者達とのバトル・7(ヴィジェスト編)
「はぁ」
「なんです、お嬢様。淑女が大きな溜め息をついて」
「デボラ。口煩くなってない?」
「遠慮をしない、と決めたもので」
私の溜め息にデボラが注意して来るので、眉を顰めたらシレッと言われた。えっ。今まで遠慮してたの⁉︎ アレで? 私の視線ににっこりと笑われた。……そうなんだー。あんなにポンポン言いたいこと言っていて遠慮してたんだー。遠い目になっているだろう私は、それでもデボラが側に居る事が嬉しいのだから仕方ない。
「それで? 何故溜め息を?」
「いや、これからお茶会なのよねぇ……と思ったら憂鬱で」
「ご自分でヴィジェスト殿下の筆頭婚約者候補者の座につく事を決めておいて何を仰るやら」
「違うからね⁉︎ 確かに決めたのは私だけど、イルヴィル王太子殿下に逆らうのが面倒くさかったから、だからね⁉︎」
デボラの言い方だとヴィジェスト殿下の婚約者になりたいように聞こえるから! 言い方大事! 私の気持ち尊重!
「お嬢様とも有ろうお方が何を仰るやら。私は事実しか申し上げておりません」
ぐっ……。そうなんだけど。その通りなんだけど! なんだろう、この負けた感じ。確かにデボラは事実しか言ってない。そうなんだけど悪意があるように思えるのは気のせいか。
「もう、いい。デボラの言う通りだし」
「分かればいいんです、分かれば」
……ほんっとうに遠慮無くモノを言うようになったな、デボラ! 前は私が折れたらそこでやめてたよ⁉︎ こんな追い討ちをかける言い方しなかったよ⁉︎
でもまぁ、諦める。だって本気で心底仕えようと思った相手に諫言一つ出来ないなんて、使用人失格だし、それを聞き入れる懐の深さを出せないなら、主人失格だもんね!
そう思いながら、私は着々と支度を進めるデボラと鏡越しで会話を続けた。……そう。今までのこのやり取り、私は鏡に映るデボラに向けて、デボラは私を見つつ、化粧やら髪結いやら施しつつ、行われていた。今日は、ヴィジェスト殿下に命じられた例のお茶会の日である。
お父様には隣国の殿下方とヴィジェスト殿下の筆頭婚約者候補者の役目を受けた事は直に報告済み。序でに手駒になる事も報告済み。お父様は、仕方なさそうに頷いてくれた。ーーごめんね、お父様。
まぁ私にどの殿下達とも婚約する気が無い事は見通していたみたいで「引き際を見誤ると取り込まれるぞ」とだけ、助言してもらった。……確かに。一生手駒扱いされては困るわね。引き際を見誤るな、か。うん、肝に銘じます。
ちなみに、私は現在王都にあるセイスルート家の別邸に入っている。領地にある屋敷は本邸。王都にある屋敷は別邸。現在の呼び方だ。お父様の気分次第で本邸・別邸の呼び方が別に変わる。それはさておき。
「あーもう、ほんっとうに気が重い。いくら筆頭でも別にヴィジェスト殿下の色を身に付ける必要なんて何処にもないと思うんだけどなー」
そう。お茶会が憂鬱な最大の理由はコレである。ヴィジェスト殿下から直々に贈られて来たサファイアのネックレス。サファイア……つまり青。ヴィジェスト殿下の目の色と同じである。……行きたくない。
「まぁ確かに筆頭でもあくまで婚約者候補者ですからね。付ける必要は無いですが。……贈られて来ましたからねぇ」
デボラがさすがに同情したように頷いてくれた。そうだよね……。普通はあくまでも候補に対して贈る物じゃないよねぇ……。それにこれ、何処からお金出したんだろう……。万が一第二王子殿下の婚約者予算からだったら……考えるな、私。後が怖い。自分の精神安定のために考えない方が良い。……いや本当にそうだったら速攻でネックレス返却してお金も返しますけどね⁉︎ あー、今日のお茶会、絶対面倒くさくなる。とはいえ、殿下が欲しいのは噂だ。出席しないという選択肢は存在しなかった。
ま、せいぜいお役に立ってみせましょうか。




