1度目。ーー隣国の使者と繋がってはいけない人。
お読み頂きましてありがとうございます。
私の予想とお父様の密書通り、隣国の使者はコッネリ公爵だった。現在のコッネリ公爵の母方のご実家に我が国から嫁がれた方がいらっしゃる。だからこそこの方がいらっしゃると予想はしていたけれど本当に何を考えているのか分からない怖い方でもあった。私自身は今回初めてお会いするがお父様の話では気を引き締めて会話しないといつの間にか向こうに丸め込まれてしまう。そんな方らしい。お父様も若い頃煮湯を飲まされた事が2回有ったとか。王家に忠誠を誓うように言われても代々のらりくらりと交わし続け、お父様もその薫陶を受け継いでいる所謂腹黒なお父様が、だ。だからこそ婚約者として発表されたのがギリギリだったため、辺境伯家の令嬢としてお父様の名代で国王陛下の生誕祭に出席した私は緊張してコッネリ公爵にご挨拶させて頂いた。
「おお! セイスルート辺境伯のご令嬢か! お父君とは若い頃から親交させて頂いているよ」
意訳が聞こえて来ますわね。君の父親って若い頃よく騙されてくれたよって。笑顔なのに目で嘲笑とは器用なお方ですわね。
「父からお噂はかねがね。このような時期にコッネリ公爵自らご使者としていらっしゃるとは……有り難いですわ」
このような時期とは国王陛下の生誕祭の意味だ。国王陛下の生誕祭など通常友好国である他国に招待状を送っても律儀に招待に応じて来て下さる事は無い。大概手紙で祝いの一言とプレゼントで終わる。隣国とは表面上は友好を築いているから招待状を送ったが使者を遣すなど今まで一度も無かった。それも遣したのが公爵である。
何やら含みがある、と公言しているも同義だった。そして私の意味は武器を集めているような最中に、という事だけど。我が辺境伯家と王家の影が潜り込んでいる事を知っているはずなのに、コッネリ公爵は眉一つ動かさない。
やはり怖い方。
結論から言ってしまえば生誕祭は滞りなく終わった。だからといって安心して良いわけではないけれど。屋敷に帰るなり私はお父様に手紙を書いて影に頼む。
「クルス」
「は」
お父様付きの影で私との遣り取りは彼が仲介している。
「お父様に手紙を。それと別件でクルスにお願いが有るの」
「なんでしょうか」
「このロケットペンダントにある紋章を調べて欲しいの。隣国の物という事は私も覚えているけれど、どこの家の紋章かまでは覚えていないのよ。急ぎでお願いね」
「かしこまりました」
拾ったロケットペンダントを私は影に頼む。おそらく彼女様の物だろう。あの方の後ろ姿を見かけた後に拾ったものだから。しかし、だからこそ分からない。ロズベル様が隣国の貴族家の紋章を用いたペンダントを持っていた事が。一体どういう……いえ、予想が外れて欲しいと言いたいわね。
ロズベル様が隣国と繋がっている、なんて。そんな恐ろしい予想は外れて欲しいに決まっていた。




