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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
9章
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9-2


 昼食を食べ終えると、暫く自由時間になる。

 草刈りの様な野外の仕事は暑さが厳しい内はやらない事にしているが、それ以外の出来ることは各自でやる。

 それでも、食後直ぐに動いたりはしない。

 私は二階の自室に戻って、三十分ほど昼寝をする。

 お昼に寝るなんて、この世界に来るまでは幼稚園以来の事だったが、やれる時間と環境が有るからとやってみたら、これがとても良い。

 短時間でも寝ると頭すっきりして、午後の作業がはかどるのだ。

 昼寝の後に私は、村長宅の敷地に作られた鍛冶場に行った。

 私以外は、ユキは村の子供達の為の学校の準備、リーナも村の診療所の整理整頓、カレンは自分の弓の手入れをしている。

 鍛冶場は元からあったのだが、鍛冶師は前の村長と一緒にワーリン王国の方へ逃げて行ってしまったので、暫く使われてはいなかった。

 一応、私が金属加工のスキルを持っているので、鍛冶仕事を出来ないことも無いのだが、村長としての仕事が色々あるので、それだけをやる訳にもいかなかったのだ。

「おう、村長。鎌は全部研いでおいたから、すぐに使えるぜ」

 髭もじゃ顔の男の人が、私を見て声を掛けてきた。

 街の職業斡旋所の紹介で新しくやって来た鍛冶師のロレンさんだ。

 彼はつい最近やって来た。

 前は別の街で鍛冶場を持っていたのだが、そこは弟子に任せて来たそうだ。

 年を取って、街の鍛冶場の様な仕事が多い職場は体がもたなくなったので、仕事の少ないここに来たと言う。

 それでもまだ身体は筋肉質でがっしりとしている。

 もじゃもじゃの髭と相まってドワーフの様な見た目だ。

 ただ、『神様?』によるとこの世界には単一の人類しか居なくて、ドワーフやエルフの様な異種族は存在しないという。

 それでも、そう言った伝承や噂話は結構有る。

 現代の地球の様に個人が長距離を移動出来たり、写真の様に正確に姿形を伝えたり出来ないから、遠くの人達の話は伝聞によって伝わり、その特徴が誇張されているのだろう。

 巨人や小人の国が遠くにあるなんて話も有るけど、実際に行ってみると、ほんの少し背が高かったり低かったりするだけなんだと思う。

 ともかく、私はロレンさんから大鎌二本と普通の鎌二本を見せてもらった。

「有難うございます。使うのはもう少し後からなんで、急がなくても良かったんですけど」

 四本とも良く研がれている。

 鎌は使った後か使う前にちゃんと研いでおかないと切れ味が落ちて、作業の効率が落ちてしまう。

「なに、これ位はそんなにかからねえ」

 ロレンさんがそう言う。

 普通の鎌は元からあった物だが、大鎌は彼が来てから打ってくれたものだ。

 農具や生活に必要な鉄製品を作るのが専門だと言っていたが、なかなかの腕前だ。

 彼は村お抱えの鍛冶師として、歩合制ではなく、定額で雇っている。

 そこそこ大きな村とは言え、いつも仕事があるとは限らないので、仕事の多い少ないにかかわらず私達が毎月給料を払う約束だ。

 村の人達も材料費のみで利用できる様にしてある。

 後は彼と彼の奥さんが住む家と、少しばかりの畑を無料で提供している。

「それと、私にも刃の研ぎ方教えてもらえますか?」

 そう言って私は、自分の短剣を取り出して見せる。

 長い間使っていたので、大分刃が鈍ってきている。

 自分にも金属加工のスキルは有るのだが、低レベルだから、この際専門の人からきちんと習うのが良いだろう。

「いいぞ、どれ、まずは自分でやって見な」

 ロレンさんがそう言う。

 私は短剣を鞘から抜いて、砥石を当ててみる。

 今は研ぎの仕事だけなので炉に火が入っていなくて鍛冶場は暑くはない。

「ふむ、悪くはないが、石を持つ手首はもっとしっかり固定した方が良い・・・」

 ロレンさんがアドバイスしてくれる。

 鍛冶場に砥石が滑る音が響く。


 太陽が中天から大分過ぎ、空気が暑すぎない位になってから、私達は草刈りを再開した。

 リーナとカレンは大鎌と手鎌を交代で使って草を刈って行く。

 私とユキのチームは、私がもっぱら大鎌を使う。

 体格的にユキには大鎌は無理みたいだった。

 一度彼女にもやって貰ったが、逆に体を鎌に振り回されて上手く刈れなかった。

「いや、無理だって、それ男の人用に作ってあるでしょう」

 私が使う大鎌を指して、ユキがそう言う。

「でも、リーナやカレンでも使えてるし、アインさんの家の奴はもっと大きかったよ。これなんか軽い方だって」

 私としてはもう少し大きくてもいいくらいだ。

 その方が一回で刈れる範囲も広くて効率がいいように思える。

「よくそんなんで、ドラムとか叩けてたね」

 ユキはこの世界に来る前は軽音部に所属していてドラム担当だった。

「だから、あれは他にやる人が居なかったから仕方なくやってたんだよ。本当はギター志望だったのに。お陰で激しい曲だと一曲でバテてたからね」

「そうかな、見せてもらった時は凄くかっこよく見えたけど」

 その時の事を思い出してそう言う。

「そ、そうかな?」

 普通の鎌で木の根元の草を刈りながら、ユキは少し照れたように言う。

 ただし、あの時は後ろから見ていたから良かったけど、正面から見るとドラムセットの陰に隠れてユキの顔とか見えないんだろうなとは思っていたけど。


 日が暮れて涼しくなるくらいまで草刈りををしたが、少しだけ作業が残った。

 残りは明日にして、屋敷に戻る。

 戻る途中、小さな影が私達の前を歩いているのを見つけた。

「あ、タマ!」

 リーナが声をあげる。

 薄茶色の猫だ。

 屋敷の使っていない離れの床下に住み着いている子だった。

 名前はそれぞれが勝手に付けて呼んでいる。

 リーナの声に猫が振り返ると、その口に大きなネズミを咥えているのが見えた。

「おお、大物捕まえたな、チャーコ」

 ユキがそう言う。

 草刈りをした畑は見通しが良くなっているので、猫にとってネズミを狩るのに丁度良いのだ。

「子供たちに持って帰るのかな?ミーちゃん。でもネズミなんか食べさせて大丈夫なのかな?」

 カレンがそう言う。

 いや、野良とか飼い猫でも田舎の猫は普通にネズミ食べるぞ。

 果樹園に住み着いたネズミは若木の幹を齧るので、それを駆除してくれる猫は有難い。

 この春に生まれた子猫たちに持って帰るのか、『タクアン二世』は速足になって、一足先に家路に着いた。


 屋敷ではヴィクトリアさん達の手で夕食が用意されていた。

 仕事は大変だが、こうして上げ膳据え膳でご飯が出て来るだけでも、とても幸せな事だ。

 村長なんだから、草刈りの仕事なんかも村の人に命令してやって貰えばいいだろうと思うかもしれないが、そうじゃない。

 そうじゃないと思うんだ。

 村長は村長の仕事だけしてればいいかと言うと、そうではない。

 小さくても自分の畑を持ってそれを世話することで、村民の必要とするものが見えて来る。

 もっと上の偉い人だと、多くの色んな職業の人達の事を考えなければいけなくて、そんな暇は無いだろうけど、これ位の村なら村の人達と同じ目線に立つことは大事だと思う。

 だから、街に居た時と同じように週に一日はメイドさん達にお休みをあげて、自分達で家事をしたりもする。

「それはそれとして、このハムステーキは美味しい」

 ヴィクトリアさんの作ってくれた特製ソースの掛かったハムを食べながら私はそう言う。

 狩りに出たギリアムさん達が昼過ぎに大きなカモシカを捕って来てくれたので、今日は御馳走だ。

 ただし、カモシカの解体はまだされていない。

 新しいお肉が手に入ったので、古い保存食のハムを食べることにしたのだ。

 食料の保存は大事だが、順番に食べないと、いくら保存食でも悪くなってしまう。

 日中にたっぷり肉体労働をしたので、みんなバクバク食べている。

「明日は早朝に少しだけ残った草刈りを終わらせてから、獲物の解体をしようか?」

 私がそう言う。

「いや、領主様の所に行かなきゃいけないんじゃないの?」

 ユキがそう言った。

「ああ、そうか」

「他に人が居ない訳じゃないんだから、てんこちゃんはそっちに行けばいいんじゃない?」

 カレンがそう言ってくれる。

「あたしも付いて行くわ。薬が何種類か少なくなってきてるから、街まで買い出しに行かなきゃ」

 村の診療所もやっているリーナがそう言った。

「私は低学年の授業が有るから行けないな」

 村の先生のユキがそう言う。

「じゃあ、私はユキちゃんの補助かな」

 グロイのが苦手なカレンは、カモシカの解体に回りたくないのでそう言う。

 となると、解体はギリアムさん達にお願いするか。

 明日の予定を色々相談しながら、夕食は進んで行った。

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