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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
8章
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8-10


 ベルドナ王国国王ジャック・ド・ベルドナ三世はその日の執務を終え、王宮に一室から夕暮れの迎えた中庭を見下ろした。

 王宮の尖塔の影が庭をゆっくりと横切って行くのが見える。

 振り返り、執務室の机の上に置かれた大量の書類を見返す。

 今日中に片付けるべき書類にはすべてサインをし終え、上がって来た報告書にも目を通した。

 呼び鈴を鳴らし、執事達を呼ぶ。

「今日の仕事は終わりだ。夕食まではまだ時間が有るだろう。いつもの奴を頼む」

 その言葉に執事長は一礼し、数名の執事達がサインの終わった書類を各部署に持って行く。

 メイドが、豪奢なガラスの器に盛られた『いつもの奴』を持ってきた。

 甘い果実酒をかけたかき氷だった。

「夕食前にそのような甘いものはどうかと思いますが・・・」

 執事長が、そう苦言を呈す。

「いいだろう?その分、昼の菓子は減らしている。今の時期は一仕事の後の冷たいものは格別なのだ」

 少し出っ張って来た腹を見ながらも、そう言って、氷の山にスプーンを突き刺す。

 以前は氷室の氷にも限りが有って、王族といえどもこの様なものは特別な時にしか食べられなかったが、ローゼス商会から献上された『冷蔵庫』なるものによって、いつでも食べられるようになった。

 稼働させるためには常に一人魔術師を付けておかなければならないので、まだ貴族や一部の金持ちの嗜好品でしかないが、もう少し安価かつ簡便に使えるなら他にも利用方法が有るのではないかと考える。

 ふと、机の上に残っている報告書の一枚を手に取る。

 アルマヴァルト領内で起こった事件に関するものだ。

 大きな被害も無く、ワーリン王国の策動は潰したとある。

 ベルフォレスト卿の亡命に関しては、承認する旨の通達を出している。

 あそこは最近になって自国に編入された土地だけに、常に注視しておかなければならない。

 ベリーフィールド家の次男を異例の抜擢で領主に据えたが、予想以上に上手くやっているようだ。

 彼はまだ若いが、彼や彼の嫁の親のベリーフィールド子爵やファーレン伯爵、近隣のフラウ辺境伯等が上手く指導しているのだろう。

 有望な若者だと思っていたが、周りの手助けも有って十分以上の働きを見せている。

 そして、報告書に記載のあった彼の配下『テンコ・カスカベ』なる準男爵が活躍したのも大きな要因だろう。

 彼女とその仲間はフラウリーゼ川の魔女と呼ばれたり、例の『冷蔵庫』の開発にもかかわっていると聞いた。

「若い娘達四人か、興味深いな・・・」

 窓辺でかき氷を食べながら、そう独りごちる。

 食べ過ぎて、頭がキーンとなる。

「いかんいかん」

 頭を押さえる。

「大丈夫でございますか?」

「問題ない、これが良いのだ」

 そう言って、頭を押さえながらも、残りのかき氷を掻き込んだ。

 執事長が呆れた顔をする。

「この後は、バリス公国の使節団との夕食会だったか?」

「左様で御座います」

 王の問いに、彼は首肯した。

 まだ時間は有るしさっと風呂にでも入るか、と王様は考えた。


「はあああ、やっぱり自分家のお風呂が一番だわー」

 私は湯船に浸かりながらそう言った。

「おっさん臭い」

 隣のユキがそう言う。

「言う程この家に長くいる訳でもないでしょう」

 リーナがお湯で体を流しながらそう言った。

「でも分かるよ、帰れる場所が有るって良いじゃない」

 カレンは私に賛同してくれた。

 私達はクロイとリンの結婚式の後、アルマヴァルト市に戻り衣装を返してから、久しぶりに自分達の村に帰って来ていた。

 ヴィクトリアさんと村の人達は一足先に村に戻ってきている。

 アインさん達は家族にお土産を買って帰ったらしい。

 護衛の二人は荷物持ちに私達に付いて来てもらった。

 彼等にはエドガーさん達の結婚式の後にアルマヴァルト市で一日だけ休暇をあげている。

「やっぱり良かったな、結婚式」

 湯船に入って来たカレンがそう言った。

 どちらの結婚式の事かは言わないが、多分両方の事だろう。

「そう思うなら、自分も挙げればいいじゃない」

 ユキがそう言った。

「相手が居ればね」

 そう返す。

「そうそれよ、誰か相手は居ないの?」

 リーナがそう言うが、誰も返答しない。

 そう言う彼女も居ないらしいが。

 第一、リーナは他人の色恋沙汰によく首を突っ込みたがるが、自分ではそう言うのは全然だ。

 以前は男三人、女一人の逆ハーレム状態だったが、『そう言う場合、男どもで牽制し合ってるから割と安全なのよね。これが二対二だと、一組付き合いだすと、残りでくっつくみたいになって面倒なのよ』とか言っていた。

「そうだ、護衛の人達、みんな独身よね、誰が良いと思う?」

 それでも恋バナがしたいのか、そう言いだす。

 それに関しても私はノーコメントでいたい。

 私達と同じちょうど四人で全員独身なのを見ると、エドガーさんかアーネさん辺りが余計な気をまわしている感じがしてしょうがないからだ。

 本人達は別にそんな事を言い含められている感じでもなさそうだが。

 私と同じように察しているのか、ユキも無言だ。

 しかし、カレンは少し頬を赤くした。

 おや?

「わ、私はギリアムさんがちょっと良いかなって気がしなくもないって言うか・・・」

 そんなに気にしてませんよ、と言う風でいて、バリバリ気にしている感じの口調でそう言った。

 意外に思うかもしれないが、この中では彼女が一番惚れっぽいらしい。

「へえ、ギリアムさんか、割とかっこいいよね、良いんじゃない?」

 リーナが話を合わせるが、私とユキは顔を見合わせた。

「ええと、ギリアムさんて、うちのメイドのオリビアさんと付き合ってるんじゃないかな?」

「さっきギリアムさんが街で買ってきたお土産を渡してるの見たし・・・」

 私達がそう言うと、カレンはショックを受けた顔に成る。

「へ、へえ、そうなんだ、べ、別にただあの四人の中では良いかなって思ってただけだし・・・」

 平静を装いながらそう言う。

 まあ、本当にその通りで、ただ良いかなって思ってただけで、自分から何かアプローチしてた訳でもなさそうだ。

 変な空気がお風呂場に漂う。

「そ、そう言えば、リンちゃんの赤ちゃんレンちゃん可愛かったね」

 リーナが強引に話題を変えてきた。

「そうそう、可愛かった」

「指とかミニチュアみたいに小さいよね」

「顔もお猿さんみたいだけど、親戚の子も二・三ヶ月で人間になってたなぁ」

 みんなもその話題に乗った。

 お湯に浸かりながら盛り上がる。

 ただ私は『それ』の作り方を想像して、少し赤くなった。


 ここまで読んでいただき、有難うございます。

 誤字脱字の指摘をしてくださった方も有難うございます。

 ここでまた、一区切りです。

 この先の構想もありますが、次は別の短編でも書いてみようかと思っています。

 しばし、お待ちを・・・

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