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夜になり、晩餐会が行われた。
ある程度予想されていたとは言え、襲撃が有ったので、中止することも考えられたが、大した被害も無かったので開催されることになった。
用意していた御馳走を無駄にすることも無いという判断だ。
領主邸では私達を含め招待された客だけだが、市内でもあちこちで宴会が始まっているだろう。
私は一度、お屋敷を抜け出し、協力してくれた村の人達や、サムソンさん達に会って来た。
みんなの無事を確認して、今回の労いにお金を幾らか渡してきたので、今頃は街の酒場で盛り上がっているだろう。
私達の護衛のギリアムさんとジョンさんはパレード中は市民に扮して街の各所で待機してもらっていたが、今もまた領兵として市内の警備に当たっている。
彼等には後で、休息と報酬をあげようと思う。
館の大広間で宴会が行われ、エドガーさんとアーネさんが挨拶をして、みんなで乾杯する。
私達はその最初の方だけ出て、すぐに広間を後にした。
館の奥の住み込みのメイドさん達が使っている部屋の一室に行く。
ノックして扉を開けると、ヴィクトリアさんがベットに寝ていた。
傷は治ったけど、大事をとってここで休んでもらっているのだ。
「お料理、貰ってきましたよ~」
リーナがそう言って、手にしたお皿を見せる。
「まあ、皆さん、宴会の方はよろしいんですか?」
ベットから上体を起こしたヴィクトリアさんがそう言った。
「大丈夫じゃない?一応やっているけど、みんな結構バタバタしてるし」
ユキがそう言う。
「これ、豚レバーのパテです。血を作るには良いんじゃないかなって」
私がパテをクラッカーに塗って差し出す。
「まあ、有難うございます」
ヴィクトリアさんが受け取る。
他にも羊か何かのスペアリブ、近くの湖で取れるらしい魚のムニエル、短いパスタとチーズが入ったサラダとかが有る。
私達もその持ち込んだ料理で、宴会を始めた。
「やっぱりここに居ましたわね」
急に扉が開いて、アーネさんとエドガーさんが入って来た。
どうやら彼等も晩餐会を一時的に抜け出してきたみたいだ。
「今回で一番活躍した君達には礼を述べておきたくてね」
エドガーさんはそう言って、酒瓶らしきものを差し出す。
「ベリーのジュースだよ、良ければどうぞ」
笑ってそう言う。
「少しだけだが捕まえた連中を尋問したのでね、その結果も伝えておこう。君達とは情報を共有しておいた方が良さそうだからね」
エドガーさんが話し出す。
今回襲ってきたのはミルズ伯爵とベルフォレスト子爵と言うワーリン王国の貴族とその手下たち、それと元々この地方出身で向こうに行ってた人達と地元の協力者達だそうだ。
パレードを襲ってきたのはベルフォレスト子爵で、館に侵入したのがミルズ伯爵だそうだ。
最初から協力者が集まらなかった事から、子爵は作戦の成功に懐疑的だったらしい。
それなのにより規模の大きいパレードの襲撃に回ったのは、そちらの方が失敗しても逃げたり、最悪投降しても助かりやすいと踏んだためだ。
伯爵の方には、館に侵入する方が難易度が高くて成功した場合の功績が大きいと言って、そそのかしたらしい。
ただ、パレード襲撃の方が人数が必要なので、伯爵の手駒の半数もこちらに来ていた様だ。
また、お互いの監視の為に、副官を交換していた。
館で私が伯爵、一番偉そうだった男をぶん殴った後、最初に降伏して彼の治療もしていたのが、その子爵の副官だったらしい。
子爵の方が地位が低いはずだけど、彼等の方が状況判断が的確なような気がする。
「そうだな、もし今回潜入してきたのがベルフォレスト卿と彼の手下だけだった場合、パレードの襲撃は無かったかもしれないが、その分、細かな破壊工作をされて、対処が面倒だったかもしれない」
エドガーさんがそう言った。
「そう言えば、その人亡命するとか言ってたけど、受けるの?」
カレンが聞く。
「ああ、国王陛下に申し上げてからになるが、父上達の話では、国王陛下は受けるはずだと言っていた」
「でも、あの人の家族とかは向こうの国に居るんじゃないの?」
ユキがそう言った。
「それに関してだが、捕まえた後すぐに彼から伝書鳩で手紙を出させてくれと言われてね。文面を確認したうえで許可したよ。どうやら、以前から彼の国に不満が有ったようで、何か有った場合は一族郎党で国外に逃亡できるような準備をしていたらしい」
「わー、用意周到ってやつ?」
リーナがそう言う。
「全くだ、かなりの食わせ者みたいだ。亡命を受けても、当分は監視が必要だと思うよ」
エドガーさんがそう言った。
捕まえた人達は、一時的にだが館の地下牢などに入れられている。
亡命を申請している人達も一応は領主を襲撃しているのだから、これは仕方ないだろう。
倉庫を襲った一般市民の暴徒は街の治安施設の牢屋に入れられたそうだ。
「彼等の方は直ぐに釈放して、ここに残るのも向こうに帰るのも自由にしてやるつもりだ」
敵方に付いたとは言いえ、この地に知り合いとかも居る人達だから、厳罰にする訳にもいかないのだろう。
ミルズ伯爵とその配下は身代金を取って、ワーリン王国に引き渡すそうだ。
「どうせなら、彼等にもお祝いの料理を振舞ってあげたらどうです?」
私がそう言った。
「ハハハ、そうだな、それもいいかもしれん」
エドガーさんとアーネさんが笑った。
「ところで、エド、私もあなたも彼女達には今回も助けられたのだから、それに見合うだけのお礼をしなければならないのではなくて?」
アーネさんがそう言った。
「ああ、そうだった、君達にはとても感謝している。何か欲しいものはないかな?何でも言ってくれ」
エドガーさんのその言葉に、私達は顔を見合わせた。
そう言われても、すぐには思い浮かばない。
「そうだ、アーネさんとエドガーさんの着ているドレスとタキシード後で少しの間貸してもらえませんか?」
リーナが二人の着ている結婚式の衣装を見て、そう言った。
「構わないが、何に使うんだい?」
「もしかして、皆さんの内の誰かが結婚するんですの?」
アーネさんが、急にキラキラした目をしだした。
「ええと、私達じゃなくて、友達がちょっと・・・」
リーナがそう言う。
それで、他の三人も察した。
数日後、アルマヴァルト市から少し東の方にある村。
小さな家から、一組のカップルが出てくる。
エドガーさん達から借りて来たタキシードとドレスをを着たクロイとリンだ。
村の人達と私達が拍手で迎える。
青空の下にテーブルが置かれ、幾つかの料理が並んでいる。
リーナが発案した二人の結婚式だ。
ここに来るまで色々大変だったらしく、二人はちゃんと式を挙げていなかったと聞いていたので、私達でやってあげようという事になったのだ。
衣装を借りて来て、食材も幾らか貰ってきた。
エドガーさん達の結婚式で知り合ったこの村の村長にも話を通してある。
司祭とかは居ないので、式の段取りは割と適当で、エドガーさんの所から貰ってきたドライフルーツとナッツの入ったパウンドケーキに二人で入刀して、後はそれぞれ好きに飲食する形だ。
「みんな有難う」
切り分けたケーキを持ってきたリンがそう言う。
「ううん、おめでとう」
預かっている赤ちゃんのレンちゃんを抱いて、カレンが涙ぐみながらそう言った。
カレンはこう言う時、割と涙もろいというのが分かった。
それまで眠っていたレンちゃんが急に目を覚まして、泣き出した。
「わっ、大変!ミルク?それともおむつかな?」
リーナが覗き込む。
「単にお母さんじゃないのに気付いたんじゃ?」
ユキがそう言う。
「ゴメン、貸して」
リンが抱きかかえると、赤ちゃんは直ぐに泣き止んだ。
「やっぱりそうか」
「ドレス汚したら悪いから着替えてくるわ」
そう言って、リンは家に戻って行く。
「いいの?せっかくのウエディングドレスなのに・・・」
カレンがそう言うが、
「いいよ、一回着れば十分だし」
赤ちゃんを抱いたまま家へ歩きながら、リンがそう言った。
「着替え手伝うよ」
私達もその後を追った。




