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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
8章
79/215

8-3


 エドガーさんと、ロリアーネさんの結婚式当日。

 領主邸の中にある聖堂で式を挙げた二人は、屋根のないオープンの馬車に乗って街の中をグルッと一周するパレードに出た。

 沿道には多くの市民や近隣からやって来た人達が見物に詰め掛けていた。

 振る舞い酒も出され、お祭り騒ぎに成っている。

 私達『三人』は花娘と言う役で、列の前の方で花を撒く役をすることになった。

 綺麗目なドレスを着て花を入れた籠を手に持っているが、フラウリーゼ川の三魔女という事で、当時の武器も持っている。

 リーナは魔法の杖、カレンは弓矢を持っている。

 私も弓矢を持って、『鍋被りの魔女』という事で頭に鍋を被っていた。

 一種の道化師みたいな役でもある。

 わざわざこうしているのは、ただの花娘では持てない武器を持つためだ。

 馬車の周りを守っている兵士も儀礼用の装備ではあるが、しっかり武装していた。

 エドガーさんは馬車の上から、市民たちに手を振っている。

 アーネさんは純白のドレスで、ベールを目深に被ってその隣に寄り添っていた。

 馬車の御者台には男性の御者と、ピシッとした執事服を着たディアナさんが座っている。

 パレードは行程の三分の二ほどは何事もなく進んだ。

 多くの人がアルマヴァルト市に来ているが、それでも沿道全てに人があふれている訳ではない。

 沿道の人が少なくなってきた辺りで、行列の前を塞ぐ形で横から男たちが出て来た。

 先払いの儀仗兵がどかせようと前に出ようとしたが、馬車の後ろにも挟み撃ちにするように人が出てくる。

「来たわね」

 カレンがそう言った。

「防御陣形を取れ!」

 馬車の上で、エドガーさんが号令を出す。

 兵士たちが馬車を守るようにして、持っていた槍を構える。

 儀礼用の装飾過多なものだが、だからと言ってそれで戦えない訳ではない。

 敵は、前と後ろ十人ずつ位に見えた。

 流石に長物は持ち込めなかったのか、大体持っているのは剣の様だ。

 得物のリーチ的にはこちらが有利だ。

 これで全部かと思ったが、周りを見ると、騒めき出した観衆の中にまだ不審な者が何人か見えた。

 逃げ出そうとする観衆が出始める中、こちらを見て動かない連中だ。

 大分暑くなってきたこの季節に長いコートなんか着込んでいる。

 そのコートの下から隠し持っていたボウガンを取り出した。

 彼等はその弩を空に向け、矢を放つ。

「弓矢!!」

 私が警告の声を発した。

 放たれた数本の矢は見当違いの方に飛んでいくように見えたが、風魔法で軌道を変える。

 上空目がけて飛んだ矢は急降下して、馬車の上のエドガーさんとアーネさんに襲い掛かる。

 カレンが風魔法で矢を逸らそうとするが、放った疾風の魔法は内一本の進路を逸らしただけだった。

 自分目がけて飛んでくる矢なら風魔法でまとめて薙ぎ払えるが、離れた所に居る人を守るのは難しい。

 エドガーさんは高威力の火魔法を使えるが、火魔法では全部の矢を迎撃する様に広く撃った場合、矢の威力を殺しきれないだろう。

 狭く撃った場合は一本は迎撃できても、私の様に連射が出来ないので他の矢を防げない。

 アーネさんは光魔法と治癒魔法の他は低レベルの水魔法が使えるくらいだ。

 エドガーさんが剣を構える。

 魔法での迎撃は諦めて、剣で矢を払う事にした様だ。

 果たして、それで自分とアーネさんを守り切れるだろうか?


 時間は少し戻って、エドガーさん達に挨拶しに行き、クロイとリンちゃん達に会った日の晩。

 宿で夕食をとりながら、その日観光していた他の人達から話を聞いた。

 男性用の部屋の方が広いので、そこに集まっている。

 この宿は食堂はなく、食事を希望する客は別料金を払って各部屋に運んでもらうシステムだった。

 その為に部屋も広いし、テーブルも有る。

「昼に屋台を巡っていたら、知り合いに会ったんですよ」

 夕食を食べながら、アインさんがそう言った。

 メニューはミートパイに野菜のスープだ。

 パイの挽肉は豚がメインらしいが、他にもいろんな肉や内臓なんかも入っているみたいだ。

 それでも味は悪くない。

「うちの村の前村長の所に居た下男だったんですけど、前村長と一緒にワーリン王国の方に行ったはずなんですけど、声を掛けたら驚いたようで、話をしてもなんか要領を得ない感じで・・・」

 他の人達も頷く。

「そうそう、向こうで仕事が無くて戻って来たのかって聞いても、曖昧なこと言ってて」

「なんなら、今の村長の所で働くか?紹介するぞって言っても、屋台の食い物買い込んで、そのままどこかへ行っちまったな」

 村の人達が口々にそう言った。

「怪しい」

 ユキがそう言う。

 確かにその通りだ。

 ベルドナ王国としては、経済の発展の為に民間人の行き来に制限を設けていないし、何なら街道の整備も積極的に行っている。

 だから、ワーリン王国に逃げて行った人が戻って来ていても別段問題が無いのだが、その人が地縁を頼らずに何故街に居るのか?

「やっぱり、エドが危惧してたことが起こっているのかな?」

 カレンがそう言った。

 私達は彼からの手紙に書いていたことと、挨拶しに行った時に話したことを思い出す。

「明日もう一度エドガーさんと会って、話をした方が良いかもね」

 私が皆を見回して、そう言う。


 次の日、早速領主邸に行こうとしたら、先にエドガーさんから集まってもらう様に使いの人が来た。

 時間が指定されていたので、その時間に私達四人は領主邸に行く。

 広めの会議室の様な部屋に通された。

 私たち以外にも、各村に派遣された新村長や領兵の隊長クラスの人が集まっている。

 ただ、アルマヴァルト編入以前から続けて村長をやっているような人達は居ない。

 見た感じ、ベルドナ王国からやって来たエドガーさんやアーネさんの関係者しかいないように見える。

 この中では私達が一番の新参者かもしれない。

「みんな、忙しい中良く集まってくれた」

 エドガーさんが部屋に入って来た。

 今この街で一番忙しいであろう彼が、そう言う。

 アーネさんは居なくて、執事長のディアナさんが女性秘書の様に付き従っている。

「早速で悪いが、本題に入ろう」

 席に着くなりそう言った。

「手紙にも書いたが、今この街にワーリン王国からの工作員が入り込んでいるという情報が有る。諸兄らは何か情報を掴んではいないか?」

 エドガーさんの言葉に、この場に居る人達がざわめく。

 と言っても、事前に知らされていた人が大半なので、それほど大騒ぎには成らない。

「は、はい・・・」

 私がおずおずと手を挙げる。

 視線が集まり少し緊張したが、私は前日にアインさん達から聞いた話を話した。

 エドガーさんが頷く。

 その後に、他にも数人が似たような話をした。

 曰く、戦争後街から居なくなった人が、急に戻って来た。

 曰く、商人風なのだが、仕事もせずに長期間宿に泊まっている一団が居る。

 曰く、そう言った人達が今の領主に不満が無いか聞いて回っているらしい等である。

 こういった情報は、ここに居る後からこの領地にやってきた人達では、本来知り得ない情報である。

 元からこの地に居た人達の協力が有って、もたらされた情報だ。

 エドガーさんはみんなからの話を聞いて、満足げに頷いた。

 彼も同じようにして情報を掴んでいたのだろう。

 これは彼やベルドナ王国の政策が上手く行って、住民達の信頼を得ることに成功した証である。

 捕虜を解放したり、食料の配給、今年分の税の免除をした甲斐が有るというものだ。

「入り込んだそう言う者共が暴動か破壊工作を起こそうとしているかもしれないと?」

 参加者の一人が、エドガーさんにそう聞く。

「そうだ、国境の敵兵の集団も、こちらの兵力を分散させるための陽動で、こちらが本命だろう」

 彼はまた頷く。

「そう言った兆候を掴んだんで、あえて結婚式をして向こうが動く切っ掛けを与えるっていう事かな?」

 ユキがそう聞く。

「その通りだ。まあ、式は前からやる予定だったのだが、こう言った状況に成ったのなら利用するしかあるまい」

「中止とまではいかないまでも、延期することも提案したのですが・・・」

 ディアナさんがそう言う。

「いや、向こうの動きをある程度誘導できるなら利用しない手はない。おそらく、式後に行う街中でのパレードの時を狙うだろう。私が彼等ならそうする」

 エドガーさんはそう言って、覚悟の決まった眼をして見せる。

 敵が何時仕掛けてくるか分からない状況よりも、自分の身を標的にしてでも一気に決着を付けると決めたみたいだ。

「そう言う訳で、当日は皆に事態の対処に当たってもらいたい」

 エドガーさんが立ち上がってそう言う。

 それに合わせて、一同も立ち上がり右手を胸の所に当てる敬礼をした。

 軍隊経験とかが少ない私達は、遅れてマゴマゴしてしまう。


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