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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
8章
78/215

8-2


 エドガーさんへの挨拶が終わり、私達は街に出た。

 結婚式当日にやる事は有るが、それまでは自由だ。

 護衛の二人とは別れて、別行動にする。

 彼等も久しぶりに自由行動だ。

 この後は職業斡旋所ハローワークに行く予定だったが、その前に街の鍛冶屋さんに寄る事にした。

 村で雑多な鍛冶仕事をする野鍛冶みたいな人を雇いたいのだが、街の鍛冶屋さんの見習いみたいな人を雇えればそれでもいい。

「いやあ、うちの見習いどもは武具造りの志望ばかりだから、期待には応えられないな」

 鍛冶屋の親父さんにそう言われてしまった。

「やっぱりそうですか・・・」

「俺としては生活用品を打つ仕事も大事だとは思うんだが、若い奴らはどうしてもな・・・」

「いえ、すみません無理を言ってしまって」

 そう言って、私達は鍛冶場を去ろうとする。

「ああ、そう言えば預かってるアレ、まだあのままでいいのか?」

 親父さんが、仕事場の隅に置かれたソレを指してそう言った。

 それは以前払い下げた古くなった槍の柄の部分だった。

 穂先の部分は取り外して鋳直されたようだが、木製の棒だけ大量に置かれている。

「あ、はい、場所とっちゃって済みません。まだ少し置いておいてもらうと助かります」

 新しく作った穂先を付けて再生すればいいと思うかもしれないが、木自体が古すぎる。

 古い棒を再利用するより、どうせなら新しい棒で作る方が全体で長持ちするだろう。

 それでも、まだ捨てずに置いておく意味が有る。

「いや、構わんさ、たいして場所を取る訳でもない」

 親父さんはそう言ってくれた。

 もう暫く預かって貰う事を約束して、私達は鍛冶屋さんを後にした。


 次に私達は職業斡旋所に来た。

 希望の人材が見つかるまで時間がかかるかもしれないが、求人は出しておかなければならない。

 四人全員で行ってもしょうがないので、私とリーナが建物の中に入り手続きをして、他二人は外で待って貰う事にした。

 色々書類を書いて、先払いの手数料を払う。

 時間がかかるかと思ったが、領主邸で仕事をしていた時に知り合っていた職員さんが居たので、割と早く手続きを済ませてもらうことが出来た。

 建物から出て、カレンとユキの待っている所に行こうとする。

「おや、誰かいるみたい」

 リーナがそう言う。

 確かにカレンとユキの他に二人、男の人と女の人が居た。

 いや、女の人が抱えているのは赤ちゃんだろうか。

 急にカレンが泣きながら女の人を赤ちゃんごと抱きしめた。

「何事?」

 私達は、急いでそっちに方に駆け寄る。

「もしかして、黒井君!?」

 リーナが男の人の方を見てそう言った。

 そう言われれば、確か元クラスメイトの黒井・・・誠?だったっけ?

「おう、お前達も居たか、夏木と、ええと、誰だったっけ?」

 私達を見つけた彼がそう言った。

 すっかり忘れていたけど、私ってなるべく目立たない様にしていたジミ眼鏡だったな。

「春日部天呼です」

 私がそう言う。

「あ、ああ、そうか」

 名乗っても、まだ思い出せてないみたいだ。

 ま、いいけど。

「さっき、ここで偶然会ってさ」

 ユキがそう言った。

 彼が去年の戦争の時カレンと生き別れになった黒井君だとすると、もう一人は確か白鳥凛さんか。

「良かった、生きてて本当に良かった・・・」

 カレンが泣きながら彼女を抱きしめている。

 お互いの生存を確認出来て、感動の再会なのだろう。

「ところで、リンちゃんが抱いているアレは?」

 リーナがそう聞く。

 信じられない物を見たような声だ。

 誰でもちょっと推理すれば分かると思うのだが、リーナとしてはその推理が出来ても信じられ無い様だ。

「ああ、俺とリンの子供だ」

 黒井君は照れたように頭を掻いて答えた。

「どうゆうこと?」

 まだ理解できないのか、リーナがそう言う。


 立ち話もなんなので、近くの食堂に入って、話をすることにした。

 昼食の時間には少し早いので、お店は空いている。

「そう言う訳で、俺達はここから少し東の村で、二人、いや三人で開拓民をしているんだ。ちなみに俺は苗字からクロイって名乗ってる」

 クロイ君がそう説明する。

「へえ、ところで赤ちゃんの名前は?男の子?女の子?」

 ユキがそう聞く。

 リンの胸に抱かれた赤ちゃんは、まだ生後一ヶ月もたっていないように見える。

 今はスヤスヤと眠っていた。

「・・・女の子、レンって名前にしたの・・・」

 白鳥さんが少し気まずそうにそう答えた。

「カレンちゃん死んじゃったと思ってたから、カレンちゃんの名前からとって付けたんだけど・・・」

「いいよ、ありがとう」

 まだ涙声のカレンがそう言う。

「それで、秋元たちはどうしてたんだ?」

 逆にクロイが聞いてくる。

「ええと、色々有ったんだけど、今は北の方の村の村長をしてる。・・・てんこちゃんが」

 ユキがそう答える。

「だからそれは名目上の事で、実際は四人共同での統治だからね」

 私が一部訂正する。

「もしかして、最近名前が変わったって言う『カスカベ村』の事か?」

「そう、それ」

「噂で村の名前を聞いた時ちょっと引っ掛かったんだけど、偶然似たような響きの言葉が有るのかなって思ってた」

 リンがそう言った。

 まあ、今の今まで私の事を忘れていたんだから、そりゃスルーされるよね。

「だから、『ナツキ村』とか『アキモト村』とかにすればよかったんだよ」

 私がそう言う。

「何を今更、そうだ、いっその事『カスカベ・ナツキ・アキモト・フユノ村』に改名しようか?」

「長すぎるだろ!」

 ユキのセリフにクロイが突っ込んだ。

 ひとしきり笑い合う。

「そうか、四人でとは言え、村を一つ任されるなんて、上手くやったんだな」

 クロイが少し羨ましそうに言う。

「そうだ、二人とも私達の村に来ない?空いてる家も有るし」

 カレンが、リンの手を取ってそう言った。

「今、新しく鍛冶師を探してるんだけど、レベル低くていいから、それ系のスキルとか持ってたりしない?」

 ユキが追加でそう言った。

「ああ、金属加工のスキルならあるから、少しは出来るけど・・・」

 そう言ったが、彼はリンと顔を見合わす。

「だったら、来て。十分な待遇を用意するよ」

 勢い込んでカレンが言った。

「待ってカレンちゃん、私達も今の村で作っている途中の畑が有るの」

 リンが、カレンの手を握り返してそう言う。

「ああ、それに俺の土魔法での土木工事や、リンの治癒魔法は村の人達に頼りにされているから、俺達が居なくなると困る人達も居るんだ」

「そ、そうか、ゴメン、無理言って・・・」

 カレンが目に見えて落胆する。

 まあ、それでも、二人ともちゃんと居場所が有って、生活できているなら安心だろう。

「ところで、クロイ君達もエドガーさん・・・領主様の結婚式を見に来たの?」

 私はそう聞いた。

「それもあるけど、これから夏にかけて、畑仕事が一段落するから、短期の仕事でも探そうかと思って職業斡旋所ハロワを見に来たんだ・・・」

 クロイがそう言う。

「・・・子供が出来て色々物入りだからな、俺だけでもバイトしようかと思ってな」

「あ、そうだったんだ、引き留めてごめんね」

 カレンがそう言う。

「いいよ、こうしてカレンちゃん達の無事が分かったんだから」

「そ、そうだ、職業斡旋所ハロワに知ってる人が居るから、口利きしてあげれるよ」

 今まで黙っていたリーナが急に口を開いた。

 どうやら同級生が母親になっていた事実にずっと呆然としていたようだった。

「え、そうなの有難う」

「助かる」

 リンとクロイが笑顔でそう言った。


 みんなで食堂で軽食を取ってから、もう一度職業斡旋所に行った。

 領主エドガーさん発注の公共工事の仕事が有ったので、それを受けることが出来た。

「ありがとう、いい仕事を見つけられたよ」

 クロイが私達にそう言う。

 彼等の村は私達の村よりここから距離的に近いので、今日はもう帰るそうだ。

「時間が出来たら、リンちゃん達の村に遊びに行くよ。そっちも暇に成ったら来てね」

 カレンがそう言う。

「うん、分かった」

 リンが答える。

 最後に目を覚ました赤ちゃんをみんなで交互に覗き込んだ。

 あんまり構い過ぎると泣き出しそうだったので、少しにしておく。

「あ、そうだ・・・」

 私は二人に言う事が有るのを思い出す。

「せっかくの領主様の結婚式だけど、式の当日はこの街に近付かない方がいいよ」

 私は真剣な顔でそう言った。


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