7-9
「てんこちゃん、大丈夫!?」
地面に寝転んだ私にユキが駆け寄って来る。
「ああ、大丈夫。疲れただけだから」
私はそう答える。
「それよりさっきは魔法当てそうになっちゃって、ごめんね」
「それを言うなら、私は思いっきり当てちゃったし・・・」
ユキは少し安心したように私の隣に座った。
「二人とも、治癒魔法は要る?」
リーナが聞いてくる。
「いいよ、これくらいなら自分で治せるから、他の人を診てあげて」
私がそう言うと、リーナは足を噛まれたギリアムさんの方に行く。
私も何箇所か噛まれてるけど、革装備で十分に防御していたから、牙は届いていない。
後で見れば、石礫が当たった所もだけど、青痣に成っているかもしれないけど。
私は背中や噛まれた辺りをさすってみる。
「ちょっと、見せなさい!」
ユキがそう言って、私の鎧と服を脱がせようとする。
「大丈夫だって!このくらい、レベル1の治癒魔法で十分だから」
「何言ってんの!治癒魔法のレベルは高い方が良いでしょ!私だってリーナ程じゃないけど高レベルのが使えるんだから!」
私の言う事を聞かず、ユキは大げさに服の上から治癒魔法を使う。
結局、私は成すがままにされた。
「結局、私が一番噛まれたりしたな・・・、やっぱり四天王最弱は私じゃない?」
治療を受けながら、少しおどけて、私はそう言った。
「何言ってんだ、一番活躍したのはてんこちゃんでしょ」
呆れたような表情で、カレンが言ってきた。
「そうだよ、私の方がなんにも出来なかった上に、結局足手まといに成っちゃった」
治療しながら、ユキが落ち込む。
「いや、ほら、魔法で私を助けてくれたじゃない」
私はそう言う。
「別にフォローしてくれなくてもいいよ。今回のでちょっと分かったな。こう言うのって、体力とか魔法がいっぱい使えるとかじゃないんだなって」
そう言うユキの表情は吹っ切れた様に、少し明るさを取り戻していた。
「結局、私はこう言うのに向いてないって分かったから、次からは出しゃばらない様にするよ。みんなも私には無理そうだと思ったら止めてね」
そうこうしている内に、治療は終わった。
痛みもひいたので、私は立ち上がるって、体を動かしてみる。
「ありがとう。そうだね、次からこういう仕事の時はユキはお家で留守番しててもらおうかな。代わりに別の仕事で扱き使うけどね」
私はにやりと笑ってそう言った。
ギリアムさんも、それほど大した怪我はしていなかった。
私達は倒した狼三体の遺体を持って帰る事にした。
ここら辺では、狼の肉はよほど困っていない限り食べないらしいが、毛皮は高く売れたりするらしい。
なので鞣した後売って、護衛の人達のボーナスとか、私達のお小遣いにしようと思う。
ギリアムさんとハルトさんが一匹ずつ背負う。
しかし、女の子が一人で一匹持つのは厳しいので、木の枝を切って棒を作り、逆さ吊りみたいに足を棒に括り付けて前後を二人で持って行くことにした。
それでも疲れるので、途中で休憩するたびに交代する。
当初の北回りの巡回コースではなく、来た道を引き返して、村に戻った。
村に着くと、私達の獲物を見た人達が集まって来た。
みんな私達の成果に喜んでくれている様だ。
「良かった、これで安心して外で仕事が出来る」
奥さんと子供と一緒にやって来たアインさんがそう言う。
「でも、群れの全部を倒したわけじゃないですから、当分は警戒してくださいね」
私はそう言う。
まあ、私のカンでは、あの狼の群れはもう村の近くには来ないと思う。
一度戦ってみて、何となくあのボス狼の考えみたいなのは分かった気がする。
気のせいかもしれないけれど。
その日の夜は、別部隊で見回りに行った猟師の人達と護衛の人達も合わせて、お祝いの宴を開いた。
私達は疲れていたので、メイドさん達にお願いして料理を作ってもらう。
ユキだけは、それでも無理して手伝ったようだ。
まあ、ヴィクトリアさんが居るから無理はさせてないだろうけど。
私は持ってきた狼の皮を剥ぐ前準備だけをしておいた。
夕方に集まり、宴を始める。
男の人達にはお酒も出した。
私達は飲まないから思いつきもしなかったけど、そこはヴィクトリアさんが気を利かせて村の雑貨屋さんから仕入れてきてくれた様だ。
食事関係のお財布は全部ヴィクトリアさんに任せてある。
私が簡単に挨拶して、みんながそれぞれ宴会を始める。
お酒注いで回った方が良いのかなと思ったけど、私は座ってろと言われ、リーナとカレンが注いで回った。
ユキは疲れたのか、椅子にもたれて眠りかけている。
私もさっきの挨拶とかで結構疲れた。
狼退治も退治して終わりじゃなく、終わった後の方が大変な気がする。
みんなも疲れているので、宴は早めに切り上げた。
最後に、今後一か月間は数日おきに周辺の森をみんなで巡回することを決めて、終わりにした。




