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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
7章
74/215

7-7


 私とカレン、それに護衛の兵士さんのうち二人がアインさんの後に付いてその狼が出たという場所に行ってみた。

 村から少し離れた森の中、鹿用の罠が仕掛けられていたところだった。

 罠に掛かっていた鹿が、何者かに食い散らかされていた。

「猟師のヨハンが仕掛けた罠なんだが、罠の確認に来たらこうなっていたそうだ」

 アインさんがそう説明する。

 こっちに来てから私も猟に出るが、私は罠はしかけていない。

 村の猟師さんの獲物をあまり減らさないためだ。

 そのヨハンさんと他数人の猟師さんは集まって対策を話し合っているそうだ。

「食べた跡と、足跡の数からすると一匹じゃなくて、十頭以上の群れみたいね」

 しゃがみ込んで地面の痕跡を見て私はそう言う。

「ええ、ヨハン達もそう言ってました」

 アインさんが頷く。

「群れなのは厄介だな。対策を話し合いますから、ヨハンさん達を今夜お屋敷に集めてもらえますか?」

 私は立ち上がり、そう言った。

 周りを探ってみるが、今は近くに狼の気配はない。


 その晩、私達と村の人達、主に狩猟を生業にしている人たちで対策会議を始めた。

 場所は教室に使っている元大食堂だ。

「てんこちゃん、熊殺しだから狼くらい敵じゃないんじゃないの?」

 リーナがそう言う。

「ムリムリ、一匹だけならともかく群れになると一人じゃどうしようもないわ」

 私はそう言った。

 幸い前に居た村の近くには熊は出ても狼が出ることはなかった。

 しかし、こっちの方は山脈の合間なので、たまに出て来るそうだ。

「なので、そちらの護衛の兵隊さんを貸していただきたいんですが」

 猟師のヨハンさんがそう言う。

 取り敢えずは、猟師さん達と護衛の人達なるべく大人数で森の中を見回って、群れを見つけたら退治するしかない。

 まだ村の家畜などには被害は出ていないが、十頭以上の狼の群れが近くに居るのは危険すぎる。

 森の中でなくても、少人数で外れの方の畑で農作業をしていると人間も襲われかねない。

「分かりました。明日から護衛の兵士さん達と一緒に周辺の森の巡回をしましょう。私も猟師の経験があるので一緒に行きます」

 私はそう言った。

 これでダメならエドガーさんに応援を頼むか、民間の職業斡旋所に頼んで猟師を募集するかしないといけないだろう。


 早速、次の日から巡回を始めた。

 私とカレン、護衛の兵士四人、ヨハンさん達猟師さん三人で最初の痕跡を発見した辺りを中心に歩き回る。

 村の人達にも屋外で作業するときはなるべく大人数で居る様に注意喚起をしておいた。

 しかし、三日経っても狼の群れとは行き会わなかった。

「足跡とかは見つけるんだけどね・・・」

 夕食をとりながら私は言った。

「こっちが大人数だから、警戒して逃げてるんじゃないの?」

 向かいの席に座ったカレンが言う。

 大食堂は教室にしてしまっているので、ここは新しく食堂にした台所の隣の小さな部屋だ。

「それならそれで、警戒して別の場所に行ってくれればいいんだけどね。ただ、まだ新しい痕跡が有るから、もう何日か巡回して様子を見る必要が有るね」

 私はそう言った。

「大変だね」

 リーナがそう言う。

「明日からは二部隊に分けてもう少し広い場所を歩いてみるつもりなんだ」

 カレンがそう言う。

 今日の巡回が終わった後、ヨハンさん達と相談してそう言う事になった。

「大丈夫?一部隊当たりの人数が減るんじゃない?」

 ユキがそう聞いてきた。

「確かに減るけど、みんなそれなりに武装してるからね、大丈夫だと思う」

 私はそう答えた。

「うーん、心配だな、私も一緒に行こうか?明日は学校も無いしね」

 ユキがそう言ってきた。

「え?ユキちゃん戦闘系のスキル無いじゃん。それこそ大丈夫なの?」

 カレンが言った。

「ふふふ、そこはほら、全属性魔法が使えるからね、足手まといにならないくらいの自信は有るぜ」

 何の自信か、不敵に笑う。

「それじゃ、私も行こうかな。朝一で患者さんが来なかったらだけど」

 リーナまで、そう言いだした。

「そうだな、そんじゃ、みんなで狼退治に行ってみようか?」

 カレンはそう言うが、私は少し不安が残る。

 特にユキの体力の事とか。

「大丈夫ダイジョーブ、こっちに来てからは毎日それなりに運動してるんだから」

 ユキはそう言って、胸を張って見せた。


 次の日、私達四人と護衛のギリアムさんハルトさんの部隊と、猟師の人三人とイワンさんジャンさんの部隊に分かれて、村の西と東の方向の森に入って行くことにした。

 私達はカレンを先頭にして、私が殿しんがり間にリーナとユキ、左右にギリアムさんとハルトさんの配置で進んで行く。

 私とカレンはたまに鹿などを狩りに村の周辺の森に入っていたから、ある程度道は分かる。

「革鎧でも流石に重くて疲れるね」

 ユキがそう言った。

 私達はみんな体の要所に革で作った防具を付けている。

 金属の鎧に比べれば軽いが、少しばかり関節の動きが制限されるから、歩き難くはある。

 武器は私とカレンは弓を持ち、リーナは魔法の杖、護衛の二人は剣、ユキは魔石を嵌め込んだペンダントだけだ。

 今回はいろいろ考えて、短剣を棒に付けた即席槍は用意しなかった。

「大丈夫?」

 カレンが後ろを振り返って聞く。

「大丈夫だよ、まだ森に入って少ししか経ってないじゃん」

 ユキはそう言って、歩き続ける。

 足取りはまだしっかりしているように見える。


 周りを警戒しながらゆっくりと一時間ほどかけて、森の奥へと進んで来た。

 取り敢えず、ここで一旦休憩にする。

 みんな地面に座ったり、木に寄りかかったりして、水筒の水を飲み、干し肉などの携行食を齧る。

「どうする?このまま真っ直ぐ行く?それとも北側に向かうルートもあるけど」

 カレンがそう聞いてきた。

「そうだな、北に向かって、その後反対側に進んで、ぐるっと回って村に戻るのが良いかな」

 私はそう答える。

 村に戻る時間は少し早くなるけど、その方が良いかもしれない。

 まっすぐ行った場合、かなり道が険しくなる。

「私はまだ大丈夫だから、もっと進んでもいいよ」

 ユキがそう言ってきた。

 確かに、ユキもリーナもまだ体力には余裕がありそうに見える。

「北側ルートでもここまでの三倍の距離がかかるんだ、それに今日狼の群れに会わなきゃ明日も巡回しなきゃいけないから、なるべく無理しない方が良いと思うけど?」

 私はそう言った。

「うーん、そうだね、てんこちゃんの意見に賛成」

 リーナがそう言ったので、北側ルートをとる事になった。


 だがしかし、休憩を終えてから少し歩いたところで、周りの茂みがガサガサと音を立てだした。

「ついに来たわね」

 先頭のカレンがそう言って、弓に矢をつがえた。

 ギリアムさんとハルトさんが剣を抜く。

 私も後ろを向き、弓を構えた。

 茂みの間から灰色の影が幾つも見える。

「囲まれてるみたいだ」

 私がそう言う。

 進行方向だった方をちらりと見ると、ひときわ大きな狼が姿を現した。

 他の狼に比べて一段と鮮やかな毛並みをしていて、灰色と言うより銀色にも見える。

「あれが群れのボスか」

 カレンがその狼に向けて弓を構えた。

疾風矢ウインド・アロー!」

 魔法を込めて放った矢が、開戦の合図となった。 

 

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