7-5
歓迎会の後、トムさん達は帰り、私達はお風呂に入って、早々に寝ることにした。
サムソンさん達、ローゼス商会の人達は護衛の人達とは別の離れに泊って貰う事にした。
例の元村長の部屋に泊まって貰う事も考えたが、流石に止めた。
お屋敷以外にも村の共同浴場が有るらしいので、護衛の人たちと一緒にお風呂はそっちを利用してもらう事にした。
そちらも天然温泉だそうだ。
「こうして見ると、一番スタイルが良いのはてんこちゃんかな?」
湯船に浸かって、周りを見回したリーナがそう言う。
私は他の三人からは少し離れた所で、お湯に浸かっていた。
「タオルをお湯に浸けるのはマナー違反だぞ~」
バシャバシャとお湯を掻き分けてユキがこっちにやって来た。
私はタオルを体に巻いて、一応裸を見られない様にしている。
「それは日本でのマナーでしょう、この世界じゃ関係ないよ!」
タオルを取ろうとするユキから私は逃げだす。
「いやいや、あれは衛生面からそうすべきってマナーだから、世界が変わっても守らなきゃ」
逃げた先にカレンに回り込まれ、タオルを取り上げられてしまう。
「マナーって言うなら、他人の裸をジロジロ見るのもマナー違反だからね!」
私はそう言って、お湯の中に座り込んで、なるべく裸を隠した。
「分かってるよ~」
そう言って、ユキもお湯に浸かる。
そう言いつつも、ちらちらこちらを見てくる。
「大体、私は背が高いからその分、む、胸とかも大きいだけだからね・・・」
私は何に対してだか分からないが、取り敢えずそう弁明した。
「いやいや、全体的なプロポーションで見ても、引っ込むところは引っ込んでいて、なかなかのものだよ」
カレンがそう褒めてくれた。
そう言う彼女もスレンダーながら、良いプロポーションをしている。
「いやそれは、こっちに来てから体を動かすことが多くなったからで、前はもっとぽっちゃりだったから・・・」
私はなおも否定する。
「むしろリーナ位の方が男子受けはするんじゃない?」
「そうかな?」
そう言いながら、リーナはよく分からないセクシーポーズをして見せる。
「って言うか、男子の目とかキモイし・・・」
「それは贅沢な悩みだよ、そういう目で見られる事も無い女子も居るんだから」
そう言って、ユキは湯船にぶくぶく沈んでいく。
さっきまで元気に私を追い回してたのに。
「そんな事も無いと思うけど?」
私はそうフォローする。
「どうせ、私を見るのは特殊な趣味の奴だけだろ」
ますますいじけるユキ。
確かに、彼女は同い年とは思えない少年の様な体形をしている。
「そう言えば、エドガーさんはユキの事そんな目で見ている素振り無かったね」
「ああ、そう言えば・・・」
「あの人は別に小さい娘が好きなんじゃなくて、単にアーネさんにべた惚れしてるだけでしょ」
色々とおしゃべりに花が咲く。
そんな感じで、私達は旅の疲れを癒しながらお風呂を楽しんだ。
次の日、私達は早速仕事に取り掛かった。
リーナとユキはそれぞれ診療所と学校の準備を始める。
村長の屋敷の一室を改装して、それ用に割り当てる事にした。
診療所はそんなに広さは必要ないので、玄関を入ってすぐの部屋を使う。
学校は無駄に広かった食堂を使う事にする。
教えることも少ないので、年少、年長組に分けて週に一日ずつ、二日だけ行う事にした。
人数的にも十数人ずつらしいので、うまく入りきるだろう。
改装は、護衛の兵士さん達と雇ったメイドさん達にも手伝ってもらった。
メイドさんは結局五人だけ雇った。
ヴィクトリアさんも合わせて六人になり、アルマヴァルト市の時と同じように早番遅番に分ける。
前より多いのは、お屋敷が広いのと、護衛の人達のお世話もお願いするためだ。
ちょっと足りないかもしれないが、他に女子が四人も居るのだから、自分達の事は自分達でやれば問題は無いだろう。
私とカレンは外に出て、村の様子を見て回る事にした。
トムお爺さんが案内をしてくれる。
春播きの麦の播種が終わった頃で、村は今りんごの摘花作業の真っ最中のようだった。
一面のりんご畑で薄ピンク色の花が咲いている。
桜と違い先に葉が出てから花が咲くのでピンク一色ではないが、新緑と花の色が一緒に見えて綺麗だ。
「おはようございます、村長」
昨日会ったアインさんが仕事をしていた手を休めて挨拶してきた。
「おはようございます。ああ、気にしないで仕事をしててください」
私はそう返すが、彼の足元から小さな影がこちらに走り寄って来る。
「あ、ウィル、村長のお邪魔をしちゃダメだ」
ウィルと呼ばれた男の子がやって来た。
私は、しゃがみ込んで迎える。
「そんちょうさん。お父さんをかえしてくれてありがとう!」
舌足らずな声で、そう言ってきた。
王国の配慮で捕虜から奴隷になるところだったのを解放されたことを言っているみたいだ。
「ええと、それは私達じゃなくってもっと上の人が決めたことで・・・」
「いいじゃないか、他の人からすれば私達だって王国側の人間だろ」
子供には難しい事を説明しそうになった私に、カレンはそう言った。
「あ、ああ、そうか。ええと、どういたしまして」
私はそう言って、彼の頭を撫でてあげた。
男の子は少しくすぐったそうにして、手を振ってアインさんの所に戻って行った。
私達は村の視察を続ける。




