7-3
村の人達と色々話をした後、私達はようやくお屋敷の中に入った。
やたら豪華な玄関に、広い食堂などを見て回る。
アルマヴァルト市で借りていた家よりも大分大きくて、下手をすると王都のエドガーさんの邸宅くらいある。
ただの村長の家としては不必要に大きい。
この村がそれなりに裕福だったのか、それとも前村長が私腹を肥やしていたのか・・・。
二階に上がると、寝室が幾つもあった。
これだけあると、護衛の人達も母屋に住んでも良い気がするが、流石に家族でもない男子が同じ屋根の下に居るのは嫌だ。
「早い者勝ち~」
ユキがそう言って、早速自分の部屋を物色する。
扉を次々開けて行くが、一番奥の扉を開けたところで固まった。
「うげ、悪趣味!」
中を見てみると、ひときわ大きな部屋で派手な模様の壁紙に、窓には紫色のカーテンが掛かっている。
真ん中にこれまた派手な色使いの天蓋付きのキングサイズのベットが置かれていた。
「これって、前村長の部屋?」
同じく部屋を覗き込んだリーナが聞いてくる。
「はい、そうです」
案内をしてくれているメイドさんが答えた。
高価な装飾品とかは持ち去られている様だが、それでも悪趣味な感じが全体に漂っていた。
「じゃあ、てんこちゃんはここね」
ニヤニヤしながら、カレンがそう言った。
「やめてよ、こんな部屋住みたくないわ」
思わずそう言ってしまう。
模様替えするにしてもこんな広い部屋、かえって使いにくいだろう。
「この部屋は普段は使わないで、客間にしよう。私はもっと狭い部屋で良いよ」
「そうだね、私もパス」
リーナもそう言って、部屋の扉をそっと閉めた。
「見て見て、これ温泉じゃない?」
一階に降りて屋敷の奥のお風呂を見たカレンがそう言った。
「おお、本当だ。源泉かけ流しっぽいぞ」
湧き出たお湯が常に湯船に流れ込んでくる様になっている。
露天風呂ではないが、屋敷の奥から渡り廊下を渡った先の平屋にかなり広い浴場がある。
「ここって温泉が湧く土地だったんだ」
お湯を触ってみるが、透明な単純泉らしい。
硫黄臭とかはあまりしないので、村に入ってからも気付かなかったみたいだ。
「毎日入るなら、これ位の泉質が良いかな」
「この広さなら、みんなで一緒に入れるね」
リーナがそう言う。
うう、女子同士とはいえ、他の人と一緒のお風呂は抵抗がある。
一通り屋敷内を見て回った後、村の人たちによる歓迎会が開かれた。
広い食堂に私達やサムソンさん達ローゼス商会の人も入れて、それなりに大人数で始まった。
最初にトムお爺さんの司会で始まり、新村長である私に挨拶を求められた。
恐れていた事だったが、それ故に有るかもしれないと構えていたので、事前に準備した当たり障りのない挨拶を少し噛みながらして難を逃れる。
挨拶後に村の人たちが用意してくれた素朴な料理が振舞われた。
本当はもっと豪華な料理を作る用意をしていたそうだが、ヴィクトリアさんが止めてくれた様だ。
余った食材は各自持って帰ってもらう事にした。
「すみません、こんな料理しか出せなくて、でもこちらの懐具合を考えていただいて感謝します」
村の少し若い男の人が、挨拶にやって来た。
「俺、アインって言いますが、実は前の戦争でワーリン国側で参戦してベルドナの捕虜になったんですけど、少し前に解放されて村に戻って来たんです」
そう自己紹介をする。
「そ、そうですか、良かったですね・・・」
顔に見覚えはないから、私達が治療した人では無い様だ。
「別に捕虜の解放とかは私達が決めた訳じゃないから、感謝するなら領主のエドか王様にして」
カレンがそう言った。
「そうね、あと今日持ってきた物資も王国からのものだから、私達に感謝することは無いわ」
リーナもそう言う。
「はい、それでも有難うございます」
アインさんはそう言って、一礼した。
「それで、皆さんを頼りになる新村長として相談が有るのですが・・・」
「ふむ、何でも言ってみ」
何故か、ユキが偉そうに言う。
「来年以降の税の納入方法なのですが、麦ではなくりんごや他のものを売った金で納めることには出来ませんか?」
「待て待て、それは麦で納めることに決まっていたではないか」
トムさんが横から割り込んで来た。
「いやしかし、麦は去年は冷害で納められなくて、代わりに大勢兵役に連れて行かれただろう」
「それはたまたまだ、毎年冷害になる事も無いだろう。それにりんごは換金するときに足元を見られてしまってダメだ」
なんか、村人の間で議論が始まった。
「待って、今年からベルドナ産の冷害に強い小麦の種を導入するから、麦で良いんじゃないんですか?」
私がそう聞く。
しかし、彼らは困った顔になる。
「それがですね、実は何年か前から知り合いの伝手から手に入れたベルドナの小麦を作っていたんですが、ここらの村は寒すぎてその小麦でも冷害の時にはほとんど収穫が無かったんです」
「それでも、普通の年ならそれなりの収穫は有るんですが・・・」
どうやら、国同士の仲が悪くても民間ではそれなりに交流が有るみたいだった。
ましてや国境付近の村なら、他国の良いものは入って来るのだろう。
「そうか、ここら辺は標高が高すぎて他所より寒いのか・・・」
ユキが困った顔をする。
「それだと、りんごの方が良いのかな、麦よりも冷害に強いし、足元見られない様にちゃんとした所に買ってもらえば・・・」
「確かに今まではワーリン王国の商人に買ってもらっていたのが、ベルドナ王国の商人になるから最初の内は良いのかもしれませんが・・・」
「しかし、ワーリンの商人も最初は高く買っていたが、段々安くなっていったではないか」
「うーん、これは商人の意見も聞いてみたいな、サムソンさんちょっとこっちに来て」
カレンが少し離れたところで料理を食べていた彼を呼ぶ。
「そうですね・・・、ワーリンの商人もそんなに足元を見ていた訳ではないと思いますよ。聞いた話ですが、ワーリン王国内ではりんごの売り値が数年前から安くなっていたって話を聞いたことが有ります」
サムソンさんが話を聞いて、そう答える。
ちょっと前までただの丁稚だったはずだが、他国のそんな話も覚えているなんて、結構優秀な商人なのかもしれない。
「どういう事?沢山出回り過ぎて安くなってたって事?」
ユキがそう聞く。
「いえ、そう言う訳でもなくて、なんでだか人気が無くなっていたとか・・・」
みんながワイワイ話し合っている。
それを聞いていて、私は或る可能性に気付いた。
「ええと、これは私の推測なんだけど聞いてもらえるかな?」
そう言うと、みんなの視線が私に集まった。
ちょっと視線に後退るが、私は話を始めた。




