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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
7章
69/215

7-2


 翌日、昼頃には目的の村が見えて来た。

「おお~、あれが『カスカベ村』か~」

 初日は良かったが、二日目はギブアップして馬車の荷台に座ったユキが近付いてくる村を見てそう言った。

「やだな、その名前・・・」

 私はそう呟く。

「いいじゃない、良い名前だと思うよ」

 隣を歩く、リーナがそう言う。


 話は少し戻るのだが、村長の話を持ってきた後、エドガーさんが、

「そう言えば、もしかしたらなんだが君達、家名持ちだったりしないか?」

 そう聞いてきた。

 この世界に来てからは、私達はお互いに名前で呼び合っていたけど、たまに苗字で呼ぶ事も有ったのでそれを聞かれたか?

「え、ええと・・・」

 私が、どう答えようか考えていると、

「そうですよ、私達が居た国では大抵の人は家名を持ってました。こっちではそうじゃないみたいなんで、使ってませんでしたけど」

 ユキがそう答える。

 無理して隠すより、そう言う事にしておいた方が良いだろうと言う顔で私を見てくる。

「そう、そうなんです」

 私はその話に乗ることにした。

「そうか、君たちの教養を見ていると、それなりの貴族か商人の娘だったのではないかと思っていたのだが、まあ、丁度良い。実は君たちに任せる村なんだが、今まで前村長の名前で呼ばれていたのだが、村長が変わるのであれば、村名も変えた方が良いだろうと村民たちからも陳情が有ってね、という事で、リーダーのてんこ殿の家名を村名に付けていいかな」

「え?ちょっと待ってください」

「ああ、そう言う事なら『カスカベ村』だな」

 私の言葉を無視してユキがそう言う。

「なるほど、『カスカベ』か、変わった響きだが、良い名だ」

 エドガーさんが頷く。

「ええ~!」

 結局、その名前で決まってしまった。


 そんな訳で、カスカベ村だ。

「私がリーダーなのは名目上だけなんだから、別に『フユノ村』でも『ナツキ村』でもいいんじゃないかな・・・」

 私はまだぶつぶつ言っている。

「いやいや、それこそ名目上なんだから、てんこちゃんの苗字じゃなきゃダメだろう」

 カレンがそう言う。

 村は山間の狭い平地に麦畑と家々が有り、斜面になっている部分はりんご等の果樹が植えられているこの地方ではよくある形だ。

 民家が集まる村の中心部に、ひときわ大きいお屋敷が有った。

 これが前村長が住んでいた家らしい。

「ようこそいらっしゃいました。私が今まで村の仮の代表をしていましたトムと申します」

 お屋敷の前でトムと名乗るお爺さんと、何人かの村人、それに質素なメイドの格好をした村娘さん達が十数人が出迎えてくれた。

「え?メイドさん多すぎない?」

 私は思わずそう言ってしまった。

 トムさんはちらりと私の方を見たが、気にしない様子で、サムソンさんの方に向いて、

「ええと、あなた様がかのフラウリーゼ川の三魔女を従える『テンコ・カスカベ』様でいらっしゃいますか?」

 そう聞いた。

「いや、滅相もねえ、俺はローゼス商会の人間で、荷物を運んできただけだ」

 サムソンさんは慌てて否定する。

「これは失礼しました。とすると、てんこ様は・・・」

 謝って、護衛の兵士たちの方を見るが、彼等も「チガうチガう」と言う風に手を振った。

 どうやら、新村長として四人の人間が来るという情報と、別口でその人達は先の戦争で活躍したフラウリーゼ川の三魔女らしいと言う噂が伝わり、更にリーダーの名前が『てんこ』と言うこの世界では馴染みがなく男女の区別がつかないものだったので、三魔女を従える謎の男『テンコ・カスカベ』が彼らの中で爆誕していたらしい。

「あ~、すいません。私がてんこです」

 申し訳なさそうな声で、私は手を挙げた。

「え?下女の人ではなくて・・・?」

 トムさんはそんな事を言う。

 長距離を歩くために慣れた狩人の格好をしてきたので、そう見えても仕方ないんだが・・・

「一応、そうです」

「あ、え、こ、これまた失礼しました。さあ、取り敢えず中へどうぞ」

 他の人が誰も否定しないので、ようやく納得したのか、トムさんはそう言って、私達を屋敷に迎え入れる。

 ひたすら恐縮するトムさんや他の村人たちを見ていると、前の村長は大分偉そうにしていた様に思われた。

 他の村の家と比べると、段違いに立派なお屋敷を見てもそれが分かる気がした。

 これは最初にちゃんと言っておいた方が良いかもしれない。

「待ってください。まず最初にベルドナ王国からの支援物資を配ります。サムソンさん荷物を降ろしてください」

 屋敷に入って行こうとする人たちを呼び止めて、私はそう指示を出した。

「トムさん、村の人達に均等に配ってください。事前の調査で秋の収穫までもつ量のはずですけど、足りない場合はその都度私達に言ってください」

「おお、これは有難い事です」

 トムさんはじめ村の人達が喜びだす。

「新村長さんがたの分はどのくらい残します?」

 部下の人達と小麦の入った袋などを降ろしながら、サムソンさんが聞いてきた。

「『均等』にです。一人当たり、他の村の人達と同じ量でお願いします」

 私がそう答えると、村の人達はまた驚いた顔をする。

「あと、メイドさんこんなに沢山は要りません。メイドさんのお給金は出しますけど、その元手は村からの税になりますから、ここで働くよりお家で農作業をした方が全体で見ると得ではないでしょうか?」

 その言葉に、メイドさん達も顔を見合わせる。

「ヴィクトリアさん、メイドさん達の人選お願いできますか?」

「分かりました。では皆さんこちらへ」

 ヴィクトリアさんはメイドさん達を集めて、一人一人面談を始めた。

「あとは、あの離れを護衛の人達の家にして・・・、リーナ、ユキ、仕事場はどうする?」

 私は後ろを振り返って、二人に聞く。

「うーん、母屋が広いからそっちで十分じゃないかな?」「私もそうだな」

「分かった、それじゃあ、他の離れは使わないので、物置にしてしまいましょう。村の人達も共同で使っていいですよ」

 このお屋敷、豪華な母屋の他にも幾つかの離れが有った。

「よ、よろしいんですか?」 

「もちろんです」

 私が答える。 

「それと、こっちの人がリーナ。治癒魔法が使えるから、村のお医者さんとして働いてもらいます。治療費は頂きますけど、村民は割安にしますね」

 そう言って、リーナを紹介する。

「で、こっちがユキ。前は無かったみたいですけど、ベルドナ王国では子供たちに教育を受ける権利が有りますので、その先生をしてもらいます」

「よろしく!」

 ユキが元気に手を挙げる。

「あとは、あのカレンは弓の名手なので、用心棒的な事をしてもらうつもりです。護衛の人達の纏め役もですね」

 少し離れたところに居たカレンを指してそう言った。

「は、はい、分かりました」

 矢継ぎ早な指示や説明にすっかり恐縮したトムお爺さんが頷いた。

 取り敢えずこれで、私達がなるべく公平で、必要以上に村の人達に負担を強いない領主だと分かってもらえただろうか。

「最後に私が一応村長になるてんこです。やる事は、ええと、なんだろ?森に入って鹿とか狩る位かな?」

 色々喋って疲れた私は、ふにゃふにゃとお屋敷の玄関の所に座り込む。

 コミュ障にはキツイものが有ったのだ。

「あとの細かい事はお願-い」

 当初の予定通り、細かい事はリーナやカレン達に丸投げした。

 みんな苦笑しながらも、村の人達と対応し始めた。

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