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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
7章
68/215

7-1


 翌日、村に行くローゼス商会の人達と落ち合うために、町の広場に行く。

 そこには既に数台の馬車と幾つかの人影が有った。

 荷馬車の幌には三つの薔薇のマークが描かれている。

 かなり昔にローズ家の三姉妹が商会を立ち上げた事に由来するマークだったはずだ。

 その中に、ひときわ目立つ人影が有る。

 スキンヘッドの巨漢。確か、名前はええと・・・。

「あ、アドンさんお久しぶりです」

 私はそう挨拶した。

「え?俺サムソンですが・・・」

 振り返ったその人がそう言う。

「あ、す、済みません、そうだったサムソンさんだった、サムソンさん」

「何ボケてんの」

 ユキに突っ込まれる。

「サムソンさん、今はお嬢様のお守りじゃなくなったの?」

 リーナがそう聞く。

「へ、へい。皆さんに手伝っていただいたあの『冷蔵庫』、設計図が有ったんで複製して幾つか造ったら、珍し物好きの貴族様に売れまして、その成果で丁稚から隊商キャラバンのリーダーに抜擢して貰ったんでやす」

「へえ、良かったね」

「そうか、見た感じ隊商の用心棒だけど、リーダーなのか、出世したんだね」

 カレンがそう言うと、サムソンさんは頭を掻きながら恐縮して見せた。

 初めて会ったときに私が思いっきり投げ飛ばした事が有ったんで、なんか私達相手だとビクビクしているように見える。

「ん?丁稚?」

 ふと私は気付いた。

 丁稚ってお店に勤め始めた商売人の見習いみたいな人の事だよね。

「もしかして、サムソンさんって実は結構若い?」

「へい、18ですが」

「ええ~!?」「見えない!」「30位だと思ってた!」

 思わずみんなで大声を上げる。

 その言葉に、少し傷ついたような顔になるサムソンさんであった。


「と、取り敢えず、荷物を馬車に積みましょう」

 気を取り直した、サムソンさんがそう言ってくれたので、みんなの荷物を馬車の荷台に載せていく。

「済みません、荷馬車ですので、人が全員乗れるだけのスペースは無いんですが・・・」

 サムソンさんがそう謝って来る。

「いいですよ、荷物持たないだけで大分楽ですから、私達は歩きますよ」

 リーナがそう答える。

「そうだな、ヴィクトリアさんは乗って行ってください」

 メイドのヴィクトリアさんは私達のお母さん位の歳なので、乗ってもらった方が良いだろう。

「そうかい、それでは遠慮なく」

 そう言って、荷馬車の空いているスペースに座る。

 後は、私達の護衛の為にエドガーさんが付けてくれた兵士の人達が四人いるが、彼等も歩きでいいだろう。

「ユキも乗ってく?」

 一番体力に不安が有りそうな彼女に聞いてみる。

「大丈夫、取り敢えず歩くわ」

 そう言ったので、準備が整った所で、街の広場から出発することになった。


 街を出た後は、麦畑と果樹園を抜け、山道を延々と進んで行く。

 一応整備された道なので、荷馬車でも通れるが、所々大変な個所もある。

 ギリギリ通れる位の幅しか無かったり、ぬかるみに車輪を取られたり、そんな所はみんなで荷車を押して通ったりする。

 そして、そんな箇所は必ず記録しておく。

 後で、エドガーさんに知らせて補修してもらったり、場所によっては私達で直すことにもなるだろう。

それも村長の仕事だ。

 一日では着かないので、森の中で一泊する。

 途中に他の村もあるのだが、これだけの人数が泊まれるほどの宿泊施設がある村はないので、森の中の少し開けた場所に馬車を停めて、野営だ。

 食事は保存食の固いパンと、干し肉と豆とそこら辺に生えている食べられる野草を煮たスープにした。

 固いパンも温かいスープに浸せば、美味しく頂ける。

 久しぶりの野外料理だったが、上手く出来た方だろう。

「そう言えば、結局その鍋、また持ってきたんだね」

 カレンがそう言う。

 その鍋と言うのは、私がこの世界に来た時、初期装備として貰った鍋で、今夜のスープを作ったやつである。

「うーん、別にあの山小屋に置いてきても良かったんだけど、使い勝手がいいからつい持ってきちゃった」

 そこそこの容量が有りながら、背中に背負って持ち運びが出来て、いざと言う時にはヘルメットにもなる。

 便利な鍋である。

 他の装備は壊れて買い直したり、作ったりした物もあるが、これは結構長く使えそうだ。


 馬車の一台にテントが積んであり、それを張って寝床を作る。

 テントや野営道具を降ろした分のスペースが開くので、そこで寝ることも出来る。

 私達女性陣は馬車の荷台で寝させて貰う事になった。

 隊商の人達や兵隊さんはテントで寝て、交代で見張りもしてくれるそうだ。


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