7-1
翌日、村に行くローゼス商会の人達と落ち合うために、町の広場に行く。
そこには既に数台の馬車と幾つかの人影が有った。
荷馬車の幌には三つの薔薇のマークが描かれている。
かなり昔にローズ家の三姉妹が商会を立ち上げた事に由来するマークだったはずだ。
その中に、ひときわ目立つ人影が有る。
スキンヘッドの巨漢。確か、名前はええと・・・。
「あ、アドンさんお久しぶりです」
私はそう挨拶した。
「え?俺サムソンですが・・・」
振り返ったその人がそう言う。
「あ、す、済みません、そうだったサムソンさんだった、サムソンさん」
「何ボケてんの」
ユキに突っ込まれる。
「サムソンさん、今はお嬢様のお守りじゃなくなったの?」
リーナがそう聞く。
「へ、へい。皆さんに手伝っていただいたあの『冷蔵庫』、設計図が有ったんで複製して幾つか造ったら、珍し物好きの貴族様に売れまして、その成果で丁稚から隊商のリーダーに抜擢して貰ったんでやす」
「へえ、良かったね」
「そうか、見た感じ隊商の用心棒だけど、リーダーなのか、出世したんだね」
カレンがそう言うと、サムソンさんは頭を掻きながら恐縮して見せた。
初めて会ったときに私が思いっきり投げ飛ばした事が有ったんで、なんか私達相手だとビクビクしているように見える。
「ん?丁稚?」
ふと私は気付いた。
丁稚ってお店に勤め始めた商売人の見習いみたいな人の事だよね。
「もしかして、サムソンさんって実は結構若い?」
「へい、18ですが」
「ええ~!?」「見えない!」「30位だと思ってた!」
思わずみんなで大声を上げる。
その言葉に、少し傷ついたような顔になるサムソンさんであった。
「と、取り敢えず、荷物を馬車に積みましょう」
気を取り直した、サムソンさんがそう言ってくれたので、みんなの荷物を馬車の荷台に載せていく。
「済みません、荷馬車ですので、人が全員乗れるだけのスペースは無いんですが・・・」
サムソンさんがそう謝って来る。
「いいですよ、荷物持たないだけで大分楽ですから、私達は歩きますよ」
リーナがそう答える。
「そうだな、ヴィクトリアさんは乗って行ってください」
メイドのヴィクトリアさんは私達のお母さん位の歳なので、乗ってもらった方が良いだろう。
「そうかい、それでは遠慮なく」
そう言って、荷馬車の空いているスペースに座る。
後は、私達の護衛の為にエドガーさんが付けてくれた兵士の人達が四人いるが、彼等も歩きでいいだろう。
「ユキも乗ってく?」
一番体力に不安が有りそうな彼女に聞いてみる。
「大丈夫、取り敢えず歩くわ」
そう言ったので、準備が整った所で、街の広場から出発することになった。
街を出た後は、麦畑と果樹園を抜け、山道を延々と進んで行く。
一応整備された道なので、荷馬車でも通れるが、所々大変な個所もある。
ギリギリ通れる位の幅しか無かったり、ぬかるみに車輪を取られたり、そんな所はみんなで荷車を押して通ったりする。
そして、そんな箇所は必ず記録しておく。
後で、エドガーさんに知らせて補修してもらったり、場所によっては私達で直すことにもなるだろう。
それも村長の仕事だ。
一日では着かないので、森の中で一泊する。
途中に他の村もあるのだが、これだけの人数が泊まれるほどの宿泊施設がある村はないので、森の中の少し開けた場所に馬車を停めて、野営だ。
食事は保存食の固いパンと、干し肉と豆とそこら辺に生えている食べられる野草を煮たスープにした。
固いパンも温かいスープに浸せば、美味しく頂ける。
久しぶりの野外料理だったが、上手く出来た方だろう。
「そう言えば、結局その鍋、また持ってきたんだね」
カレンがそう言う。
その鍋と言うのは、私がこの世界に来た時、初期装備として貰った鍋で、今夜のスープを作ったやつである。
「うーん、別にあの山小屋に置いてきても良かったんだけど、使い勝手がいいからつい持ってきちゃった」
そこそこの容量が有りながら、背中に背負って持ち運びが出来て、いざと言う時にはヘルメットにもなる。
便利な鍋である。
他の装備は壊れて買い直したり、作ったりした物もあるが、これは結構長く使えそうだ。
馬車の一台にテントが積んであり、それを張って寝床を作る。
テントや野営道具を降ろした分のスペースが開くので、そこで寝ることも出来る。
私達女性陣は馬車の荷台で寝させて貰う事になった。
隊商の人達や兵隊さんはテントで寝て、交代で見張りもしてくれるそうだ。




