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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
6章
64/215

6-3


 街の各所に貯えられた物資の調査を終えると、今度は各村の調査が戻って来て、その集計を行った。

 調査隊に持たせたフォーマットのお陰で、集計は問題なく進んだ。

 集計結果を報告すると、今度は領民からの陳情の対処に当たらされる。

 野盗や野生動物の対処は、エドガーさんが領兵や王国軍に割り振って対応するが、物資の過不足の対応は私達に任された。

 不足分を余っている所から融通したり、王国への発注を行う。

 発注は領主の決裁が要るが、領内での融通に関しては私達にそれなりの権限を与えてもらった。

 それなりに信用して貰えているという事だが、実際の物資の運搬には他の人達に命令してやって貰わなければならない。

 私達みたいな小娘に命令されるのは、あまりいい気分ではないだろう。

 大本は領主であるエドガーさんからの命令という事に成るから、一応みんな従ってくれるけども、あからさまに嫌な顔をする人も居る。

 それでも、次から次へと仕事は有るので、そんなの気にする暇もなく片付けて行かなければならない。

 数週間ほどそんな日々が続いた。


 そんな忙しい日々でも、休みの日はちゃんと休めるのは有難い。

「カップ麺が食べたい」

 ある日曜日(日曜日と言う名前ではないが、週に一回の休みの日なので日曜日と呼ぶ)の昼食時にカレンがそう言った。

「カップ麺?」

 おうむ返しに私は聞き返した。

「そう、カップラーメンでもうどんでもソバでも焼きそばでもいいから食べたい」

 そんな事を言う。

「ああ、そうね、毎日健康に良さそうな物食べてるけど、たまにはジャンクなものが食べたくなるよね」

 リーナも賛同して来た。

「そうだな、私は行ってないけど、戦争とかの時にお湯だけで食べれるような保存食とかがあれば便利なんじゃない?」

 ユキまでそんな事を言い出す。

「そう、それ!この世界で作れれば、大金持ちに成れるかも!」

 リーナがノリノリになって来た。

 カレーを作ろうって言いだした時も、そんなこと言ってなかったっけ?

「いや、ただ単に私が食べたいだけなんだけど・・・」

 言い出しっぺのカレンが何故かトーンダウンする。

「出来るかどうか分かんないけど、試しに作ってみる?」

 私はそう言った。

 そんな訳で、カップ麺と言うか、即席麵を作ることになった。

「先ずは麺だけど、この世界にも乾燥パスタみたいのはあるから、それでいいかな?」

 いつもはメイドさん達が仕事をしている調理場で、棚から乾燥パスタの束を探し出して、私は言った。

「待って、カップ麺の麺って確か、ただ乾燥させてるんじゃなくて、油で揚げて乾燥させるんじゃなかったっけ」

 ユキがそう言った。

「え?そうなの?」

 リーナが聞き返す。

「そう、油で揚げることによって、表面に小さな穴が開いて、戻すときにお湯が浸み込み易くなるって理屈のはずだ」

「それじゃ、具材やスープも普通に乾燥させただけじゃダメなのか?」

 カレンが聞く。

「そうだね、そっちの方はフリーズドライで作ってたはず」

「フリーズドライ?」

「聞いたことはあるけど、実際どうやるかは分かんないな」

 私がそう言った。

「あれはね、マイナス30度位まで一気に凍らせてから減圧して水分を昇華させるんだ。この世界だと冷蔵庫は造れたけど、そこから更に真空に近いくらいまで減圧できる機械を造るのは難しいかな?」

 ユキがそう説明する。

「魔法で何とかならないかな?水魔法で水分だけ取り除くみたいな・・・」

 リーナがそう提案する。

「うーん、とりあえずやってみるか」

 ユキがそう言ったので、みんなで手分けをして、作り始める。


 私とカレンが麺を造り、リーナとユキがスープと具材の乾燥を試すことになった。

 私達は乾燥パスタをお湯で戻し、水分をきってから油で揚げる作業をする。

「なんか、二度手間だな・・・」

 熱した油の中で麺がジュワーと音を立てているのを見ながら、カレンがそう言う。

 確かにその通りだ。

 この後更にお湯で戻す作業がある。

 今は乾燥パスタしか無かったのでそうしたが、本来は打ちたての麺を揚げればいいだろう。

 一方、スープ作りの方は更に面倒そうだった。

 朝食で余っていたスープを幾つかに分けて試行錯誤しているが、上手くいかないみたいだ。

「大体無理だろ~、水分子一個一個を制御するなんて、マクスウェルの悪魔じゃないんだから~」

 ユキがお椀の中のスープを魔法でなんやかんやしながらそう言った。

 水分だけ飛ばそうとしているらしいが、スープがお椀の中でグルグルしているだけで、全体の嵩は変わっていない。

「しょうがないな、火にかけて煮詰める?」

 リーナがそう言った。

 結局、普通に煮詰めて水分を飛ばすことになったらしい。


「で、出来たのがこれか」

 数時間格闘して出来た物が、私達の目の前にある。

 お椀の中に丸い形で油で揚げた麵と、水分を飛ばしきれなくて粉末ではなくペースト状になったスープ、時間が無くて乾燥できなかったので生のままの刻みネギが入っていた。

 使い捨て出来る容器の開発とかは、今は省略だ。

 あまり美味しそうな感じはしない。

「取り敢えず、お湯をかけるね」

 そう言って、リーナがヤカンからお湯を注いだ。

 三分待って、みんなで食べてみる。

「「まっず!」」

 全員同じ意見だった。

「う~ん、麺は悪くないんだけど、スープがね・・・」

 リーナがそう言う。

「やっぱり普通に煮詰めると、香りとか全部飛んじゃうのが敗因だね」

 ユキもそう言った。

「これじゃ、売り出してお金持ちになるのは無理だわ」

 リーナが落胆する。

 結局失敗か。

「じゃあ、こうすればどうだろう?」

 カレンが、煮詰めていない余りのスープに麵だけを移して食べだす。

「ああ、これは悪くない!」

 そう言って、ズルズルと食べ続ける。

 それを見て、私達もやってみた。

「うん、スープがちゃんとしてれば食べられる」

「油を含んだ麺がジャンクな感じがしていいかもしれない」

「塩気と香辛料を追加すると更にジャンク感が出るよ」

 みんなで、ズルズルと啜り続ける。

 結局、当初のカレンが言っていたジャンクな麵料理を食べたいという目的は果たせたことになるのかな?

「結局うまくいったのは麺だけって事か・・・」

 食べ終わった後、ユキがそう言う。

「でも、食用油は高いから、一般に普及させるのは無理かもね」

 私はそう言った。

 今回使った油もすぐに捨てないで、何回か使い回すことになる。

 フライドポテトや野菜の天ぷらでも作ろうか。

 食器を洗いながら、そう考える。

 休日の昼下がり、みんなで料理をして過ごすこの時間も悪くはない。


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