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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
6章
63/215

6-2


 フォーマットの下書きはその日の内に作り終えた。

 エドガーさんに見せてOKを貰ったので、調査対象の村の数だけ複製する。

 コピー機なんて無いので手書きである。

 その日の内に終わりそうになかったので、残りは明日にした。

 夕方になったので、領主の館を後にして、家に帰る。

 仕事は忙しいのだが、残業はない。

 もちろん、エドガーさんやディアナさん達も仕事は終わりだ。

 この世界と言うか、この国ではこれが普通らしい。

 そこら辺の緩さと言うか、仕事とプライベートをしっかり分ける所は好きだ。

 貸してもらった家は結構大きくて二階建てだ。

 一人一人の個室が有って、食堂やリビングも広い。

 お風呂もある。

 そして、なんと、メイドさんが四人も付いてきた。

 と言うか、エドガーさんから貰う報酬から私達がメイドさん達の給料を払うのだが、最初に紹介して来たのはエドガーさんとロリアーネさんだった。

 家事に割く時間を仕事に振り分けられるようにとの配慮だろう。

「何もしないでもご飯が出てくるのがいいね」

 食堂でバターを塗ったパンと齧りながら、リーナがそう言う。

 夕食のメニューはパンと、肉と野菜の入ったスープ、ピクルスが少々と庶民よりは少々豪華なくらいである。

「でも、人任せにすると、料理の仕方とか忘れちゃいそうだな」

 カレンがそう言う。

「休みの日には自分達で作るから、大丈夫でしょ」

 ユキがそう言った。

 村に居た時はあまり気にしていなかったが、この世界も七日で一週間とする決まりがあり、一週間に一度休みの日が有って、お役所とかはそのサイクルで動いている。

 メイドの人達もその日にお休みと言う事にした。

 なので、その日の家事は自分たちでやる。

「でも、いざ自分でやるとなるとめんどくさいんだよな~」

 カレンが身も蓋もないことを言った。


 夕食後は交代でお風呂に入る。

 お風呂の準備もメイドさんたちがやってくれて、非常に楽だ。

 浴室も山小屋のものより広くて四人全員は無理でも二人位なら余裕で一緒に入れるが、やはり別々に入ることにした。

 そして、夕食後の手芸の時間はこっちに来てからも続けている。

 ゲーム機もスマホも無いこの世界では、夜の時間を潰す趣味はこれ位しかないのだ。

 将棋やチェスに似た盤上ゲームも有るのだが、女子にはあまり合わないし、四人しかいないと常に同じ順位に成るので、すぐに飽きてしまったのだ。

 手芸の材料は、山小屋に居た時は自分達で取って来た革を使っていたが、ここでは布や革を買ってきて使っている。

 私は山刀の修理で鹿の角の加工が面白かったので、鹿の角や木材を削って色々作ってみている。

「それでは、お嬢様方、これでお暇致します」

 夕食の皿洗いを終え、私達の後にお風呂に入ったメイドさん達が挨拶をして、帰って行く。

「あ、お疲れ様です~」

 私達が返事をする。

 メイドさんは一人が住み込みで、残りは近くの自宅からの通いである。

 家事の仕事は早朝から夜までと長いので、早番遅番に分けてあり、今帰ったのは遅番の二人だ。

「おや、みんな帰った様だね」

 二人と入れ違いに、一人のメイドさんがリビングに入って来た。

 住み込みのヴィクトリアさんだ。

 彼女もお裁縫などの内職をするので、私達と一緒にするのだ。

 他のメイドさんはこの街からの現地雇用だが、彼女は元はロリアーネさんのファーレン家に仕えていた人だ。

 一応この家のメイド長で、他の三人を雇う手配をしてくれたのも彼女だ。

「あ、ヴィクトリアさん、これの縫い方教えて」

 ユキが自分の作っていたものを見せてそう言う。

「はいはい、どれどれ」

 彼女の隣に座って、手元を覗き込む。

 娘の家庭科の宿題を見てやるお母さんみたいだ。

 実際、ヴィクトリアさんは他のメイドさんよりも大分年上で、そのくらいの年齢だ。

 彼女を私達に付けてくれたのは、エドガーさんというかロリアーネさんの気遣いなのかもしれない。


 次の日、フォーマットの複製が終わったので、エドガーさんに渡した。

 後で、彼が部下たちに配り、再度調査に行って貰う事になる。

 私達は一回目の報告書をまとめる作業に戻った。

 大雑把でいいと言われているので、書かれていない部分やあやふやな部分は飛ばして、スピード最優先で仕上げる。

 数字以外の陳情の部分は重要度が高そうなものだけ抜き出して、まとめた。

 厳密にやろうとすると時間がかかる事も、適当で良いとなるとすぐに終わる。

 終わった後は今回の調査の人達が戻ってくるまで、他の仕事をすることになった。

「ええと、ここに有る武器と防具は古くてもう使えませんか?」

 私達は領主の館の武器庫を見て回って、在庫のチェックをしている。

「そうだな、槍も盾も金属部分が大分錆びているし、使うには無理があるな」

 そう答えたのは、王国軍の軍人のトールさんだ。

 武器庫の中にはワーリン軍が置いて行った物資が残されていた。

 と言っても、古くなって使いようが無いから置いて行ったものらしい。

「捨てる?それとも予備として置いておく?」

 リーナが聞く。

「そうだな、もう少しすれば、予備の武器は本国から送られてくるから、捨ててしまっても構わんだろう」

 トールさんがそう答えた。

「捨てるのは勿体ないよ、鉄は貴重だから鉄の部分だけ外して鋳直すのが良いんじゃないかな」

 私はそう言った。

「そうだね、街の鍛冶屋さんに払い下げようか?」

 ユキがそう提案した。

「分かった、それでは我々で運び出しておこう。領主様にはそのように報告しておいてくれ」

 トールさんがそう言った。

 彼はエドガーさんの直接の部下ではなく、王国軍に属している。

 本来各領地の防衛は領主直属の兵隊さんが行うが、ここは新しく取り込んだ土地であり係争地なので王国軍が駐留している。

 アルマヴァルトの領兵はベリーフィールド家とファーレン家から分けてもらった戦力だけで、今は更に募集中だったりもする。

 そして、指揮権の違う部隊が同じ街に居るとまた色々といざこざも有る。

 その調整にもエドガーさんは頭を悩ませているのだ。

 それでも、トールさんはまだ私達に親切な方である。

「さて、次に行くか」

 カレンがそう言った。

 物資を貯蔵している拠点は領主邸以外にも街の要所に何箇所かある。

 その全てのチェックをしないといけないから、大変だ。


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