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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
6章
62/215

6-1


 アルマヴァルトの街はそれほど荒廃しては居なかった。

 ベルドナ王国軍の侵攻が速かったために、ワーリン王国軍は建物を破壊するなどの嫌がらせの暇もなく撤退して行ったらしい。

 出来たことと言えば、持てるだけの財産や食料を持って行ったくらいだ。

 もちろん凶作に見舞われていた住民は困窮した訳だが、ベルドナ王はすぐさま食料の援助を指示した。

 まだ整備される前の街道を荷車ではなく牛や馬に直接背負わせて運んだそうだ。

 その為、街の住民は新しい領主のエドガーさんを歓迎して迎えてくれた。

 無傷で残っていた元の領主の館を接収して、そのまま新庁舎にする。

 流石に戦略的な要衝の領主の館だけあって、ほぼお城みたいなものだった。

 街の外れの小高い場所に建っていて、ちょっとした山城の様な威風をたたえている。

 私達は館近くの一軒家を貸してもらい、そこから毎日館に通って、仕事をすることになった。


「うげ~、めんどくさい~」

 領内の各地から上がって来る報告書のまとめをやっていたユキが頭を掻きむしった。

 私達は領内の人口や物資の調査をやっている。

 私達の他のエドガーさんの部下達が各地に行って、調査してきたものをまとめる作業だ。

 リーナとカレンは黙々とやっているが、私達の中で一番頭のいいはずのユキが最初に爆発した。

 頭のいい人ほどこういう単純作業に向いていないのかもしれない。

「大体これ、書式が統一されてないのがダメだわ!」

 そう言って一枚の報告書を放り投げる。

 私もやっていてそれが気になった。

 例えば人口の場合、男女別年代別に細かく書いている人も居れば、大雑把に全部で何人としか書いていない人も居る。

 物資にしても食料なら重さで記述している場合もあれば、何人で何日分とかの記述で書かれたりもしている。

 もっと困るのは、長々と困っている事の陳情を書き連ねているだけで具体的な数字が書いて無い場合だったり。

 調査の仕方が、お役人たちが自分で調べて書いている場合もあれば、現地の人に書かせている場合もあるからだ。

 エドガーさんからは、取り敢えず大体の数字が分かればいいと言われているが、流石に困ってしまう。

「ん~、書式って言うか、何かこうテンプレート?フォーマットみたいなのが有ったらいいのにね」

 私がそう言うと、

「そうだ、それだ!必要な項目を書いたテンプレ作って、それ持って行ってもらって、もう一度やり直させよう!」

 ユキはそう言うと、早速フォーマットの作成を始めようとした。

「ちょっと待って、そうゆうのは上の許可取らなきゃ」

 カレンがそう言った。

 しかし、ユキは何故か嫌な顔をする。

「そうだね、私が聞いてくるから、ユキ達は先にフォーマット作りやってて」

 そう言って、私は席から立ち上がった。


 私は領主の執務室にノックをして入って行った。

 中ではこちらもエドガーさんと数人の執事の人達が書類仕事をしていた。

「何か用かい?」

 書類から顔を上げたエドガーさんがそう聞いてくる。

「え、ええとですね・・・」

 フォーマットを作ることを話す。

「それはあなた方が楽をしたいだけなのではありませんか?」

 例の女執事さんが口を挿んで来た。

 この人、ディアナさんと言って、ここの新しい執事長になった人だ。

 歳は二十代後半くらい。

 エドガーさんやロリアーネさんよりも年上だそうだ。

 ちなみにキースさんは、ベリーフィールド家の王都邸の仕事が有るのでここアルマヴァルトには来ていない。

 ここに居るのはベリーフィールド家とロリアーネさんのファーレン家から移って来た比較的若い人達だ。

 それと私達みたいな新しく雇われた人間。

 で、人が集まると派閥が出来るのはどこも同じで、元ベリーフィールド家組のディアナさんは新規雇用組の私達を煙たく思っているらしい。

 ユキがこの部屋に来るのを嫌がったのは、そう言う理由だ。

 リーナもカレンも当たりの強いディアナさんには近付きたくないらしい。

 では、何で一番コミュ障の私が来たかと言えば、コミュ障ゆえに相手に合わせることをしないからだ。

 ネチネチ言ってくる嫌味に気付かないふりが出来る。

 まあ、気付いていない訳ではないんだが、無視する。

「あ~、はい。出来れば楽がしたいです」

 私はすっとぼけて、そう答える。

「このまま続けても、本当に大雑把な数字しか出せないと思います。きっと後で詳細な情報が必要になると思うんで、今は無駄な仕事はしたくないかなって・・・」

 私のその言葉に、ディアナさんが睨んでくる。

 流石に私もこの人と二人きりの時にこんなことは言わない。

 卑怯かもしれないけど、私達に好意的な上司が居る場だからだ。

「なるほど、分かった」

 エドガーさんが口を開く。

「確かに詳細な情報は必要だ。そのフォーマット作りは進めてくれ。出来次第、もう一度調査隊を出そう」

「そんな、二度手間になると調査の人達が嫌がります」

 ディアナさんが反対した。

「それは仕方がない。今のままでは、正確な数字が得られないのだからな。調査隊は行き先を入れ替えて、前回の村と違う所に行ってもらえば気分転換にもなるだろう」

 エドガーさんはそう説得する。

 そこまで言われれば、ディアナさんも納得するしかない。

「ただ、今の報告書のまとめも並行してやって貰えると助かる。本当に大雑把な数字で構わないから」

 追加でそう言ってきた。

 これは、私達に必要以上に楽をさせないことで、ディアナさんや他の人達のヘイトが私達に向かないようにする気遣いだろう。

 上に立つ人は大変だ。

「分かりました」

 私はそう言って、部屋を後にした。


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