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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
5章
59/215

5-5


 みんなを見送った後、家の後片付けをする。

 そんなに多くの持ち物が有ったわけではないので、大体は持って行って、残った物は少ない。

 使わない物は取り敢えずリーナとカレンの使っていた部屋に入れてしまう。

 作業は直ぐに終わってしまった。

 四人も居ると狭いと思っていた山小屋がやたらとがらんとした感じになる。

「べ、別に寂しくなんかないし」

 私はそう言って、作業小屋の方にも行く。

 鞣し作業途中の皮が残っている。

 全部ひとりでやると思うと、ちょっとウンザリするが、みんなが来る前は一人でやっていたのだから、ゆっくりやって行こう。

 次に食料の確認だ。

 燻製肉などはみんなにたっぷり持たせてやったけど、まだ十分に残っている。

 野菜類は少なくなっているので、後で村の人にお肉と交換してもらおう。

 冬の間少しずつ食べて来たりんごはもうほとんど無くなっていた。

 雪が融けるとまた山菜が採れるようになるから、ビタミン補給は大丈夫だと思う。

 摘花の時の見逃して枝先に着いたのが成長した未成熟な実が少しだけ残っていた。

 小さなそれを一つ手に取って、齧る。

「酢っぱ・・・」

 案の定、甘みが無くて唯々酸っぱい。

 でも、この酸っぱさと固い歯触りが私は好きだ。

 涙が出る程の酸っぱさを我慢して、一気に全部食べてしまう。


 一人になっても、やることは沢山ある。

 皮を鞣したり、狩りに出かけたり、村の人と物々交換したりしながら一週間ほどが過ぎて行った。

 降った雪で動物捕獲用の罠が埋まってしまうので、冬の内は罠猟はしていなかった。

 最近は大分雪が融けて来たので、そろそろ罠を仕掛けようか考える。

 そんな頃、不意の来客があった。

 昼食の準備をしていた時、山小屋の扉をノックする音がした。

 扉を開けてみると、全く予測していなかった顔があった。

「エ、エドガーさん!?」

 思わず声をあげた。

 そこに居たのはエドガー・ベリーフィールド改めエドガー・アルマヴァルトであった。

「やあ、てんこ殿、久しぶりだね、それにしても随分と大変な場所に住んでいるのだな」

 彼は最後に見た時の鎧姿ではなく、平服と言うか普段着の様な姿だった。

 それでも貴族だけあって、村の人達なんかと比べると大分良い身なりである。

 そして、彼の後ろにはロリアーネさんまでいた。

 こちらも豪華なドレスなどではないが、山道を歩くには少し勿体ないくらいの格好をしている。

 そんな恰好でまだ雪の残るこの森の中を歩いてきたのだろうか?

「ど、どうして、こんな所まで来たんですか?!」

 思わずまた、大きな声で言ってしまう。

「もちろん、君をスカウトしに来たんだ。前回は直接来れなくて失礼した。君には是非とも私の配下に加わっていただきたい」

 そう言って、丁寧に礼をした。

 失礼したとか言うけど、前に来たキースさんだって、ベリーフィールド家の王都邸での筆頭執事だったはずだ。

 その人に直筆の手紙を持たせたのだから、十分な礼を払ってくれたのだと思う。

 その上、直接本人が来るとか、そんなに私を必要とする意図が分からない。

「あ、え、その・・・」

 私はしどろもどろになってしまう。

「あの、ごめんなさい、そこまでされても、私なんて役に立たないと思うし・・・」

 それでも、私は断ろうとしたのだが、

「てんこちゃん!!」

 リーナの声が響いた。

 ロリアーネさんの更に後ろ、森の木の陰からリーナとそれにカレンとユキが姿を現した。

 それで、私は何となくすべてを察した。

 こんな森の奥までエドガーさんとロリアーネさんだけで来れる訳がない。

 つまりはみんながここまで案内してきたのだろう。

 もっと言えば、エドガーさんに私もスカウトする様に頼んだのも彼女達だろう。

 案の定、エドガーさんは意味ありげ気な微笑みを浮かべて、私とリーナ達の視線上から身を引いた。

「もう意地張ってないで、てんこちゃんも一緒に行こうよ!」

 リーナがそう言ってくる。

「いや、そうじゃないだろ、リーナ」

 頭を搔きながら、カレンが彼女に何かを促す様に言った。

 その声に、リーナは一瞬、息を詰まらせた様になるが、

「わ、私達がてんこちゃんの事が必要なの!一緒に来て欲しいの・・・」

 なんか、恥ずかしそうにそう言った。

 私も思わず赤面してしまう。

「そうなんだ、リーナだけじゃなくて、私もユキもそう思ってる。なんて言うかな、スキルとか適材適所とか関係なくて、私達がてんこちゃんが居ると安心するんだよ」

 カレンもそう言ってきた。

 私の顔は更に赤くなる。

 だんだんと私の視線が地面に向いて行った。

 貴族様に直接頼まれても行くつもりは無かったけど、その貴族様を動かす為に仲間が働いてくれたのなら、それに答えないわけにはいかないだろう。

「分かった。私も行く」

 私はうつむいたまま、小さな声でそう言った。


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