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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
5章
58/215

5-4


 エドガーさんの申し出は良い話だと思う。

 何か大きな不満がある訳ではない。

 確かに私は人と話をしたりするのは苦手で、そう言う事務仕事とかは若干不安が有るが、みんなで分担すれば何とかなるとは思う。

 報酬も十分だし、気に入らない点はない。

 しかし、現状の生活にも大きな不満はないのだ。

 山奥で動物を狩ったりする生活は多少不便ではあるが、だいぶ慣れたし、私は好きだ。

 他所の人との関わりは多すぎず少なすぎず、これ位が丁度良い。

 ただ、他のみんながどう思っているかと言うのは、これまでも気になっていたことだった。

 私と違って、社交的なみんなは不満があったのではないかという気がする。

 色々と考えたが、みんなに心配をかけたくないから、ここは端的に言おう。

「ええと、私お役所仕事とか向いてないと思うからいいや。元々ここで一人で居たんだし、私は大丈夫だから、みんなは気にせずに行くと良いよ」

 私がそう言うと。

「え~、じゃあ私も止めようかな~」

 リーナが少し不機嫌な感じになってそう言った。

 リーナが行かないとなると、仲の良いカレンも行かないと言い出すかもしれない。

 そうするとユキも辞退し、誰も行かないことになる。

 それはまずい。

 今回の話は本当に良い話なのだ。

「待って、リーナの治癒魔法のスキルはこんな山奥よりもっと人の多い所の方が役に立つと思うから、行った方が良いと思う」

 これは本当にそう思う。

 狩猟スキル以外に突出したものが無く器用貧乏な私と違い、リーナだけじゃなくカレンもユキもこんな所に居るよりももっと活躍できる場所が有るはずだ。

 が、しかし、リーナの不機嫌な顔はさらに険しくなった。

「なに?てんこちゃん、私にここから居なくなって欲しいの?」

「え、違う、そうじゃなくて、向き不向きと言うか・・・」

 私はしどろもどろになる。

「まあまあ、てんこちゃんは新しい場所の方がリーナのスキルが活かせるって言ってくれてるんだ」

 カレンがそうフォローしてくれる。

「それはそうと、てんこちゃんも一緒に来ない?事務仕事が苦手とか言うけど、私らだってやった事はないんだ。みんなで協力し合えば何とかなるんじゃないかな?」

 そうは言うが、そうなると私がみんなの足を引っ張ることにならないだろうか?

 それこそ適材適所ってやつで、狩猟スキルがメインの私はここに残る方が良いと思うのだが。

 色々考えて私が黙っていると、リーナは怒った様に溜息をついた。

「いいわよ、もう。そんなにここが良いなら、ずっとここに居ればいいでしょ」

 そう言って、自分の夕食を持ってテーブルに着いた。

「まだ時間は有るんだ、焦って結論出すことも無いだろ」

 同じように夕食を持ってきたユキがそう言う。

 今日の夕食は、従軍してた時によく食べてた干し肉入りの麦粥だった。

 リーナと私とで試行錯誤した特製スパイス入りのそれはいつも通り美味しいのだけど、この日はみんな無口になって食べた。


 夕食後、この日は革細工などの作業はせずに、それぞれの部屋に戻った。

 リーナとカレン、私とユキが同部屋である。

「てんこちゃんの言いたいことも分かるよ」

 自分のベッドに腰掛けたユキがそう言って来た。

「確かにてんこちゃんのスキルはここに残った方が活かせるし、逆に私達のスキルはここでは余り活かせない。私達はスキルを選ぶ時によく考えたつもりだったけど、そのスキルを活かせる場所が有るかどうかまでは考えなかった。その点、一人でも生きていけるだけのスキルを選択したてんこちゃんは凄いと思うよ」

 そこで、一息ついて私の方を見る。

 私は黙ったままだ。

「そんな頭のいいてんこちゃんだから、ここで別れるのが合理的だって判断したんだろうけど、でも、それでてんこちゃんは寂しくない?」

 私を見たままユキはそう言った。

「別に・・・、一人で居るのには慣れてるから」

 私はそう言って、布団を被った。

 なんか、私、意地になってる?


 次の日の朝になっても、私の結論は変わらなかった。

 リーナは拗ねたままで、カレンは渋々ながらも私の意志を尊重してくれた。

 ユキは何か考えている様だが、あえて何も言わないでいるような感じがする。

 結局、私はここに残り、他の三人がエドガーさんの所に行くことに決まった。

 出発の為の準備に一日かかることを、キースさんの所にカレンが知らせに行き、残りの人で準備をする。

 荷物をまとめたり、革細工の売り上げなどのお金を四等分にしてみんなに分配する。

 リーナが一人残る私に多めに寄越そうとしたが、私は断った。

 その事でも、リーナは不機嫌になるのだが、これは仕方がない。

 さらに次の日の朝、三人は山小屋から旅立って行った。

 持てるだけの燻製肉やスパイス、保存食を持たせてやる。

 お金だけあれば、途中の街で買えるから要らないと思うかもしれないが、この世界、何があるか分からない。

 移動時の保存食が大事なのは、何度か経験して分かっている。

 みんなはキースさんと一緒に一度、王都まで行き、そこでエドガーさんと合流して、例のアルマヴァルトに行くらしい。

 別れの時、リーナはむくれたままで、カレンとユキはちゃんと挨拶をしていった。

 ただ、ユキが意味ありげにこちらを振り返って行ったのが気になる。


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