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春が近付き、積もった雪が低くなり始めた頃、私達を訪ねて来た人が有った。
王都のエドガーさんのお屋敷に居た執事のキースさんだった。
流石に雪の残る山道を山小屋までは来ることは無くて、村まで来て村の人が私達の所まで知らせに来てくれた。
村長の家に逗留して居ると聞いて、私達は会いに行った。
「我が主よりの手紙でございます」
軽く挨拶をした後、キースさんは私達四人に手紙を差し出した。
使いの人に手紙を持たせれば良かったのにと思ったが、一応私が受け取ってそれを見る。
「あれ?差出人が『エドガー・アルマヴァルト』になってる」
確かエドガーさんの家名は『ベリーフィールド』だったと思ったけど。
「どゆこと?」
横から覗き込んだカレンが聞いた。
「エドガー様はこの度、国王陛下より新たにアルマヴァルト領を拝領しましたので、ベリーフィールド家から独立してアルマヴァルトを名乗ることになりました」
キースさんがそう説明した。
「へ~」
そう言えば、前回の戦争でワーリン王国から奪い取った領地にエドガーさんが入るとか言う話を噂で聞いたな。
私は封を開け中身を読む。
季節の挨拶から始まり、なんやかんや書いてある。
「要約すると、エドガーさんがそのアルマヴァルトとか言う新しい領地の領主に成るんだけど、領地経営の為の人手が足りないから、私達に手伝って欲しいって事?」
私がそう言うと、キースさんが肯定した。
「その通りでございます。前戦役でのご活躍に加え、魔法学院で披露された見識の高さをロリアーネ様より聞いたエドガー様が是非にとの事でございます」
私達はお互いの顔を見合わす。
「どうしよ?」
手紙には出来れば来て欲しいくらいで、絶対に行かなければいけないみたいな命令口調では書かれていないけど。
「仕事は文官として、相応の地位と報酬を約束するとのことです」
キースさんが追加でそう言って来た。
強制ではなくあくまでお願いと言う形だが、手紙の内容とキースさんの様子からしてかなり本気で必要とされている感じがする。
「すぐに決めなくても構いません。私、暫くこちらに逗留させていただきますので、皆さんの意見が纏まりましたらお知らせください」
そう言われたので、私達はとりあえず山小屋に戻ることにした。
さて、どうしよう?
「悪い話じゃないんじゃないかな?」
夕食の用意をしながら、リーナがそう言った。
確かに、手紙に書かれていることや、キースさんの話からすると、かなりいい条件みたいだ。
仕事は領民からの各種陳情の取次や税金の計算の補助、その他雑務など、事務仕事のOLみたいな感じらしい。
それでいて、領主直属の公務員みたいなもんで、結構な報酬が貰えると書かれている。
この国では各地に小学校というか寺子屋的な学校が王立だったり、各領主が設立したりして有って、識字率とかは高いのだが、多くの人はそこ止まりで、高等教育に行く人は少ないらしい。
私達みたいに高校一年生と言うか、ほぼ中卒くらいの学力でも十分公務員として通用するのかもしれない。
「山奥で鹿を狩っているよりは、いい生活が出来るでしょうね」
私はそう言った。
「じゃあ、行こうか?」
カレンがそう言う。
「そうだね、ここの生活も少しずつ良くなってきたけど、もっといい生活が出来るならその方がいいよね」
リーナも同意する。
「新しく手に入れた土地で紛争地帯って事でちょっときな臭いけど、ワーリン王国も今回の敗戦で再奪取に来るほどの体力も無いみたいだし、当面は安全らしいから、アリだね」
冷静にそう判断したのはユキだった。
これで、みんなの意見は出揃ったみたいだ。
「じゃあ、みんなで行くと良いよ。私はここに残るから」
テーブルに頬杖を突きながら、私はそう言った。
「「「え?」」」」
他三人が一斉に私の方を見る。




