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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
5章
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5-2


 王都からこの山小屋に戻ってから、ユキに頼んで水道を引いてもらった。

 水道と言っても大したものではないのだが、近くを流れる小川から土魔法で水路を掘って水を引いてきたのだ。

 掘った水路の溝には粘土を塗り、火魔法で焼いて素焼きの土器の様にして、地面にあまり水がしみ込まないようにしてある。

 また、ゴミが入り込まない様に水路の上には板で蓋をし、取水口には小石と砂利、それに炭で簡単なろ過装置も作った。

 水路は山小屋の床下を通し、台所、お風呂、トイレの順番で流れて行くようにした。

 床下なので、蛇口をひねって水が出てくるわけではないが、そこから汲み上げて使えるだけでも、一々川まで汲みに行くよりは大分便利だ。

 流れ出た廃水は小川に戻すが、浄化槽代わりの砂利を敷き詰めた溜池を造り、そこを通すので、下流の環境にもちゃんと配慮している。

 何よりトイレが水洗になったのが嬉しい。

 作る時は魔石が勿体ないので、休み休み魔法を使い、ちょっとずつ作って行った。

 魔石が有ると一遍に出来るけど、無くても少しずつ時間をかければ、同じことが出来る。

 大威力の攻撃魔法を使う時以外では、魔石は時短用の課金アイテムみたいな物かもしれない。

「お風呂上がったよ~、次の人どうぞ~」

 夕食の後、一番風呂を頂いた私が居間に戻って来て、次の人を呼ぶ。

 居間ではみんなが革細工を作っていた。

 捕って来て鞣した革はそのまま街に売りに行くこともあるが、自分達で加工して防寒着や小物を造り自分達で使ったり、売ったりしている。

 と言うか、自分達で使い切れない分の革だけを、そのまま売っているのだ。

「あ、てんこちゃん、丁度良かった、ここの細かい所やって頂戴」

 そう言って、リーナが作りかけの革のポーチを渡してきた。

 冬の間は出来ることが少ないので、みんなでこういった手芸をしている。

 ちょっとした趣味と実益と言うやつだ。

 最初から革細工のスキルを取っていた私が一番うまく作れるが、デザインとかのセンスはリーナが一番良い。

 と言うか、そう言ったセンスでは私が一番下みたいだった。

 なので、私は他の人が大まかに作った物の仕上げを担当している。

 何というか、スキルとセンスは別物みたいだ。

「分かった。やっとくから、お風呂入って来て~」

 私は作りかけのそれを受け取り、椅子に座りテーブルの上のランプの明かりの下で作業の続きをする。

 冬になる前に買ってきたこのランプは、魔石で光る魔法の照明だ。

 これ位の明かりなら、小さな魔石でかなりの時間光るので、油を燃やすものよりも経済的なのだ。

 魔石はモンスターの体内からも採れるが、石炭の様に大昔に死んだモンスターの魔石が鉱脈になっている所もあるそうで、そこから採掘もされるそうだ。

 山小屋の外はしんしんと雪が降っている。

 夜の森は静かで、時折木の枝に積もった雪が重みで落ちる音がするだけだ。

 夜なべする私達だが、そんなに遅くまではしない。

 全員がお風呂から上がる頃には切り上げて、それぞれの部屋に二人ずつ分かれてベッドに入る。


 次の日、みんなで熊の解体を行った。

 皮を剥ぎ、内臓を取り出し、各部位に切り分ける。

 四人居るとは言え、女の子にはかなりの重労働で、それに結構グロい。

 意外にもリーナとユキはグロいのは割りと大丈夫で、カレンだけは最初の内、嫌がっていた。

 一番乙女っぽいのは彼女かもしれない。

 それでも何回か鹿や他の獲物を解体している所を見て慣れて来たそうだ。

 ここで暮らしていくなら、慣れてもらわなければならないだろう。

 熊の毛皮は鹿より分厚くてコートにすると防寒性能は良いのだが、その分重くて長時間着ていると疲れる。

 外で作業とかするのには向かない。

 なので鞣し終わったら自分達では使わず、売りに行こうと思う。

 肉は燻製にし、内臓も食べられるものは食べよう。

 肝臓レバーなんかは滋養強壮の薬として売ってもいいだろう。

 可能な限り無駄にしないのが供養ってものだ。

 と言うか、使えるものを捨ててしまう程、余裕のある生活ではないからなんだが。

「そう言えば、元の世界でも熊に襲われたとかのニュースがたまに有ったよね」

 お湯で剥いだ皮を洗いながら、リーナがそう言った。

「そうだね~、この世界でもたまに襲われる人が居て、討伐依頼とか出されてるから、こっちも向こうも同じようなもんだね」

 私がそう答える。

「こっちだと『生き物を殺すな』とか言う人が居ないから良いよね」

 ユキが取り出した内臓モツをチェックしながら言う。

「まあ、テレビやネットが無いからね、安全な所から無責任なこと言う人も居ないでしょ」

 カレンが切り分けた肉を燻製室に運びながら言った。

 なんだかんだ言いながら、熊を解体する女の子四人てどうなんだろう?


 その日の夕食の当番はカレンだった。

 メニューは何日か前に彼女自身が弓で捕って来たカモ肉のソテーと、野菜のスープだ。

 ソテーの味付けは街で買ってきたトマトケチャップの様な調味料をかけてある。

 春に街に行った時は売っていなかったが、夏にトマトが採れるようになった頃から出回り始めていた。

 潰したトマトと他何種類かの野菜を煮詰め、塩と酢で味をまとめている感じだ。

 元の世界のトマトケチャップに近い味で、私もみんなも好きだ。

 ただ、スープの味付けが例のハーブ入りの味噌だった。

 ここら辺の地方、ヨーロッパぽい雰囲気が有るのだが、気候的にも植生的にも日本に似たところもあって、麹菌とかも日本と同じものな感じがする。

 それにハーブを入れるのがヨーロッパぽい?のかな?

「うわ~、私これ嫌いなのに~」

 ユキが文句を言う。

「大丈夫だって、そんなにハーブきつくない奴だから」

 カレンがそう言う。

 この味噌はジョージさん家から貰ってきた奴で、サラさんが手作りしたものだ。

 この地方と言うかこの国含めて周辺の国々で作られているハーブ入り味噌だが、本当に作り方は場所により人により様々だ。

 ハーブの種類もだが、豆も大豆だったりそら豆だったり、麦も小麦・大麦・ライ麦だったりして、しかも組み合わせも色々あるんで当たり外れが大きい。

 と言うか、私達が外れと思っているものでも、作っている人が居るという事は、それを美味しいと思う人も居るのだろう。

 その点、サラさんが作るのはハーブ控えめで味噌も自分達が慣れた味に近いので、かなりマシだ。

 それでも合わない人は居るわけで、

「一口目がお味噌汁なのに変にハーブの味が後から来るのが受け付けないんだよ」

 ユキが重ねて文句を言う。

 実は私も同じ意見だったりする。

 しかし何故かリーナとカレンはこの味が気に入ってしまっている様子だ。

「嫌なら飲まなきゃいいでしょ、代わりにカモ肉多めにあげるから」

 リーナがそう言って、自分の分のお肉を分けてあげようとする。

「うーん、大丈夫。汁少なめにして野菜だけなら食べれるから」

 ユキがそう言って断った。

 私も同じように野菜スープは汁少なめにした。

 これなら、ハーブの味が付いた温野菜みたいな感じでなんとか食べられる。

 四人も居ると、色々と味の好みが分かれて大変だ。

 ちなみに、リーナはキノコ類が苦手で、カレンは内臓モツがダメだそうだ。

 それでも絶対に食べられない訳ではないので、我慢して食べてもらっている。

 みんなで、なんだかんだ言い合いながら食べるのも悪くはない。


 今夜はお風呂には入らない。

 冬場はそんなに汗はかかないし、薪も勿体ないので、二日おき位でお風呂を沸かすことにしている。

 元の世界で毎日お風呂に入ってたのは結構な贅沢だったのだとこっちに来て気付いた。

 寝るまでの時間はまた、みんなで革細工などをして過ごす。

 私は一人だけ、鹿の角の加工品を作る事にした。

 今まで鹿の角は使い道が無くて放って置いてたのだが、村の雑貨屋のおばちゃんが色々な細工物の材料になると言って買い取ってくれる様になったのだ。

 なので、私もやってみようと思う。

 まずは、ジョージさんから貰った山刀の柄を作るつもりだ。

 大分年季が入っていて、ボロくなっていたので新しくしてみたい。

 街の刃物屋さんで鹿角の柄のナイフを見て、それがカッコよかったので、自分でも作ってみたくなったのだ。

 山刀を分解し、取り外した木製の柄の部分を見本にして、鹿の角を同じような形に加工していく。

 木材より少し硬いくらいで、木工用の道具で何とか切り出せた。

 今日は大まかな形が出来たくらいで、眠くなってきたので、終わりにした。

 仕上げと組み立ては明日以降にしよう。

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