4-15
私は関節技を掛けていた腕を放す。
サムソンさんと呼ばれていた男の人は跳ね起きて、私達から距離を取る。
「で、これはどういうことですの?」
腕組みをし、小さい身体を精一杯大きく見せようとしてアーネさんが私達に聞く。
「あ、あの、これはですね・・・」
ベティさんがしどろもどろになっている。
「エリザベートさん、あなたこんな所に居て、明後日の発表会の準備はどうなっていますの?」
アーネさんがベティさん一人に向き直って、そう言った。
「そ、それです。今ここでその準備をしている所でしたわ」
急に我が意を得たりと、ベティさんが答える。
「ここで?バーリン先生のお宅で?もう学院の生徒ではないユキさんを連れて来ているのはどういう事かしら?」
アーネさんが続けざまに問い詰めると、ベティさんは再び口をつぐんだ。
その時、家の奥からユキと他の女の子達がやって来た。
「いやあ、明後日までに直せって言われてもちょっと厳しいわ」
頭をかきながらユキが歩いてくる。
「おや、てんこちゃんにアーネ先生まで、どうしたの、こんな所で?」
私達に気付いてそう言う。
私達は場所をこの家の地下室に移した。
部屋の真ん中に何本ものパイプが絡みついた四角い箱が置かれている。
大きさは小さめの戸棚くらいだろうか。
「これが、お爺ちゃん先生が引退後の道楽で作っていた魔法装置、その名も『冷蔵庫』です!」
ちょっと芝居がかった口調で、ユキがそれを紹介した。
確かに私達からすればそれは冷蔵庫に見えなくもない。
だが、この世界の人達にすれば冷蔵庫と言うものは未知の物だろう。
「冷蔵庫?」
当然、聞きなれない言葉に、アーネさんは聞き返す。
「中に入れたものを冷やす箱ですね」
ユキがそう説明する。
「つまり、これを自分達の研究結果として発表しようとしていたと?」
アーネさんがベティさん達を睨んでそう言った。
「は、はい」
観念したのか、素直にそう答える。
「他人の研究を剽窃しても単位は与えられませんよ」
アーネさんがそう言うと、ベティさん達はがっくりとうなだれた。
「だ、だって自分達で考えた研究では無神派の人達には勝てないと思ったから・・・」
ベティさんは涙目になりながら小さな声でそう言った。
アーネさんは大きく溜息をついた。
「ベティさん、はっきり申し上げなかった私も悪かったですわ。発表会での結果とか、無神派、有神派とか関係なく、私、今年いっぱいで学院を辞めて、エドガーと結婚することになりましたわ」
アーネさんのその言葉にベティさんは絶望的な顔をする。
「先日エドガーと父からも手紙が来まして、彼の今回の戦争での功績で、父は私達の結婚を正式に認めてくれることになりました」
私達の方をちらりと見てそう言う。
「元から父は賛成だったのですが、今回の功績があれば反対していた人たちも説得できるだろうとのことです。王宮にも報告済みです。明日、王宮で王妃様主催のお茶会が有るのですが、私と私の母上とエドのお母様とで出席して、王妃様より非公式ですがお祝いの言葉を頂く予定になっています」
よく分からないけど、王妃様みたいな偉い人が認めるってことは、完全に決定事項って事みたいだ。
それを聞いたベティさんはまるで子供のように泣き出した。




