4-14
かけうどんを食べて待っていると、執事のキースさんが戻って来た。
ユキが連れて行かれた場所を突き止めたらしい。
その場所を聞いて、私達はそこへ向かう事にした。
エリシアさんは自分が関わると余計に話が拗れるだろうからと、私達に任せてお屋敷に戻ることになった。
執事さんに教えてもらった場所は魔法学院の近くの住宅街の一角だった。
「あそこかな」
貴族街のお屋敷ほどではないが、そこそこ立派な一戸建ての住宅が見えた。
ローゼス商会のお店や関係する建物ではなかった。
魔法学院の元学園長ロバート・バーリン氏の生前のお宅らしい。
そう、ユキがこの世界に来てから家政婦として雇い、魔法学院入学の後ろ盾になってくれた人の家だ。
住む人が居なくなった家だが、まだひと月程度なので寂れた感じはない。
「どうする?どこかから忍び込む?」
リーナがそう聞く。
「いや、そんな事する必要ないだろ」
カレンがそう言う。
確かに、ベティさん達がユキを連れて来た理由は分からないが、渋々ながらもユキが了解したという事は、何か悪いことをしている訳でもないだろうし、また私達がコソコソする理由も無い。
まっすぐ入り口の方に歩いて行き、ドアをノックする。
「こんにちは~。友達のユキちゃんに会いに来ました~」
大声でそう呼びかける。
少しすると、玄関に女の人が出て来た。
ベティさんと一緒に居た女子の内の一人だった。
向こうもこちらの顔を覚えていたようで、一瞬驚いた表情をする。
「あ、あの、ユキさんはもうここには住んでいませんが・・・」
おどおどとそう答える。
「え?でもさっきここに入って行くのを見ましたよ」
もちろん嘘だが、私はそう言った。
彼女は明らかに動揺する。
「あ、え、でも、この家はもう空き家になっていて、誰も住んでいないんです」
しどろもどろになりながら、そう言う。
「え~、でも人は居るじゃないですか?」
少し意地悪かなと思いながらも畳みかける。
「何を騒いでいますの?追い返しなさいと言ったじゃないですか!?」
奥の方から、やはりと言うか、ベティさんが出て来た。
後ろからスキンヘッドの大柄な男の人も付いてきている。
「あ、こんにちは。また会いましたね。実は私達ユキの友達なんです。今会えますか?」
意識して朗らかに私がそう言うと、彼女は苦虫を噛んだような顔をした。
「申し訳ありません。今は大事な用事が有りまして、また今度にしていただけますか?」
冷静を装いながらベティさんがそう言う。
「なんでよ、ちょっと会うくらいいいじゃない!」
「そうだ、空き家で何やってんだ?悪だくみでもしてんじゃないのか?」
リーナとカレンが彼女を問い詰める。
「この家は私の実家のローゼス商会が買い上げています。何らやましい所はありませんわ!」
冷静さを装っていたのに、すぐに声を荒げて彼女は後ろに控えていた男の人に命令した。
「サムソン!この人達を外に放り出して頂戴!」
ベティさんのボディガードなのか、大柄なその男性が前に出て来た。
「お嬢ちゃんたち、悪いことは言わねえ、今日の所は帰ってくれないか?」
巨体を誇示するようにして、そう言う。
しかし私達はその場を動かなかった。
彼は一つ嘆息して、私達の方へ進んで来る。
目標は一番体の大きい私の様だ。
動きは割とゆっくりだ。
雇い主の命令とは言え、女子に乱暴なことをするのは気が引けると言う感じがする。
見た目に反して結構常識人で、性根は悪い人ではないのだろう。
だから、私としても少々気が引けるのだが・・・。
私は伸ばしてきた彼の手を体勢を低くしてかわし、相手の懐と言うかほぼ足元に飛び込んだ。
普通、自分のような大男が迫ってきたら後ろに逃げるか左右に避けようとすると思っていた彼は不意をうたれて驚く。
人は前に進もうとしているときに急に足元に障害物が現れると、前屈みにつんのめった様になる。
あとは体重の乗ってない方の足に抱き着き、屈伸する様に上に持ち上げる。
バランスを崩した彼はその場で前転をするように転んだ。
神様がボーナスポイントで付けてくれた、徒手格闘:レベル2のスキルだ。
レベル2程度だが、相手の油断が有った事と、自分が冷静に動けた事で上手くはまった。
野生のモンスターや戦場での戦いと比べれば焦ることも無い。
何が起こったのか分からず呆然と地面に転がる彼の腕を取って、関節を極めてやる。
「いだだだだだだ!」
大男の悲鳴が響いた。
「な、な、な・・・」
ベティさんが口をパクパクさせている。
「ほ、ほら、無理ですよ!相手はフラウリーゼ川の魔女なんですから、勝ち目有りませんよ!」
もう一人の女の子がそう言う。
「なんだって!?あの敵将の首を片手でねじ切ったって言う!?助けてくれ、まだ死にたくない!」
大男が涙声でわめく。
ちょっと待って、それもう人間じゃなくてモンスターみたくなってない?
「そこまでです!双方離れなさい!」
突然、小さな影が現れた。
ちびっこ教師ロリアーネさんだった。




