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校舎の一室、アーネさんが使っている部屋に案内された。
「不快な思いをさせて申し訳ありません」
部屋に入るなり、そう謝られた。
「あの娘たち、特にエリザベート・ローズさんは有神派の中でも無神派に対する敵愾心が強くて、無神派のエドの事を敵視しているんです」
アーネさんはソファーの上に積まれた本などを片付けながら、説明してくれる。
「実は私も有神派で、元はあの子達とも仲が良かったのですが、エドと婚約した時から関係がおかしくなり始めて・・・」
片付け終わったソファーを私達に勧めてくれた。
この世界と言うか、この国では魔法使いは二つの派閥が有るが、その関係は各人で温度差がある様だ。
ベティさんの様に敵愾心バリバリの人も居れば、アーネさんとエドガーさんの様に派閥が違っても普通に付き合う人も居るらしい。
「ベティさん達のような人達は少数派で、この学院では有神派であっても無神派であっても差別なく学べるのが基本理念なのです」
アーネさんはテーブルの上に使い方の良く分からない道具らしき物を並べてくれた。
学院で開発中の魔法を使って色々する道具を見せてくれるそうだ。
「複合魔術でしたっけ、なんか発表会が有るとか言ってましたけど」
机に置かれた蛍光灯のような白い棒を手に取って見ながら、私が聞いた。
「ええ、ここにある魔法の道具のような物なのですけど、これらは単一の魔法を使いますが、複数の魔法を組み合わせた装置を造る課題が有りまして、その発表会が明後日なのです」
アーネさんが私の持っている白い棒に触ると、棒が光りだした。
やっぱり蛍光灯だった。
「別に有神派と無神派で競い合っている訳ではないのですが、何故か彼女達のグループが張り切っていまして」
「なんか、『目にもの見せてやる』とか言ってたっけ」
カレンが筒と袋を組み合わせた道具を触りながら言った。
「違うよ、『目を覚まさせる』だったはず」
アイロンみたいな道具を見ながら、リーナがそう訂正する。
「婚約破棄させるって事?」
カレンが持っていた道具に魔力を通すと、筒の先から袋の方へ空気が吸い込まれ始める。「うお、掃除機だこれ」思わず彼女が叫ぶ。
「彼女はローゼス商会の会長の娘さんなのですが基本的には庶民ですので、貴族同士の婚約に口は挟めないのですが、何故かエドと私では釣り合わないとか吹聴して回っていまして。何故ベティさんはエドの事をあれほど嫌うのでしょう」
心底不思議そうにアーネさんが呟く。
うーん。なんかエドガーさんの事が嫌いとか言うんじゃなくて、あのベティさん、ロリアーネさんの事が好き過ぎて誰かに取られたくないって感じがするのだが。
「それに、今度の発表会で無神派が有神派より劣っていたとしても、それで私の彼への気持ちは変わらないのですが」
アーネさんが嘆息する。
この世界では魔法は便利な技術だが、だからと言って、それが全てと言う訳ではない。
ましてや、魔法そのものではなく、呪文の唱え方の違いだけでここまでムキになる人が居るとは、と言う感じだ。




