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魔法学院は貴族街の南、庶民街との間にあった。
私達はアーネさんに連れられて、大きな門をくぐり中に入って行く。
中はかなり広く、雰囲気は高校と言うよりかは大学の方が近いかもしれない。
私は大学とかまだ行ったことはないけど、こんな感じだと聞いたことはある。
全クラスが同時に授業をするわけではなく、各教師が開く授業を選択式で受けるみたいだ。
選択の授業がない生徒が自由に学内を歩き回っているのも大学っぽい。
初代学長の銅像らしきものを見て、学園の中庭を通って、奥の建物へ向かって歩いて行く。
背が小さくほとんど学生のように見えるアーネさんだが、貴族特有の物なのか言葉では言い表せない存在感が有って、すれ違う生徒たちがみんな挨拶してくる。
「おはようございます。アーネ先生」
ある女子の一団がわざわざ立ち止まって、挨拶してきた。
私達より少し年上くらいの割と身なりの綺麗な女の子達だ。
「おや、そちらの方々は?」
中心に居た一番派手目な服を着た娘が私達を見て聞いてくる。
「おはようございます、エリザベートさん。こちらはベリーフィールド家の客人でエドガーの元で働いてくれた人達ですわ」
エリザベートと呼ばれたその娘は、急に険しい表情になって私達を見て来た。
と言うか、エドガーさんの名前が出た途端に目付きが変わったように見えた。
「まあ、あの方、アーネ様と言う婚約者が居るのに、こんな若い娘たちを三人もはべらせていましたの!?」
突然大声で叫びだす。
「ベティさん、それは違います。彼女たちは先のワーリン王国との戦で彼の所属する第三魔法隊で働いただけですわ」
昨日、自分も同じ勘違いをしてたのに、アーネさんはしれっと答えた。
「ベティ様、もしかしてこの人達、噂のフラウリーゼ川の三魔女では?」
エリザベート(愛称:ベティ)さんの隣の女子が、彼女に耳打ちする。
エドガーさんの関係者で女子三人組となると、そう憶測されるのも仕方がない。
彼女たちの私達を見る目に畏怖の色が加わった。
「あー、どんな噂を聞いてるか知んないけど、多分それって大げさに伝わってるだけだから。私らそんな人間離れした事とかしてないから」
カレンが、先手を打ってそう言う。
「そうそう、そんな大したことしてないんだ。まあ、てんこちゃんの活躍は凄かったけど・・・」
謙遜しつつも、リーナが余計な事を言う。
一瞬気圧されたようになったベティさんだが、おずおずと私達に聞いてきた。
「それで、あなた達は『有神派』?それとも『無神派』かしら?」
有神派・無神派と言うのは、この世界で魔法を使う人達における二大派閥らしい。
火魔法とか水魔法とかの魔法の種類ではなく、例えば火魔法を使うときに火の神に祈るのが有神派、祈らないのが無神派である。
「え?考えたことなかった」
私がそう言う。
「神様がくれたスキルだから有神派なんじゃないかな」
リーナがそう言うと、ベティさんの表情が一瞬明るくなる。
「いや、でも、魔法使うときに『神様お願い!』みたいに祈らないだろ」
カレンの言う通り、魔素に頭の中のイメージで働き掛けるだけで、祈らなくても魔法は発動する。
当の神様がそうすれば魔法が使えると教えてくれたのだ。
第一、あの神様は火の神でも水の神でもない、なんか全体を管理してるみたいな事を言っていたような気がする。
「やっぱり無神派かな」
私がそう言うと、ベティさんは地団駄踏んで怒り出した。
「なんですの、あなた達!自分たちが有神派かも無神派かもわからないなんて、どうなってますの!?」
「ベティさん、あまり大声を出さないでください。授業をしている教室も有るのですよ」
アーネさんが彼女をたしなめる。
「と、ともかく、あんな無神派の若造の所にアーネ様が嫁ぐなんて私許せませんわ!」
ベティさんはそう言って、周りの女子たちを引き連れて歩いて行こうとする。
「そう、明後日の複合魔術の発表会で、私達有神派が無神派より優れていることを証明して、アーネ様の目を覚まさせて見せます。どうぞご期待なさっててください」
振り返って彼女はそう言い、またずんずんと歩いて行った。
私達はポカーンとしてそれを見送った。




