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その日の晩。
エドガーさんの実家で、彼のお母さんとロリアーネさんと私達で夕食会になった。
ユキの事をアーネさんに話すと、驚くと同時に安堵していた。
「良かった。ユキさん、遠くの国から一人で来たって言ってたけど、同郷のお友達が居たのね」
そう言って、少し涙ぐんでいる。
それ以上に、お義母さんのエリシアさんがハンカチで目元を抑えながら号泣していた。
「なんて事かしら、遥々やって来て王都の魔法学院の門を叩いたのに、追い出されて食堂の下働き・・・。それでも天は見放さず、こうして同郷のお友達に会えるなんて・・・」
涙腺の弱いおばちゃんの様だ。
いや、食堂の下働きっていうか、アーネさんのコネで入って好き勝手に新メニュー開発してたみたいだけど・・・
「私も元学長のバーリン先生には良くしていただいてたので、ユキさんが学院に残れるように掛け合ったりしたのですが、一非常勤講師ではどうしようも無くて」
アーネさんがそう言う。
ユキは、なんかやたらアーネさんに気に入られていたみたいだ。
同じちびっ子だからだろうか?
もちろん、そう思ったことは口には出さない。
リーナが口を滑らせそうかなと思ったが、彼女はそこまで思い至らなかったのか、普通に料理を食べていた。
出された料理は中々手の込んだ美味しいものだった。
御馳走と言うと豪快な分厚いステーキとかを思い浮かべがちだが、流石に女性だけの夕食会にはそんなのは出て来ない。
お肉は上品にお皿の中心にちょこんとだけ有って、その周りの付け合わせの野菜類の方が多いくらいだ。
お肉も野菜も丁寧に下処理をしてあって、柔らかく食べやすい。
こういうお上品な料理はどう食べていいか分からないが、エリシアさんがマナーとかあんまり気にしなくていいと言ってくれたので、私達はその言葉に甘えることにした。
それでも、エリシアさんやアーネさんの食事の仕方を見て、なるべく真似るようにはする。
エリシアさんはワインを飲んでいたが、アーネさんはお酒に弱いらしく水だった。
私達にもワインを勧められたが、断って同じく水にしてもらった。
カレンがちょっと飲みたそうにしていたが、今まで飲んだことなくて酔っ払ってどうなるか分からないのに、こんな席では飲ませられない。
確かに、戦場で配られていた温くて変な臭いがしていた麦酒よりはおいしそうには見えるが、ここは我慢だ。
料理を頂きながら、ユキの話から始まり、本題だった戦場でのエドガーさんの事などを話した。
彼の活躍ぶりを話すと、アーネさんはものすごく喜んでくれた。
やがて話題は、昔の小さい頃のエドガーさんの話になり、最終的にはアーネさんとの馴れ初め、そして惚気話になって行く。
食後のお茶になっても、話は続いた。
この世界コーヒーもあるらしく、エリシアさんはコーヒーをアーネさんは紅茶を頂いている。
リーナとカレンはコーヒーにしたが、コーヒーが苦手な私は紅茶にしてもらった。
真っ白ではなく少し茶色い感じがするがお砂糖も出て来た。
デザートのケーキと一緒に頂く。
「そうですわ、よろしかったら明日は魔法学院を見学しませんか?私が案内いたしますわよ」
惚気話がようやく終わり、私達の王都観光の話になった時、アーネさんがそう提案してくれた。
学校か、こっちの世界に来てからは村の小さな学校にジョナサン君が数日に一度通うのを見ていたくらいだ。
アンナちゃんはまだ小さいので通っていなかった。
魔法学院は特に年齢制限はないが、普通15歳から20歳くらいまで通うらしい。
同い年位の子が通う学校とか久しぶりだから、見てみたい。
そんな訳で、三人揃ってアーネさんの提案を受け入れた。




