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店のテーブルをいつまでも占領していては悪いので、私達は店の二階のユキが住んでいる部屋にやって来た。
お昼時を過ぎる頃なので、客足も減ってきている。
おばちゃんとその旦那さんで賄えるから彼女は休憩を貰えたようだ。
割ときつめに見えたおばちゃんだが、私達がユキの知り合いと分かると融通を効かせてくれた。
「いい人達だよ、行く当てのなかった私を住み込みで雇ってくれたしね」
ユキがそう言う。
部屋は一人用だから、四人も入ると大分狭くて、私とユキがベッドに座り、リーナとカレンが反対側の床に座っている。
ユキはクラスで一番か二番くらいに背が低かったので、女子としては無駄に背の高い私と並ぶとその小ささが引き立つ。
ロリアーネさんといい勝負かもしれない。
でも、ショートカットで少しボーイッシュな感じはアーネさんとはだいぶ違う。
ユキは軽音部に入っていて、ドラムを担当していた。
本当はギターをやりたかったらしいのだが、女子のドラムが足りなかったので、ドラムを少し齧っていた彼女にお鉢が回って来たらしい。
軽音部は割と人気の部活で、部内で幾つかのチームがあるのだが、ドラムはいつも人手不足だったそうだ。
その小さい身体からは想像できない程のいい音を出すのだが、小さすぎる故に正面から見ると彼女がほぼ見えないのが欠点だった。
一見、私とは接点がなさそうに見えるが、実はアニメや漫画の趣味が合っていたので、仲良くなっていたのだ。
「冬野さんはこっちに来てからはずっとこのお店で働いていたの?」
リーナがそう聞く。
「うんにゃ、ここで働き始めたのは一ヶ月くらい前からかな。その前は別の所で働いてた。まあ、色々有ったんだわ」
そう言って、ユキはこの世界に来てからの事を話し始めた。
まずは転生時に貰ったスキルから、
冬野由紀
魔導探究者:10
火魔法:1(+5)
風魔法:1(+5)
水魔法:1(+5)
土魔法:1(+5)
光魔法:1(+5)
闇魔法:1(+5)
治癒魔法:1(+5)
器用さ:2
料理:3(+1)
裁縫:3(+1)
家事:2(+1)
穀物栽培:1
野菜栽培:2
だそうだ。
魔法の+5は魔導探究者を取ったことによる追加分だ。
このスキル構成を見ると、それこそ魔導探究者になるつもりだったのか。
「そう、そのつもりだったんだけどさ」
ユキが言うには、そのつもりで王都の魔法学院に入学しようとしたそうだ。
しかし、当たり前だが学院は誰でも入れる訳ではなく、王国内の各村や街にある学校からの推薦状が必要だったらしい。
この国には割と隅々にまで学校があり、簡単な読み書きや計算は教えられているそうだ。
その中で優秀な人が大きな街にある上級の学校に行ったり、さらに魔法の素養がある場合、魔法学院に入学できるらしい。
「いやあ、そこまで考えて無かったんだよね。入学試験で魔法をバーンって見せれば入れてくれるもんだとばかり思ってた」
あっけらかんと笑う。
「そんで、学院の入り口で足止めされてたら、なんか偉いさんみたいなお爺ちゃんが通りかかってね」
そのお爺さんは引退した元の学院長だったそうで、妻に先立たれ子供も居なくて一人暮らしだったところ、家政婦を探していたらしい。
「で、お爺ちゃん先生の家で料理したり掃除洗濯したりしながら学院に通わせて貰う事になったの。保険で取っていた料理とかのスキルが役に立ったわ」
家政婦の仕事をしながらだから、他の生徒の様にフルでは通えなかったが、それでも神様から貰った魔法スキルは凄かったらしく、めきめき頭角を現して行ったそうだ。
全体に6レベル程度だが、全魔法を満遍なく使える人は少ないらしい。
「いい所まで行ってたんだけどね、一年もすれば学費免除に返済なしの奨学金まで貰える特待生に成れそうだったんだけど・・・」
ユキはあくまで、あっけらかんと言う。
「お爺ちゃん、事故って死んじゃったんだわ」
なんでもある晩、外にお酒を飲みに行った帰り道に、酔っ払って歩いてたら馬車に轢かれてしまったそうだ。
そして、後ろ盾が無くなったため学院にも居られなくなったと言う話だ。
「んで、今に至ると」
狭い部屋を指して、ユキはそう言った。




