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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
4章
35/215

4-1


 戦場に、いや、戦場だった場所に風が吹いた。

 火照った体に、足元を流れる水と共に心地よい。

 しかし、その風にいくばくかの血の匂いが混じっている。

 一つの状況が終わり、安堵と共にただその場に立ち尽くしていたくなるが、生きている限りやるべきことは常に有る。

「治癒魔法が使える者は負傷者の救護だ、それ以外は敵の追撃に回れ!」

 エドガーさんが指示を出している。

 その声に、川の中で立ちすくんでいた私達三人も動き始める。

 リーナはもちろん、私もカレンも低レベルだが治癒魔法が使えるので、救護に回ろうかと話し合った。

「負傷者は助かる様なら、敵味方どちらも治療しろ」

 そう、エドガーさんは隊のみんなに言って回っている。

 おや、割りと人道的な事を言う、と思ったが、

「身分の高い者は身代金が取れる。そうでない者でも奴隷として売れば金になるぞ!」

 そうでもないみたいだ。

 彼は一通り部下たちに指示を出した後、私達のところに来た。

「ありがとう、君たちのおかげで勝てたと言っていいだろう。この礼は必ずする。君達は救護に回って後から本隊を追いかけて来てくれ」

 そう言って、追撃部隊を率いて敵兵を追って行った。


 見回すと、川の中と両岸には幾つもの敵味方の死体が横たわっていた。

 殲滅戦ではないので、死者は少ない方なのだろうけど、それでも百人以上はいるか。

 改めて、戦争なんだと思い知る。

 私達はまだ息のある人を近くから順に治療していく。

 重傷者はリーナに、軽症者は私とカレンの分担だ。

「痛てーよー、助けてくれー」

 何人目かの負傷者は私達の村の村長の息子ベックさんだった。

 脇腹に刀傷だか槍傷だかを受けている。

 服をめくってみたら、血は出ているが私でも治せそうな浅い傷だった。


 負傷者の治療が終わったら、敵の捕虜を近くの街へ連れて行く護送部隊と、敵を追撃している本隊を追って食料などの物資を運ぶ部隊に分かれる。

 私達は後者の部隊に組み込まれた。

 少し進んだところで、早めに野営していた本隊に追いついた。

 私達以外の偵察兼狩りに出ていた人達は戦闘開始には間に合わず、後になってから戻ってきていた。

 何組かは獲物を取って来ていた。

 狩ってきた鹿やら猪やらの肉も一緒にして夕飯になる。

 今日の勝利にみんな浮かれて宴会になった。

 お酒も振舞われていたが、私達は飲まなかった。

 麦から作ったビールみたいなものらしかったが、変な臭いがしてあんまり美味しそうじゃなかったからだ。


 次の日からも追撃戦は続いた。

 敵の残りの3分の1の部隊も合流したが、勢いが付いた自軍には敵ではなく簡単に粉砕した。

 五日後、ベルドナ王国軍はワーリン王国との国境線まで到達した。

 ここで、私達農民兵は解散となる。

 もうすぐ麦の収穫が始まる時期だからだ。

 正規兵の人達は、敵国に逆侵攻しようかと画策しているらしい。

 傭兵の人達も契約を一旦区切り、解散してもいいし、新規契約して付いて行ってもいい事になった。

 カレンはここで契約を終わらせることにした。

 私達は報酬の証文を受け取る。

 それぞれ住んでいる所の領主の所に持っていけば、現金と交換してくれる紙だ。

 いちいち金貨や銀貨を持ち運ぶと管理が面倒だからなのだろう。

 あと、ある程度、領主や王国に対する信頼が有るから、それでみんな納得するのかもしれない。

「そう言う訳で、私達正規軍はワーリン王国に対して賠償として領土の割譲を求めることになった。その為の実力行使にこれから向かう」

 私達三人の所に来たエドガーさんがそう言った。

 要は、やられたらやり返すって事だろう。

 一時的に占領された自国領を取り戻しただけでなく、逆に相手から分捕って来る。

 倍返しってやつか。

 表面的には綺麗事を並べるけど、色々利権とかあるのだろう。

「君達とはここでお別れになるが、約束通り軍からとは別に報酬を支払いたいのだが・・・」

 そう言って、手紙のようなものを二つ取り出した。

「あいにく手持ちがなくてね、王都の僕の屋敷にこの手紙を持って行ってくれ。一つは母上に宛てたもので、見せれば報酬を払ってくれるだろう。もう一つは婚約者のロリアーネに宛てたものだが、母上に渡せばそこから彼女に渡るだろうから、僕の屋敷にだけ行けばよい」

 私達は手紙を受け取った。

「わお、ラブレター?」

 リーナが興味津々で封がされた手紙を手に取り、表裏を見る。

「あ~、別に見られて困ることは書いてはいないが、出来れば中は見ないで欲しいな」

 エドガーさんがそう言う。

「分かってます。そんなことしませんから。てんこちゃん、預かっておいて」

 カレンが手紙を取り上げ、私のリュックの中に仕舞い込んでくれた。


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