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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
3章
34/215

3-ex


 ロナルド・ベルフォレスト卿は森の中を進みながら訝しんでいた。

 隊列を整え、敵襲に備えながら進んでいるが、一向に敵の攻撃が無い。

 敵は既に撤退していて、自分等は無駄な警戒をしているのではないかと言う気がしてくる。

 最初にガツンと食らわせて、こちらを警戒させて進撃のスピードを鈍らせる。

 有り得る手段だ。

 しかし、隊列を崩してスピード重視で進むとすると、そこを狙われて再び攻撃を受けるかもしれない。

 数的に負けることは無いが、不意を打たれるとそれなりの損害は出るだろう。

 自分が敵だとすれば、こちらをあざ笑ってとっとと撤退することも、そう見せかけて奇襲することも、どちらもやり得るだろう。

「まいったね、相手にイニシアチブを渡すもんじゃないな」

 自慢の髭を撫でながら、そう、ひとりごちる。

 どちらにしろ、最悪の場合を想定して、警戒しながら進むしかないのが歯痒い。


 結局敵襲は無かった。

 当初の予定より一時間ほど遅れたくらいに森を抜け、敵陣を見下ろす丘の上に出る。

 そこから見た光景は予想していたものとは違っていた。

「なんでもう始まってんだ!」

 自分達別動隊の存在はバレてしまっているので、迎え撃つ敵部隊が居るものと思っていたが、そんなものは無く、川を挟んで両軍が衝突してしまっている。

 しかも、味方が守勢に回っていて、敵の半数以上が向こう岸に押し寄せている。

 こちらの部隊の不在を突いて、一気にカタを付ける気か?

「思い切ったことをする」

 自分たちの分、本隊の戦力は減っているが、それでも200人程度だ。

 守る方が有利だから、普通押し切れるとは思わないだろう。

 それにしては大分押されているように見える。

 もしかして、先に味方から仕掛けて、逆襲されているのか?

 味方が先走ったのでなければ、偽報でも出されたか?

「っと、考え込んでても仕方ないか」

 今は、劣勢の味方を援護するために、敵の後背を突かなければいけない。

「敵陣の背後に仕掛ける!進め!」

 隊列を組んで、丘を降り始めようとした。

 しかし、先頭の兵が数人いきなり躓いた。

「なんだ?落とし穴か?」

 片足がくるぶし程度まで入るくらいの穴が地面に空いていた。

 土魔法を使ったのだろう、地面の表面だけを残し、その下の土を下に圧縮して作った簡単な罠だ。

 簡単な罠だが、武装した人間が足を取られて転べば危険極まりない。

 それが数十個、野生動物を捕まえる罠の様に絶妙な位置に仕掛けられていた。

「くそ!やってくれる!」

 ベルフォレスト卿が悪態を付いた。

 その時、川の方で大きな水音とそれに続く歓声が響いた。

 見ると、味方の陣地が水に流され、そこに敵騎兵が突っ込んでいくところだった。

「やられた。あれはダメそうだな」

 諦めた様に、一つ溜息をつく。

「我が隊はこれより撤退する。本隊への合流は難しいかもしれん。独自に敵国内を突っ切って本国に帰還せにゃならん、総員覚悟せよ」

 ベルフォレスト卿の指示で、彼らは元来た道を引き返し始めた。

「この借り、いずれ返せるかな?」

 怒りを露わにするわけでもなく、静かにそう呟いた。

 


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