3-14
味方の軍は川を渡り、敵陣の柵の前まで到達した。
急造で作った木の柵だが、有ると無いとでは大違いだ。
守るより攻める方が格段に難しい。
エドガーさんの顔に焦りが浮かんでいる。
時間が経つと敵の別動隊が来てしまうからだ。
私は少し遅れて川の中を進んでいる。
川の水は腰くらいまであって進むのが大変だ。
流れはそんなに急ではないが、それでも流されないように気を使う。
リーナとカレンも近くを進んでいる。
カン!
敵陣から飛んできた矢が私の被っている鍋に当たった。
危な!
ヘルメットが無かったらナンチャラってやつだ。
鍋だけど。
「てんこちゃん!大丈夫!?」
リーナが叫んで、水の防御魔法を張ってくれた。
私達三人の前に水の膜が出来る。
そう言えば、敵も味方も使っているのは火魔法や石礫を飛ばす土魔法ばかりだ。
やっぱり攻撃魔法と言えば、派手な火魔法を思い浮かべるからか、戦場にはそう言う人達ばかり集まるのだろうか?
水魔法を使う人は少ないように思える。
水魔法は通常、何もない所から魔素を水に変換して、それを操る。
でも、元から水が有れば、水を出す分の力を操る事だけに使えるのでは?
ふと、そんな事が頭に浮かんだ。
リーナは治癒魔法、カレンは風魔法をメインにしている。
でも二人とも水魔法をサブで取っていたはずだ。
「リーナ、カレン!ちょっといい!?」
水魔法に守られている中で二人を呼び寄せる。
「こういうのって、出来る?」
自分の考えを話してみる。
「え?やった事ないから分かんない」
「神様から貰ったスキルをそのまま使ってるだけだからなあ・・・」
二人は戸惑ったように言う。
「ええと、こんな感じ」
私が実践して見せる。
自分でも初めてやってみる事だけど、やったら出来た。
「ん、うーん、出来るかな?」
「こ、こう?」
二人もやってみる。
見よう見まねだけど、何とかなりそうか?
「エドガーさん!追加の魔石を頂戴!」
前の方で前線の指揮を執っていた隊長に声を掛ける。
振り返った彼は、私の声に何かを悟ったのか、疑問を返さずにすぐさま持っていた予備の魔石を三つ投げて寄越した。
空中で受け取った私は三人で一つずつ分ける。
「私が牽制するから、二人は後に続いて!」
私は魔石を額にかざして、魔法を放つ。
「水球魔法連射!!」
小さな水の球を連射する。
当たっても怪我もしないが、顔面に水をぶっかけられたら誰だって一瞬は怯む。
柵の上から矢や魔法を放っていた敵兵が少しの間だけ攻撃の手を止めた。
その隙に私より高レベルな水魔法を使えるリーナとカレンが魔法を練り上げる。
「ええと、なんかすごい水魔法!」「水龍魔法!」
二人が川の水を使い魔法を放つ。
とっさに中二っぽい名前を叫んだのはカレンの方だった。
ともかく、川の水が大きく持ち上がり味方の頭上を越えて、敵兵が籠る柵に押し寄せた。
おびただしい水量に敵兵が柵ごと押し流される。
いきなりの事に敵味方と共にエドガーさんも一瞬呆然とするが、
「敵陣に穴が開いた!吶喊せよ!」
味方に向かって叫ぶ。
その時、後方から馬に乗った一団が川を渡ってやって来た。
さっきの魔法で一時的に川の水が減っているので、渡河しやすくなっている。
「よくやった、エドガー!後は我々に任せよ!」
「ファーレン卿!」
騎馬の先頭の騎士っぽい人と隊長さんが声を掛け合う。
騎兵隊が敵の防衛線に空いた穴に突っ込んでいく。
一か所でも破れると、後は脆かった。
敵はあっという間に総崩れになって壊走し始めた。
勝った、のかな?




