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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
3章
30/215

3-11


 敵兵が藪を掻き分けてこっちにやって来る。

 木々に視界が遮られているので、はっきりとした数は分からないが、30人くらいか。

 流石に全部隊で来たりはしないようだ。

 こちらを数人規模の偵察隊だと思っているからだろう。

 リーナがカレンに治癒魔法を掛けている。

 それなりの深手らしく時間がかかる。

 敵兵が接近するまでには終わらないだろう。

 エドガーさんは剣を構え、同時に魔法の準備をしているようだ。

 私は三人の居る位置から少し離れる。

 迫って来る敵は視界が悪いながらも三人を見つけているだろう。

 三人に意識が集中して、私の存在に気付かないことを願う。

 別に自分だけ隠れてやり過ごそうと言う訳ではない。

 ただ、『私が一人しか居ない』という事に気付かれては困るのだ。


 敵兵の先頭がはっきり見える位置まで来た。

 今がタイミングだろう。

 魔法を発動する。

 私が使える攻撃魔法は最大でレベル2までである。

 しかし今使うのは、

「レベル1火球魔法ファイヤーボール

 当たり所が良くても軽い火傷を負わせる程度の魔法だ。

 でも、それを、

連射マシンガン!!」

 可能な限り短い間隔で連射する。

 この世界では普通の人なら、魔法を放った後に次の魔法を放つまでにある程度の時間が必要らしい。

 私みたいに連射できる人は少ない。

 そして、不意を突いて見えない位置からなるべく広範囲にばら撒かれると、やられた方はどう思うか?

「敵襲!」「伏兵だ、嵌められたぞ!」「敵の規模は!?」「分かりません!とにかく沢山です!」

 あっという間にパニックになる。

 多勢に無勢とは言うが、単純に数が多い方が強い。

 では、こちらの数が少ない場合は、どうするか?

 はったりで多く見せかければいいのだ。

 藪の中から放たれて来る攻撃がまさか一人からだとは思わないだろう。

 とにかく連射重視で狙いもつけずにばら撒く。

 一発ずつの威力は低いが、連射しているせいで魔素の消費が激しい。

 なので、貰っていた魔石から魔素を取り出して使う。

 ほとんど敵には当たらないで、生い茂る木の幹や枝に当たるが、それが派手に弾けるので、敵に恐怖心を与える。

「慌てるな!威力は低い!」

 そう見破る人も居たが、

「エドガーさん!みんなも攻撃して!」

 私がそう叫ぶと、みんなも攻撃魔法を放ちだす。

 へなちょこな私の魔法に比べて、みんなの魔法は強力だ。

 私の意図を察したリーナが治療を一旦止め、水魔法を放つ。

 水と言っても消防車の放水くらいの威力が有るので、当たると後ろに吹き飛ばされて、木の幹に頭を打ち付けられる。

 怪我をした足をかばって立ち上がったカレンが弓を構え風魔法を纏わせた矢を放つ。

 一人の敵兵の肩に当たり、金属の鎧ごと貫いた。

 エドガーさんの放った火魔法は、ほとんどレーザービームだった。

 森の中を眩い火線が走る。

 しかし、それは水魔法を纏わせた敵兵の盾に当たり相殺されてしまった。

 その敵兵が叫ぶ。

「強力な術者もいるのか、仕方ない!一旦撤退する!」

 その号令で、敵兵はみんな下がって行く。

 怪我人も他の人が担いで行った。

 ふう。

 溜息をついて、魔法の連射を止めた。

 向こうの方から追加の敵兵もやってこない。

 逃げるのもダメ、戦うのもダメなら、ハッタリかまして敵さんに逃げてもらおう作戦。

 とっさに思い付いたにしては上手くいったみたいだ。

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