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リーナの爆弾発言によって、その場は有耶無耶に成った。
まあ、魔法に関しても私と同じことが出来る人が他にまったく居ない訳ではない様だし、戦略の話だって庶民にしてはちょっとだけ目端が効くなと思われたくらいだろう。
焦ることも無かったか。
「エドは仲間とはぐれて落ち込んでた時に慰めてくれたくらいだよ。それも隊長としてだからね。第一、エドには婚約者が居るんだから」
カレンがそう言う。
「え、婚約者が居るんですか?どんな人?」
早速、リーナが食いつく。
好きだな、こういうの。
エドガーさんもエドガーさんで満更でもない感じで話し出す。
「ファーレン伯爵家の令嬢でロリアーネと言うんだ。僕より少し年上なんだが美しい人でね・・・」
なんだノロケか?
リーナは興味津々だが、私は一気に興味がなくなった。
「僕は子爵家の次男でね、その点でも少し釣り合わないんだが、彼女の父上は歓迎してくれているんだ。その父上の期待にも答えるためにこの戦争では少しでも功績を挙げようと思っている。そして、この戦争が終わったら僕は彼女と結婚するんだ」
おいおい、それナントカフラグってやつじゃないか?
「あー、知ってます。それ死亡フラグってやつですよね?」
私は思ってても言わなかったのに、リーナが脳直で口に出した。
「なんだいそれは?」
もちろん知るはずのないエドガーさんは疑問符を浮かべる。
「な、何でもないです」
リーナの口を手で塞いで、カレンがそう言う。
そんなやり取りをしながら山道を進んでいるが、一向に獲物と出会わない。
騒がしく喋りながら歩いているからと思うかもしれないが、ああいった会話は時々するくらいで、大部分の時間は静かに歩いているのだが。
まあ、普段の狩りでも数時間歩き回っても獲物に会わないのは良くあることだ。
なので、労力の少なくて済む罠猟を主にしていたのだ。
山小屋の近場には罠を仕掛け、そこに掛かっていない時は遠くに行ってみるみたいなことをしていた。
「なんか、獲物が見つかりませんね・・・」
私から少し離れて付いてきているエドガーさんに言う。
「見つからなかったらその時は仕方ない。他の組が獲物を仕留めていることを願おう」
エドガーさんがそう答える。
「それに、これは周辺の偵察も兼ねているからね」
偵察?
「ああ、敵部隊の集結に猶予が有ると言っても戦時だからね、常に偵察隊は出しているよ。今回はそれに狩猟が出来る人も出して、食料調達をしようって事さ」
なるほど、だから隊長さんも一緒に来ているのか。
でも、そうしたら、敵に会うなんて事も有り得るのか?
それこそフラグじゃないが、嫌な予感がする。
そして、嫌な予感は的中した。
「敵兵約200。内半数が魔法兵と言った所か。魔法兵の練度にもよるが奇襲されたら、かなりの脅威になるな」
私の隣でエドガーさんが呟く。
私達は森の中の道を進む敵兵の一団から少し離れた藪の中に身を隠している。
森の中を三時間くらい進んだ頃だろうか、前方から獣のものとは違う気配が沢山やって来たので、慌てて隠れたのだ。
どうやら迂回して川を渡って来た敵の別動隊の様だ。
戦闘は三日後と言う話ではなかったのか?
こちらの油断を見て、全軍が集結する前に奇襲を仕掛けるつもりなのだろうか。
「すぐに戻って、本隊に知らせるぞ」
そう言って、エドガーさんが後退る。
私達も音を立てないようにそっと続く。
しかし、
パキリ!
カレンが枯れ枝を踏んでしまい、その音が静かな森の中に響く。
「あそこに誰か居るぞ!」
敵兵の誰かが叫んだ。
「ヤバイ!走れ!」
エドガーさんが叫ぶ。
私たちは一目散に走りだした。




