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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
3章
26/215

3-7


 鍋が空になったら軽く洗って、もう一度お湯を沸かし、途中の街で買ってきた紅茶の葉を布に包んでを入れる。

「食後のお茶まであるなんて、サイコー!」

 カレンがそう喜ぶ。

 持ち運べる荷物には限度があるから、みんな食器類は最低限しか持っていない。

 なので、紅茶はさっきまで食事をしていたお椀を洗ってから入れた。

 麦粥の味が少し混じるけど、野外で地面に座って飲食しているので、ちょっとワイルドな味と思えば悪くはない。

 ついでにとっておきのハチミツの瓶も出す。

「貰ってばかりで悪いから、あたしも少し出すね」

 そう言って、カレンは自分の荷物から幾らかナッツ類を出してきた。

 三人でナッツをつまみながらティータイムをする。

 お茶を飲みながら、お互いのこれまでの事を話した。

 私とリーナの事を簡単に話した後、カレンの話になる。

 カレンも最初に他二人の転生者と合流した。

 他二人は黒井誠くんと白鳥凛さんだったそうだ。

 もちろん、私はこの二人の事はあまり知らない。

 ともかく、最初の内は三人で冒険者をしようとしたが、やっぱり上手くいかず、傭兵を募集していたベルドナ王国に雇われる事にしたそうだ。

 そうして参加した今回の戦争、その緒戦でベルドナ王国軍はいきなり負けてしまう。

 初めは両軍正面からぶつかって、こちらが有利になり、相手を押し込んだんだけど、突然横から敵の伏兵が現れて、あっという間に味方が壊走したそうだ。

 戦国時代とかの話が好きだった父から聞いたことが有る。釣り野伏とかいうやつだ。

 いや、島津の釣り野伏に比べると、それほど洗練はされていない感じか?

 伏兵は片側からだけだったらしく、味方は包囲殲滅されずに逃げ出して、この場所に再集結できている。

 それでも、それなりの被害はあった様だ。

「いきなり横から敵が来て、訳分かんなくなちゃって、黒井君も白鳥さんも途中ではぐれちゃって、ここには居ないからどこかに逃げたのか、それとも・・・」

 カレンが声を詰まらせる。

 リーナがそっと肩を抱いてあげた。

 その夜はカレンが使っていたテントに三人で泊まらせてもらった。

 昨日までは他の女の傭兵の人と一緒だったらしいけど、その人は空気を読んで他の余っているテントに行ってくれた。


 次の日。

 朝に成ったらカレンも普通になっていた。

 この厳しい世界に数か月も居れば、みんなタフにもなるってもんだ。

 朝食をとっていると、エドガーさんだったっけ、例の隊長さんがやって来た。

「やあ、おはよう、ちょっといいかな?」

 そう声を掛けてくる。

「どうしたの、エド?」

 カレンがニックネームで彼に聞き返す。

 そう言えば、昨日の様子だと、カレンとはちょっと親しい感じだったけど、その辺どうなんだろ?

「実は昨日ちょっとしたトラブルが有ってね・・・」

 トラブル?

「そちらの新しく入った二人と一緒に来た村の人達なんだが、夕食時に持ち込んできた肉を食べてね、他の前から居る農民兵といざこざになったんだ」

 村の人達には、ここに着いて分かれるときに、少しばかりお肉を分けてあげていた。

 確かに、私達が麦粥にお肉を足して食べているときも周りからの羨ましそうな視線を感じていたな。

「ああ、すいません、私がお肉を分けてあげました。やっぱり、いけなかったですか?」

 少し釈然としないが、とりあえず私が謝る。

「いや、そう言う訳ではないんだ。むしろ食料の持ち込みは歓迎するんだが、ここのところ麦以外の兵糧が入って来なくて、みんな同じ食事に飽き飽きしていたんだ」

 それで、自分たちだけお肉を食べてる村の人達にいちゃもんを付けてきたと。

 そんなこと言われても、私とリーナが持ってきたお肉だけで、一万人は居るだろうここの人達には行き渡らない。

「もちろん、食事の質が悪いのは我が王国軍の責任だ。そのことで君たちに文句を言うつもりはない」

 なるほど、でもそれじゃこの人は何を言いに来たのだろう?

「それで、ここからが相談なのだが、君たちは腕のいいハンターだそうだね」

「ええと、ハンターなのは主にてんこちゃんで・・・」

 リーナが首を振る。

「そうか、君か。君にお願いなのだが、これから近くの森で何でもいいから動物を狩って来てはくれないか?」

 私の方に向いて、隊長さんがそう言う。

「昨日のいざこざは直ぐに治めたが、このまま食事が改善しないと軍の士気にかかわるんだ。頼む!」

 軍隊の事はよく分からないけど、隊長さんて結構偉いはずなのに、下っ端の私に頭を下げてきた。

 ああ、これは断り辛い感じかも。

「えーと、鹿とか大物を捕ったら私だけじゃ運べないんで、誰か男の人を付けてください」

 私はそう言った。


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