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目的地まで徒歩で五日かかった。
途中の街や村に泊ったり、時には野宿したりして進んで来たが、別段困難な道行ではなかった。
それでも戦場に近づいていると思うと、皆進むほどに気が重くなっていた。
到着したのは一本の川の川岸だった。
川幅はそこそこ広いが、流れはそれほど速くなく、徒歩でもなんとか渡れそうな感じだ。
川の中に橋の残骸らしきものがある。
そして、川の両岸に沢山の人間が居た。
その数、片岸に一万人ずつくらい。こちらの岸の方が若干多い感じだ。
皆、多かれ少なかれ武装している。
「うわ、兵隊さんがいっぱい居る。ほんとに戦争なんだ」
リーナがそう言った。
戦争の経緯はこうだ。
隣国ワーリン王国が私たちのいるベルドナ王国に攻め込んで来た。
国境付近でベルドナ軍が迎え撃ったが負けてしまう。
敗残兵を立て直し、国境から幾らか内側のこの川で、新しく集めた民間兵と一緒に防衛している。
今は戦闘自体は起こっていなくて、睨み合いの状態だ。
と言うのが、大まかな流れらしい。
ワーリン軍が攻め込んできた理由だが、昔、ベルドナ国の領土はワーリン国の物だったそうで、それを取り戻すと言うのが大義名分だそうだ。
とは言え、ベルドナがワーリンから独立したのは何百年も前のことらしく、この大義名分はあくまで表向きの建前らしい。
実は去年、ワーリン王国で冷害があって作物が不作だったらしく、更に今年の麦の出来も良くないそうなので、麦の刈り入れ前のこの時期に攻め込んで、奪っていこうとしていると言うのが真相らしい。
向こうで不作なら隣のこの国も不作なんじゃないかと思うかもしれないが、こちらの国では十年位前から冷害に強い品種が開発されて十分な収穫量があると言う話だ。
確かに、春に長雨が有ったが、夏が終わって村を出るときに見た麦の穂はちゃんと実っているようだった。
私達を引率してきた兵隊さんが、偉い人のところに到着の報告に行って戻ってきた。
これからそれぞれの部隊に配属される様だ。
「おーい、魔法が使える人はこっちに来てくれ!」
そういう声が聞こえてきたので、私とリーナは呼ばれた方に行く。
「私が第三魔法隊隊長のエドガー・ベリーフィールドだ」
私達の前でそう挨拶したのは二十歳くらいの若い男性だった。
割りとイケメンかもしれない。
全身を覆うタイプではないが、要所を覆う金属の鎧を付けている。腰には剣も挿している。
「それでは、一応ですが魔法の検査をします」
私とリーナを含め集まった五人にそう言う。
「あの的に何でもいいので攻撃魔法を撃ってください」
指さした先に即席で作られたような案山子が数本立っていた。
言われるまま、みんなそれぞれ魔法を放つ。
火炎だったり石礫だったり、各村から集められた人達の中にもそれなりに魔法が使える人は居た様だ。
「水槍」
リーナも水魔法を案山子に当てている。
さて、私もやらないと。
こちらに来てから数か月、毎日のように使っていたので生活魔法のレベルが3から6まで上がっていた。
おかげで攻撃魔法もレベル2まで使えるようになっている。
まあ、リーナの水魔法レベル5に比べるとショボいけど。
「火矢」
放った火魔法が案山子に当たった。
それはいいのだが、前の人も同じ案山子に火魔法を当てていたので、案山子が燃え出す。
「おっと、水矢」
すぐさま水魔法を放って火を消す。
それを見て、隊長さんがふと首を傾げた。
「えーと、君、今の魔法だけど・・・」
そう声を掛けてくる。
あれ?私なんかやっちゃいました?
いや、本当に威力も低い普通の魔法で、特に変な事をしたつもりは無いんだけど。
その時、向こうから大きな声が聞こえてきた。
「リーナ!もしかしてリーナちゃん!?」
女の人が一人こちらにやって来る。
それを見たリーナも声をあげる。
「カ、カレンちゃん!?」




