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次の日、村長の家の前に十数人の村人が集まった。
徴兵は各家から一人ずつと言う訳ではないようで、以前出た人や一家に働き手の男性が一人しか居ない場合は免除されるらしい。
それでも、戦場では食事が出るし、終わった後には報酬も貰えるそうなので、本来免除される人も何人かいるそうだ。
ジョージさんやリックさんは居なかった。
「おや、二人揃って、どちらかは見送りかね?」
村長さんが私たちのところにやって来て、そう聞いた。
「いえ、二人で一緒に行きます」
私はそう答える。
「無理せんでもいいんだぞ、一つの家から一人と言う決まりだ」
「無理してとかじゃなくって、どっちが残っても心配なので二人で行くことにしました」
「そうかい、それじゃ一人余るな」
この村に割り当てられたノルマは16人だそうだが、今この場にいる徴兵予定者は17人だ。
「じゃあ、俺抜けるわ」
一人の若者がそう言った。
確か、村長さんの息子のベックさんだったっけ。
しかし、村長さんはそれを許さなかった。
「ダメじゃ、お前はまだ兵役に就いたことが無いだろう。わしの身内だからと言って贔屓はせん」
そう言って、この中では村長さんを除くと一番年嵩の男性に声を掛ける。
「ダニー、わざわざ来てもらって済まないが、お前さんは今回は行かなくてよいぞ」
「しかし村長、ワシも兵役には15年前に行ったきりだが・・・」
「いいんだ、人数が足りなくて無理言って来てもらったが、お前も十分歳だろう」
ベックさんは少々不満気味だが、それ以外の人たちは何となく納得している雰囲気だ。
私たちを呼びに来た時はなんか有無を言わせない感じだったけど、こうして見ると、こういう人の調整とか、村長さんも大変そうだ。
「済まない、本当に助かる」
ダニーさんが私たちのところに来て、そう言った。
「いえ、二人で行くのは私達の都合ですから」
私はそう答えた。
そんな訳で村長さんとダニーさんに見送られて、私たちは村を後にした。
この後トーラの街まで行き、そこで他の村から徴兵されてきた人達と王国の兵隊さんと合流して、戦場まで行くらしい。
今回私の格好は久しぶりに完全フル装備だ。
肩に弓矢、腰に短剣、短剣を付けて槍にする用の木の杖、背中には食料を入れたリュックと鍋を背負っている。
鍋は頭に被ってヘルメットにもなる様にした。
そのまま被るとごつごつして痛いが、ハチミツを取るときに作った革の帽子を間に被ると痛くない。
持ち手に紐を付けて顎で結ぶと、不格好だが頭を守れる。
リーナは、いつものローブに魔法の杖、ジョージさんに貰った山刀を革のベルトと鞘を付けて渡してある。
これも杖に取り付けて槍に出来るように杖共々加工しておいた。
もちろん食料の入ったリュックを背負ってもらっている。
鍋は無いが、一応リーナ用にも革の帽子は渡してある。
あとは、二人とも革で作った肘あて膝あての防具を付けている。
革製品は昨日今日で作ったわけではなく、森の中で野生動物の反撃に会ったとき用に予め作っておいたものだ。
まだ夏の終わりくらいで、全部付けていると少し暑いが、これ位は我慢すべきだろう。
他の村の人達もそこそこ武装している。
こういった徴兵は何年かに一度はある様だ。
道中の食料だが、街から馬車で前線まで運ぶ兵糧もあるそうなので、それを分けてもらえるそうだ。
何よりも食事が大事と思って、山小屋から持てるだけお肉を持ってきたけど、まあ、村の人達にも分けてあげながら少しずつ消費すればいいか。
夕方、トーラの街に着き、近隣の村の人と合わせて80人くらいになった私たちは、ここで一泊して明日の朝に出発することになった。
お金のある人は宿屋に泊り、そうでない人は街の公民館みたいなところで雑魚寝だそうだ。
お金は少々あるし、男の人達と雑魚寝は嫌だったので、以前泊った宿屋にリーナと一緒に二人部屋を取ることにした。
一階の食堂で夕食を取っていると、噂話が聞こえてきた。
「おい、聞いたか?ワーリン王国との戦い、うちの国、緒戦で負けたらしいぞ」
聞くところによると、私達のいるベルドナ王国と隣国ワーリン王国の国境で起こった戦争は最初からこちらの敗北から始まったらしい。




