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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
3章
22/215

3-3


 夏の終わりごろになった。

 一時期暑かった日中の暑さが和らいできている。

 庭の畑の野菜はカボチャ以外、収穫出来るようになった。

 ナス、キュウリ、トマトは毎日採れて、食卓に登る。

 トウガラシは一部料理に使うが、残りは乾燥させて取っておく。

 リンゴの木は大分実が大きくなってきた。

 二本の木は別の品種らしく、実の形が少し違う。

 まだどちらも熟していなくて収穫できないが。

 森の中ではキノコも生え始めている。

 毒キノコかどうかは村に持って行って、知っている人に聞いて確かめた。

 そこまでは平和な毎日だった。


 リーナと二人で野菜を収穫していたら、村の方から誰かが登ってきた。

「あれ、村長さん、どうしました?」

 村で何度か会ったことはあるが、今までこんなところまでは来たことのない村長さんだった。

「やあ、二人にちょっと話があってね」 

 村長さんは何か言いにくそうな口調で話し出した。

「実は近々戦争があるらしくてね、うちの村にも徴兵の使者が来て、何人か兵隊として出さんといけなくなった」

 戦争?

 リックさんが右手を無くした話が思い出される。

「それで、魔法が使えるなら女の人でもいいそうなんで、二人の内一人、どちらか出てくれんかね?」

 私とリーナが顔を見合わせる。

「出発は明日の昼じゃ、それまでにどちらか村のワシの家まで来てほしい」

 そう言って、村長はそそくさと帰っていった。


 戦争。

 平和な日本で育った私達にとっては、遠くの国か、昔の話だった。

 それでも、テレビやネットで得た知識から何となく悲惨なものだというのが分かる。

 どちらか一人が行ったら二度と帰って来れなくなるかもと言う不安が沸き上がる。

 しかし、どちらも行かないという選択肢は無いだろう。

 私たちがあの村の村民の範疇にあるのかと言うと微妙なところだが、生活の一部を村に依存していることには違いない。

 義務を果たさなければ、今後は村との取引は出来なくなるだろう。

「わ、私が行くよ」

 最初にそう言ったのはリーナだった。

「ほら、私ヒーラーだから、前に出されること無いだろうし、いざと成ったら水魔法も棒術もあるし」

 確かに治癒師なら救護班みたいな部署に回されるだろう。

 あと、身を守るために近接戦闘用に魔法の杖を使っての棒術スキルを取ったと自分で言っていた。

 実際、スキルの数値で言えば彼女の方が私より戦闘力は有るだろう。

 だが、果たして本当にそうか?

 彼女がここに来て少ししてから、棒術スキルが有るなら槍もある程度使えるだろうと、試しに罠にかかった獲物の止めを頼んだことが有った。

 無茶振りだとは思ったが、ここにいる以上、そういうことも出来ないといけないと思ったのだ。

 リーナは最終的には出来たが、大分逡巡していたのを思い出す。

 そういう覚悟というかメンタルの面では私の方が強いと思う。

「それに、私の方が居候なんだから、てんこちゃんには迷惑かけれないよ・・・」

 私が黙っていると、リーナはそう続けた。

 ああ。

 考え込んで言葉が出なくなってしまうのは私の悪い所だな。

 でも、勢いで色々口に出してしまうのもリーナの良い所であり、悪い所だ。

 私は、ゆっくり口を開いた。

「分かった。二人で一緒に行きましょう」

 リーナを一人で行かせるのも心配だし、かと言って私が行った場合、彼女は罪悪感に苛まされながらここで待つことになるだろう。

 村長はどちらかと言ったが、二人とも行ってはダメとは言ってなかった。

 それに、一人より二人の方がお互いを助け合えるかもしれない。

 

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