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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
3章
21/215

3-2


 夏になり、畑の野菜が少しずつ実ってきた。

 基本的に畑の世話と野草採取はリーナ、狩りと解体加工は私と言う役割分担にすることにした。

 あくまで基本的にというだけで、手が空いているときはお互いに手伝ったりしている。

 あと、リックさんの腕を治したという噂が広まったので、リーナに治療の依頼をする人たちが一時期押し寄せてきた。

 街で闇医者みたいなことをしていた時はリックさんの腕のような重症の治療は無かったので、それほど噂にはならなかったらしい。

 あまり大挙されても困るし、こちらも生活があるので、ちゃんと治療費を取り、重症の場合は魔石も持ち込みという事にしたら、すぐに患者は減った。

 軽症の人はこんな山奥まで来ないで近くの治癒師に頼むし、重症でもお金のある人ならこの辺の街には居ないが王都とかに居るらしい高レベルの治癒師を訪ねるだろう。

 なので、村の人の軽い怪我や病気、王都に行くよりもこちらの方が近い比較的重症な人達がたまに来るだけになった。

 それだけで生活できるほどではないが、そこは森での自給自足の足しになるくらいで丁度いいだろう。


「ねえ、カレーとか食べたくない?」

 ある日の食事中、リーナがいきなりそう言いだした。

「カレー?」

「そう、カレー。ええとね、別にてんこちゃんの料理が不味いって事じゃなくて、久しぶりに元の世界の料理が食べたくなったって言うか、ねえ」 

 なるほど確かに、こっちの世界の料理って素材の味を活かしているって言えば聞こえはいいけど、単調な味付けばかりだ。

 たまにはスパイスが効いたカレーなんかが食べたくなる。

「でも、どうやって?」

「そこはほら、こっちでも手に入るスパイスをうまいこと組み合わせて作れないかな?うまくいったら、特許を取ってお金持ちになったりできるかも」

 いや、この世界に特許みたいなのは無かったと思うし、元の世界でも料理のレシピは特許にはならなかったはずだが。

 まあ、お金儲けはともかく、たまには元の世界の料理が食べてみたい。

「それじゃ、試してみようか」


 とりあえず、今現在手に入るスパイスとハーブを集めてみた。

 それぞれ料理に使った事はあるから、味は分かっている。

 でも、一つ一つの味を思い浮かべても、そこからカレーになる想像が出来ない。

「カレーに入っている香辛料ってなんだったっけ?」

 元の世界でカレーを作ったことはあるが、レトルトか市販のカレールーからだったので分からない。

 パッケージの原材料のところに記載されていたはずだが、とにかくスパイスが沢山使われていたことしか思い出せない。

「えーと、確か、シナモン、カルダモン、ターメリックあたりだったっけ?」

 リーナがそう答える。

 確かにその名前は聞いたことがあるが、しかし、

「シナモン、カルダモン、ターメリックってどういう形と色してたか分かる?」

「うっ」

 そうなんだ、ルーか、すでにミックスされたカレー粉でしか見たことがないから、個別のスパイスが分からない。

 脳内神様にも聞いてみたが、元の世界の細かいことまではインプットされていない様だ。

「とにかく全部混ぜてみたら?」

 リーナがそう提案する。

 他にやりようが無いのでそうしてみる。

 鍋のお湯に全種類のスパイスを少しずつ混ぜて、小麦粉でとろみを付ける。

 食べ物を無駄にしたくないので、ほんの少量だけ作った。

「それじゃあ、味見を・・・」

 二人でスプーン一杯ずつ掬って口に運ぶ。

 同時にむせた。

「まっず!ナニコレ?」

「辛みと苦みとエグみが同時に来る!」

 完全に失敗だった。

「苦みのあるハーブは入れない方が良かったんじゃない?」

 リーナがそう言う。

「あと、旨味とか全然ないからダメな気がする」

 私はそう言った。


 気を取り直して、試作二回目。

 今回は苦みの強いものは除くことにした。

 それと旨味を追加するために鹿のスジ肉のスープをベースにして、そこに少しずつスパイスを加えていって試す。

 二人別々にお椀にスープをよそい、味見しながら思い思いにスパイスを加えていく。

「うーん、さっきよりましだけど、これはカレーじゃないな」

「なんだろ?カレーとは違うエスニック?」

「こっちは中華っぽい感じがする」

「バター入れると少しマイルドになって、う~ん、無国籍料理?」 

 色々試作してみたが、結局カレーには到達できなかった。

 それでもカレーではないが、何種類か美味しいと思える組み合わせを見つけた。

 お米は無いから、小麦粉をナンのように焼いてそれに付けて食べる。

 試作しているうちに、二人ともお腹いっぱいになった。

「まあ、無駄にはならなかったからいいのかな」

 後片付けをしながらリーナがそう言った。

「でも、香辛料って高いから毎日は作れないよ」

 私がそう言う。

 この世界と言うか、ここら辺の国では、金と同じ価値と言う程ではないが、スパイスはそれなりの値段はする。

 何種類かは栽培されていたり、流通量はそれなりにあるので、庶民には買えないと言う程ではないが。

「いいじゃない、たまに食べるくらいで。私、いつものてんこちゃんの料理も好きよ」

 そんな恥ずかしいセリフを言ってくる。

 なんだかんだ言いながら、一日つぶして料理の研究が出来るくらいに生活に余裕が有るって言うのはいい事なのかもしれない。

 

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