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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
22章
200/215

22-3


 数日後、早朝。

 秋も深まって来ていて、結構肌寒い。

 お屋敷の前の庭で、私は日課をこなしていた。

 私はスキルで徒手格闘を低レベルながら取得している。

 自分で選択したモノではなく、『神様?』が親切で付けてくれたモノだが、これには何度か助けられている。

 スキルには空手の型と言うか、中国拳法の套路の様な物が付属していて、時間が有るときは出来るだけ練習している。

 スキルとしては低レベルな物だったから、そんなに難しい動作はない。

 パンチとキックと、ちょっと投げや関節技に持って行けそうな動きが混じっている。

 この世界にも素手での格闘技はある様だけど、私のやっている型を誰かに見せても、同じ様な物を見たと言う人には会っていない。

 もしかしたら『神様?』のオリジナルの型なのかも知れない。

「毎日やってるのに、痩せないねえ」

 演武をする私の身体を見て、ユキがそう言う。

「朝の体操みたいなもんだからね。疲れる程やったら一日の仕事に差し障るでしょ」

 私はそう言いながら、型を続ける。

 さっき迄はユキも同じ様に身体を動かしていた。

 私が教えて、暇な時は一緒に練習しているのだ。

 ユキは二セットで飽きて止めてしまったが、私は三セット目をやっている。

 リーナとカレンは少し離れた所で棒術の練習をしている。

 棒術は元々リーナのスキルで、カレンがそれを教えて貰っている形だ。

 これも体操くらいの運動強度だが、もっと向こうでは護衛のギリアムさん達が剣の素振りを汗をかくほどの強さでやっていた。

「あれくらいやらないと痩せないかな?」

 ユキがそう言う。

「あの人達は、あれが仕事みたいなもんだし、私達とは違うでしょ」

 私はそう言い返した。

 余っている時間は畑の仕事を手伝って貰ったりしているが、彼等の本当の仕事は有事の際の戦力で、その為にも常に体を鍛えていなければならない。

「ナーオ」

 子猫が一匹私を見上げて不思議そうな顔をしていた。

 この子はタクアン三世。

 黄色に見えるくらい薄い色の茶虎の猫ちゃんだ。

「朝ごはん出来ましたよー」

 メイドのオリビアさんが朝食の完成を知らせに来た。

「猫さん達もどうぞ」

 オリビアさんが、村長邸の玄関の脇に猫用の餌を置く。

 何処からともなくタクアン三世以外の三匹の子猫と、親猫のタクアン二世がやって来て、餌を食べ始める。

 前のメイド長のヴィクトリアさんの餌付けによって、みんな完全に飼い猫になってしまっている。

 それでも、畑のネズミを捕って貰わないといけないので、餌は少し少な目にしている。

「ギリアム達はもう少し練習してて、もう少しで出来ると思うから」

 そう言って、オリビアさんは護衛の人達が住んでいる離れの寮に入って行く。

 寮の方は別のメイドさん達がお世話をしているけど、人数は母屋の方が多い。

 やっぱり雇い主である私達の方を優先してくれている形だ。

 その内、ギリアムさんとオリビアさんは結婚すると思うけど、そこら辺のシフトも考え直した方が良いかも知れない。


「それで、今日のスケジュールは何だったっけ?」

 朝食を食べながら、リーナが聞いて来る。

 一応、数日分のスケジュールは全員で共有している。

 彼女が聞いてくるのは、忘れたからではなく、改めての確認の為だ。

「アインさん家の豚の解体の手伝いだったっけ?」

 私がそう答える。

「その前に、山賊に備えての避難訓練でしょ」

 カレンがそう言う。

「ああ、そうだった」

 私はそう言う。

 食事をすると消化器官に血流が集中するから、頭の働きが少し鈍くなる。

「・・・パンは二個までにしておきなさい」

 ユキが呆れた様な顔で、お母さんみたいなことを言い出した。

 リンとクロイはレンちゃんの夜泣きのせいでよく眠れなかったみたいで、まだ部屋で寝ている。

「避難訓練か・・・やるのには賛成したけど、今になると必要かどうか分かんなくなってきたな」

 カレンがそう言う。

「まあね、ここ数日待ってるけど、山賊がこの村を狙ってる予兆って言うか、そうゆうの全然無いもんね」

 ユキがそう言う。

「その点は、てんこちゃんの予想が当たった感じだね」

 リーナがそう言う。

 実は私はこの事態をある程度予測していた。

 私達は望むと望まざるとにかかわらず、有名に成ってしまっている。

 そのせいで、私達が山賊に狙われるとエドガーさんは予想したが、逆に考えると、そんなにも強いと噂される相手に敢えて山賊如き挑んで来るかという事だ。

 ただの盗賊団ならそんな危険は冒さない。

 ワーリン王国がバックに付いていて、その命令で動いているとしたら有り得る話かもしれないが、そうだとしても無策に突っ込んでくれば返り討ちに遭う可能性は高い。

 私達の勇名はあくまで噂であり、実際の実力よりかなり誇張されているが、護衛のギリアムさん達の実力は本物だ。

 山賊如き使い潰しても構わないと思っているかもしれないが、だからと言って有効な打撃を与える可能性が小さいのに、ただで捨てるのは勿体無いと考えるのは普通の事だと思う。

 私がその山賊のバックだったらと考えると、どうだろう?

 使い捨てても良いコマだとしても、出来るなら小さい戦果よりも大きい戦果を狙う。

 強そうな目標に当てるよりも、そう見せかけて、別の弱い所をチクチク突く方が、全体の戦果は大きくなる。

 向こうも山賊を使って大局をひっくり返そうとは思っていないだろうし、あくまで嫌がらせ目的ならそうするだろう。

「でも、警戒するのは必要だと思うし、避難訓練はやっておいた方が良いよね」

 私はそう言った。

 言いながら、三個目のパンに伸ばした手をユキに止められる。


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― 新着の感想 ―
頭脳労働もしてるんだからパンはもう一個食べさせてあげて欲しい…
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