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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
3章
20/215

3-1


 山小屋の増築は半月ほどで終わった。

 元からあった部分は料理場兼食堂として使い、他に二人分の個室を増築してもらった。

 そして、何とお風呂も作ってもらった。

 タイル敷きの床に、白木の湯舟、湯沸かし用の釜。

 現代日本人だった自分等からすると、ずいぶんレトロな感じだが、お風呂と言うだけで嬉しい。

 一応この世界にもお風呂はあり、村や街の一軒家では半分くらいの人は持っているらしい。

 持っていない人は知り合いのお宅で借りたり、銭湯で済ませたりするそうだ。

 リーナも街では銭湯通いだったと言う。

 後は離れとして、動物の解体や革の鞣しをする作業小屋も作ってもらった。

 大勢の大工さんが来てくれて、中でもリックさんが張り切りまくったので、建築は急ピッチで進んだ。

 完成して元の倍以上の大きさになった山小屋の前で、リーナと私はリックさんとがっちりと握手した。

「ありがとうございます」

「いや、こっちこそ、久しぶりにやって大工のカンを取り戻せたよ」

 リックさんは今年の麦の収穫が終わったら、再び街に戻り大工としてやっていくそうだ。


「さあて、お風呂に入ろう」

 リックさん達が帰ったその日の晩、早速、出来立てのお風呂を楽しもうと思う。

 夕食後にルンルンで準備をする。

「一緒に入ろうか?」

 いつの間にか背後に居たリーナがアヤしげに声を掛けてきた。

「ひゃっ、せ、狭いからいいです。リ、リーナさんが先に入りたいならどうぞ」

「冗談よ~、てんこちゃんが家主なんだから先に入って~」

 そう言って、離れていく。

 あ~、焦った。

 半月ほど一緒に居て、夏木梨衣奈について分かったことがある。

 別に彼女はそっちの趣味がある訳ではない。

 ただ単に寂しがり屋なのだ。

 それ故に陽キャとして振舞っている。

 いや、別に無理して陽キャを演じているなんて訳ではなく、陽キャだから自然に友達を欲し、友達が欲しいから自然に明るい言動をする。

 意識せずにそういう事が出来るからこその陽キャなのだろう。

 逆にそういう事を意識しすぎて細かく分析するのが、私が陰キャたる所以かもしれない。

 それでも、さっきのように私をからかいながらも、必要以上に絡んでこないところなんかコミュ力の高さがうかがえる。

 ともかく、脱衣所に一人で入り、服を脱ぐ。

 扉を開けて浴室に入った。

 湯船と釜は別々になっていて、家の外から竈の火を燃やしお湯を沸かして、それを湯船に移す。

 熱すぎる場合は、別の瓶に入れておいた水を足して調整するというスタイルだ。

 水は魔法でも出せるが、魔法は結構疲れるので、近くの川から汲んできて貯めている。

 湯船にはあらかじめ丁度いい温度にしておいたお湯を張っておいたので、桶に汲んで軽く体を洗う。

 シャワーとかないから桶で流すしかないが、なんか時代劇のお風呂みたいで面白い。

 ゆっくりと湯船に入る。

「うい~、極楽~」

 思わずそういう声が出る。

「湯加減ど~お?もっと燃やす?」

 窓の外からリーナが聞いてきた。

「ん~、ちょうどいいけど、後でリーナさんが入る用にもう少し沸かしておいた方がいいかな?」

「りょうか~い」

 なんかこういうやり取りもテレビの再放送の時代劇とかで見た気がする。

 湯船から上がり、しっかりと体と髪の毛を洗う。

 シャンプーやボディソープなんかは無いから、全部石鹸で洗う。

 髪の毛ゴワゴワになるかとも思ったけど、天然素材100%の石鹸だからか、そんなに悪くはない。

 洗い終わったら、もう一度湯船に浸かる。

 ゆったりと体を伸ばす。

 これまで自分一人だけでもなんとかなると思ってたけど、仲間が出来て生活も向上した今も悪くは無い。

 湯気に煙る天井を見上げて、そう思った。


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